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第二話 ②

 午後四時――いつもなら家族みんな在宅している時間だ。でも、誰も私の部屋に来る様子はない。ハンスお兄様には嫌われているから当然かもしれないけど。


 もしかして、出かけているのかしら?


「マリー、みんなはどうしているの?」


「旦那様と奥様は外出しております。お戻りはもう少し先の予定ですが、先ほどお嬢様が目覚められたことを知らせに遣いの者を送りましたので、きっとすぐにお帰りになるはずです」


 あ、やっぱり。


「カタリーナとハンスお兄様は?」


「お二人は……」



 マリーの表情が曇るのを見て、胸がざわめく。


「何かあったの!?」


「目覚めたばかりのエミリアお嬢様には、とてもお伝えできません」


「いやいやいや! そんな言い方されたら、余計に気になって仕方がないわよ! 教えてちょうだい!」


「ですが……」


「マリー、お願い! あっ! でも、待って! 最初に二人は元気で、い、生きてるかを先に教えて……!」


 声が震えてしまう。


「は、はい、カタリーナお嬢様は、元気でいらっしゃいます」


「よかった……」



 待って、カタリーナお嬢様“は”?



「ハンスお兄様は? 何かあったの?」


「エミリアお嬢様が眠っていらっしゃる間、とてもたくさんのことがございまして。ですが、病み上がりのお嬢様にはあまりにも酷なお話です。私の口からは、とても……」


「私は大丈夫よ。このまま何も知らずにいる方が辛いから教えてちょうだい」


 マリーは悩みながらも、重い口を開いた。




「なんてこと……」


 この三年間で、驚くことになっていた。


 私が住むモラエナは、海を挟んで隣にある大国デュランタの土地を狙い、戦争を起こしていた。


 無謀にもほどがある。モラエナは小国、どう頑張ったってデュランタに敵うはずがないのに。


 結果は当然、敗北――。


 指揮を取っていたのは、私の婚約者ジャック王子……とても酷いものだったらしい。


 たくさんの兵が亡くなり、ハンスお兄様も戦争へ向かい、行方がわからなくなっているそうだ。


 デュランタは寛大で、敗北した我が国に和平の提案をしてくれた。和平を結ぶ儀で、ジャック王子はデュランタのレオン王子に、毒を盛ったそうだ。


 なんてクズ……!


 そんなことを企んだあの馬鹿は、その場で処刑されてもおかしくない状況だった。でも、レオン王子がすぐに吐き出して毒が回るのを免れたこともあり、ジャック王子は助かったそうだ。


 あのクズ、なんて悪運が強いのかしら。


 けれど、デュランタ国の怒りの矛先は、ジャック王子を通り越し、我が国へ回ってきた。


 デュランタ国は、大神官に我が国へ呪いをかけさせた。モラエナの上空は厚い雲で覆われ、太陽の恩恵を受けることができなくなった。


 結果――我が国では、良質な作物が取れなくなった。


 輸入された作物を手にするには大金必要で、貴族にはそれが可能でも、市民はそんなわけにいかずに苦しんでいるそうだ。


 ハンスお兄様……。


 嫌われていても、実兄じゃなくても、ハンスお兄様は私の兄だ。兄妹としての情がある。


 どうか無事でいて欲しい。ひょっこり帰ってきて、いつも通り私のことなんて構わず、いつものように日常を過ごして欲しい。


「カタリーナも外出しているの? 綺麗になったでしょうね。早く会いたいわ」


「カタリーナお嬢様は……あの、落ち着いてお聞きくださいね」


「? ええ、わかったわ」



「……去年、ご結婚なさいました」



「えっ! あの子が!? あ、そうよね。もう十七歳だもの。結婚しても、おかしくない歳だったわね」


 私は十五歳で疫病神……じゃなくて、ジャック王子と結婚させられるところだったし。刺されたおかげで(おかげでって言っていいのかしら)三年は逃げられたけれど、今後はどうなるのかしら。


 カタリーナの挙式、参列したかったわ。あの子のウエディングドレス姿、とっても綺麗だったでしょうね。


 カタリーナの愛らしさは、どんな巨匠でも表現しきれないはずだわ。あーあ、本当に残念!


「それでどなたと結婚したの?」




「……ジャック王子です」



「えっ」




「エミリア様のご婚約者だった、ジャック王子です」




 ――なんですって!?


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