ウィン【ωln】
「警告するぞ! ヘルメ!」
右手には男の首、左手には展開中の魔法陣。
男に左手を向けながら上空へ大声で叫んだ。
「僕を追ったらこの男を殺す!」
そうだ、こうやって人質を取れば良い。だがそれは今のところの話。次の一手を考えろ……! 思いつけ……!
ふっふっふっ
笑い声が空から返ってくる。心底嘲笑うような笑いだ。
「はぁ…あのな? そいつに価値なんて無いんだぜ?」
そう、ため息混じりに吐き捨てられる。
は? と、疑問符が湧く。
「ソイツはそこらの人間を改造して作ったからな。
偽の記憶付きの人形だぜ? 惜しい存在じゃ……」
ヘルメはいきなり言葉を詰まらせた。
……何かある。そう判断し、集中しながら言葉を投げかける。
「惜しい存在なのか? そうなんだろう?」
「……チッ」
「テツの命は、気にしないんだろ?なら、命以外になにかあるってことになるけど」
「はぁ……お前調子に乗るなよ?」
「…」
腹の底から熱いものが湧き上がる。僕の目は眠り続ける男に自然と吸い寄せられる。
この人は……被害者なんだ。僕の……父上や母上のように、体を変えられたんだ。
でも、テツは僕に話しかけてくれていた。少なくとも、完全に操られているように見えない。
まだ……この人は救えるのか?
迷う。すごく。もし出来るならば置いていきたくない。けれど、それは危険。ヘルメは僕を追跡してくるだろう。
姉ちゃんならどうする?
………決まってる
(村を守る! テツも救う! どっちもだ!)
「じゃあ交渉しよう!」
「なんだ?言えよ」
「僕を追跡しないことと、すべての神器を渡すこと、そしてもう二度と人を捕まえないこと!」
「はっ、そりゃ強欲だろ……お前が叶うのは一個目だけだっ! さっさと洞窟まで来やがれ!でなきゃ死ねっ!」
あの下品な口調で悔しそうな言い振りをする。そうだ、お前らがあの洞窟にさえ居てくれれば良い。
僕にはまだ見せてない奥の手がある。
リスクは大きいけど。
「っ! 仕方ない……今から行く、仲間全員でそこに居ろ!」
ここは折れた振りだ、油断させて、その隙を突く!
テツの肩を担ぎながら移動し、洞窟の入り口に立つ。その間も、ずっと監視されていた。その殺気は一つ、ヘルメだけ。
少し進むと真っ暗な洞窟の奥から視線が来る。
二つの殺気が、そこにはあった。
「いるな」
僕は出っ張った壁に隠れる。仲間はやはり、二人だけか? 他の殺気は感じられなかった
さて、あんなにたくさんの監視を付けるような、警戒心の高いやつが僕をノコノコ入れる?
そんなこと絶対にない。
だから、小声で唱え始める。
「——混じりし運命——遠く円光は———闇の調べを——今打ち砕かん」
先程から出し続けていた魔法陣は、ただそのままだった訳ではない。
魔力を限界まで高度化し、密度を高めた。
この魔力で放つ魔法の威力は普段の数倍っ!
詠唱もやり切った!
万事順調!
——バッ!
テツを下ろして、僕だけが壁から飛び出す。
「天柱!」
ピカッ!
洞窟内が白く染まる。
大きな光の柱が僕の目の前に降る。
————ドーン
爆音と岩が砕ける音が鳴り響く!
5秒経つと光の柱は柱の中心へ収束するように細くなった。
土煙が洞窟を舞う。
それが晴れれば、洞窟を上下に貫通する巨大な大穴が見えた。穴からは陽の光が差し込んでいる。
「……危機感知……止まった……」
視線も、一瞬で消えた。
——カチャッ
背後で落ちたものを見る。それは奇妙な形をした金属の虫。視線の正体はこれか……!
よく見てみると、他の場所にも転げ落ちている。それらは全部、死んでいた。
やった……よね?
考えていると、突然力が抜けて地面にへたり込んでしまう。
———ゴゴゴゴッ
「洞窟が……崩れる!……動け!動け!」
ダメだ、足が動かない!
