交わる流れと書いて交流
「しゃ、喋った」
「あぁ、喋るぜキミのお陰様でな。まずはこんな手荒な方法で連れてきたことに対し謝罪しよう。すまなかった」
「……え?なんなの、きみ、たちは」
そう、心底不思議そうな顔をする。
「俺たちは……遠い所から来た迷子みたいなもんでさ、ここのことをなにも知らなかったんだ。だから、言語だけでも知りたくてキミを攫った。もっと平和的に解決できれば良かったが」ガチャ
話の途中でブレードを出す。今度は10センチ程しかない。少年は体をピクリと動かし、身を引く動作をした。
「おっとごめん。今からロープを切るからじっとしていてくれ」
少年に話しかけながら、巻きついた金属ロープを背中側からブレードで慎重に切り始める。ギギギと嫌な金属音に少し鳥肌が立った。
「言葉を知りたくて僕を?それに……迷子?
……じゃあ、君達はドゥネルじゃ無いのか?」
少年は意外にも口を開いた。若い声は未だ震えているが、先程より落ち着きを取り戻している。
「ドゥネルってなんだ?ヘルメ、解析は?」
「分からねぇ。頻出だが、それに該当する言葉なし。つまり固有語だろうな」
「固有語か」
「……ドゥ、ドゥネルは、化け物達の名前だ」
「なるほど。だったら、俺はドゥネルじゃないよ。あんな風に人を襲ったり……したけど。うん、悪かったよ」ガンっ
金属ロープが解ける。そのロープは重く、鈍い音を鳴らして地面と衝突する。少年は椅子に座ったまま、できる限り大きく息を吸ってゆっくりと吐いた。
こんなに重かったのか。重量感覚が狂っていたから、分からなかった。これは辛いだろう。そんな感想を巡らせる。
「っ!」ガタッ
椅子から立とうとして、また座った。苦虫を噛み潰したような顔だ。その右脚が細かく痙攣している。
「おっと動いたら痛いぞ?弾は抜いたが傷口はそうそう治りゃしねぇよ」
「大丈夫か?!」
「うん…大丈夫」
と言うと、一息おいて手を傷にかざして唱える。その手をよく見れば幾何学的な黒い模様が入れられている。
「治療」
橙色の光が脚に集まる。他の三人はその光景に見入った。そして光が収まった後に少年は一言、よし、と呟くと椅子の上で右足をプラプラ動かした。
それを呆けて見てると、ムバーがズボンをくいくいと引っ張ってくる。意図を読み取った俺は、彼と少し距離をとった。
「君、すごいじゃないか。これが魔法か」
「さっきから、この声は誰?」
「こいつだ、俺の横にいる機械の箱。ペットだ」
「ムバーと呼んでくれ。ペットじゃない」
「わかった……えと…………僕、抵抗しないよ。キミに勝てないことは分かってるから。それに、もう理由も無いでしょ?」
俺らの警戒が流石にバレる。だが、この発言は嘘か誠か。
「ガキにしちゃ聡明だな!へへへっ!あ、自己紹介しなくちゃな。オレはヘルメ、よろしく頼むぜ」
「森の中で時々僕を見ていたのはキミ?」
「お〜〜〜その通り。よく分かったな」
「うん、殺気が特徴的だから。それじゃあ、僕の名前も言おう」
すると、しっかりと両脚で地を踏み締め立ち上がった。
「僕は【ナッス・アクト・ツナ】だ……よ」
震え声を張り上げた名乗り上げ。一瞬だけだが、とても堂々としていた。
「いいのか?名前を教えてくれて」
「うん」
「マジでありがとう。ツナ」
「……アクトって言ってほしい。なんかその呼び方は落ち着かないや」
「わかったアクト。そうだ、腹減ってるか?詫びとしては最悪だけど、味の悪い飯がある」
「じゃあお願い」
そんな訳でアクトと洞窟を移動する。AI二人組は、また使うかも、と機械を改良する為その場に残った。
アクトは所々に配置してある白色ライトや機械類に気が向くのか、ずっと目を動かしていた。途中、声をかけられる。
「ねぇテツ」
「?」
「テツは神器が使えるのか?あっ神器っていうのは、魔力要らずで奇跡が起こせる道具のこと。ほらあの時持ってたものとか」
「…あーなるほど、それはこういうの?」
腰から&SSを取り出して見せた。すると、やはり興味津々に全体を覗き込むようにマジマジと観察する。
「使えると言えば使える。なんなら、アクトも使えるぞ。これを敵に向ければザッパン!て切れる」
「え!やっぱり……!すごいよ、テツ」
「…ふっ、凄いのはこの武器だ。だがありがとう」
「あっ、あれは何?」
指差す先には、3つの物が道の端に置かれている。ピンク色の手鏡に、テフロン加工のフライパン、あとは変なロゴ入り靴下のかたっぽ。
「あれは森を色々探索してる時に拾ったものだ」
「へーこんなのあるんだ。いつも急いでるから全然見えてなかった………」
「まぁそんなに役立つモノでもない。フライパン以外はな」
そんな他愛も無い話をしていると、何故か緊張がほぐれていく。あぁ、この緊張はここに来た時からずっと感じていた。だから、今の時間が素晴らしく温かいものに感じる。
さて、交流の喜びもそこまで、食糧が保存されている場所へと着いた。
「この…...棒?を食べる......」
「当然いつもじゃないからな?緊急時でこれしかないんだ。味は保証しないが、栄養満点、ほぼ薬みたいなもんさ」
ポリ……ポリ……アクトが食べる音が洞窟に響く。なんとも言えない微妙な顔をしていた。
美味しくない…が食えなくもない。それを良く表した顔だった。
「にしてもキミは強いな」
「でしょ?僕は結構強いんだ。なかなか腕が立つ」
「それもあるけど、そういうことじゃなくてな。アレだけ泣いてたのに今こうケロッとしてるから不思議で」
「……まぁね!僕は精神も強いから」
とニコリと笑う。本当に強いらしい。
「それと、本当に無礼なんだが、ここのこと、色々聞いて良いか?」
「いいよ、なんでも答えられると思う。ここには長く居るから詳しいし」
「長く……か、じゃあこの辺に村とかあるのか?」
「ないよ、家一軒足りともね」
「ん?じゃあアクトはどうやって暮らしてるんだ?まさか野宿ってわけじゃないよな」
「その通りだよ。毎日、夜は野宿して過ごしてる」
「キミの家族も一緒に野宿を?」
「父上、母上……はもう死んでる……僕だけだ」
「……悪いこと聞いたな。なにか手伝える事があったら言ってくれ。大体のことはやるよ」
「……そう、ありがとう」
軽く笑っているが、その内心がどうかは計り知れない。この世界にはこういう子も居るのか。なんとも自分の身さえおぼつかないが、守ることが出来るならば、それは良い事だろう。
そう平和ボケしていた俺だが、この子が本当に強いことを知るのは、後のことだった。