天柱の魔力制御が……上手くいかなかった
天井の岩から砂の糸が落ちてくる中で、僕は思う。
(あぁ……ごめん)
「っ!」ブワッ
突然の浮遊感。すぐに体が担がれていると分かった。
僕を触れる手はすごく冷たくて、硬い。けど、しっかりと掴んで離さない。
「————テ、テツヤ」
「……あぁ、派手にやったな」
そのまま運ばれて、テツと共に洞窟を脱出した。
そこでやっと、肩から降ろされる。
未だ足に上手く力が入らない。
しかし僕をそっと支えるテツ。
「テツ、その……ごめん」
「……大丈夫だ」
と言うが、危機感知は彼が強く警戒していると伝えていた。当たり前だろう……
唾を飲み込み、口を開く。
「言わなければいけない事がある」
「?」
話すべきか、話さないべきか、少し悩んだ。彼の記憶は変えられている。これを理解するとショックで傷ついてしまうかもしれない。
……だけど話すことにした。家族がいるなら、合わせてやりたかった。
「そうだったのか……」
そう言って顔を手で拭う。その表情は見えない。
「だけど安心してほしい。奴らは倒した」
天柱を撃った直後から今に至るまで、テツを除きなんの視線も感じてない。
多分、即死だったんだろう。
「きみはもう、ヤツらの支配下にない。どう?僕達の“村”に来ないか?」
「…………わかった」
小さく覇気の無い声だった。
***
「よっしゃ大成功だぜ!カメラ越しでも感知できるのが仇になったな!ひひひっ」
「うわぁ、三下ムーブが板に付いてる。チープな映画の悪役でもラーニングしたか?」
「おぉ、オレを作ったやつの趣味でさせられたからな!」
どこか、暗い所で二機は話す。
「それにしても、凄い作戦だね。義理人情を理解した非道な作戦だ」
「だろぅ?ま、アクトが本当に独り身だった場合、皆終わってたんだがな(笑)。あと最後地味に危なかった」
「ナニワロトルネン」ガンッ
アームで頭上のヘルメに一発。
「笑わせろよ、賭けに勝ったんだ。オレの予測は正しかった。一人で食うにはデカすぎるドゥネルを何匹も持って帰ってたからなっ!それを三日に一回なんて、そりゃ他のナニカがある」
「この予備用洞窟の発見も。こういうことになると予想してか?」
「いんや、これは偶々。だが偶然もモノにしてこその強者だ」
ヘルメは得意げに話している。三人全員生き残れてかつ情報も取れる案なんて、最高だろう?と。
「(嘘だね…… ヘルメ、君の作戦はあまりに君本位だ)」
***
あの出来事の後、俺とアクトは村という所へ向かっていた。
大きな音と光で起きて、まず驚きだった。
洞窟が崩落しかけてるなんてな。
もうその時には、自然に体が動いていた。
アクトを運んでいる間にムバーとヘルメからおおよその事情の説明を受けた。
そこからは演技。
自分でもあんな演技が出来たことに驚く。
しかし、アクトにも驚かされたもんだ。なんとも賢いじゃないか? 魔法が使えるだけの子供じゃないって感心したよ。
[テツよぉ、調子どうだ?]
歩いていると、いきなり通信が入る。
[んーそう、結構良さげ。もうアクトが俺を攻撃することは無さそうだし。村とか言うところがどんなとこか次第だな]
[ここからはお前の視界を見る事は出来ねぇ。指示は出せるが気張ってけよ?]
[任せろ……とは言えんな]
[……君、アクトが目の前にいるのに冷静すぎないか? 裏切られたんだよ]
ムバーが割って入る。
[まぁ……絶対裏切られるとは思ってたし]
[もしかしたら、死んでいたよ……死ぬのは嫌じゃなかった?]
[死が一番嫌なことだってのは変わらない。人質にされてたって聞いた時はそれはもう恐ろしかった。けど俺、逆に冷静になってる。これでもう2回、死の目前まで来てる。
——頭冷やして対処しないと死ぬなって理解したんだ。頭じゃないところで]
[ふーん、へんだな]
あぁ、妙に頭の中がスッキリしている。
さて、村に行こう。
元の世界へ帰るために。
こんな世界にいちゃ、死んじまうからな。




