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マンフは異世界へと召喚された  作者: じいちゃんっ子


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閑話 斎藤さんと君島さん

 なぜか分からないが、私達は戻って来られたようだ。

 さっきまで異世界に居たのに、何が何だか分からない。


「さ…紗央莉なのか?」


「…亮二、久しぶりね」


 混乱する私の名前を呼ぶ亮二。

 随分と若々しい姿ね、あっち(異世界)じゃジジイだったのに。


「本当に紗央莉だ…」


「そうね、また若いあなたに会えて嬉しいわ」


「お前もな」


「はい?」


 まさか私も元の姿に?

 そういえば指や腕がシワシワじゃない。


「ほれ」


「退いて!」


 亮二が部屋に置かれていた鏡を私に向ける。

 そこには映っていたのは私。

 異世界へ召喚された時に巻き戻った若々しい私の姿だった。


「よかったな紗央莉!」


 感極待った亮二が両腕を広げる、だが今は鬱陶しい。


「コイツは!」


「ゲッ!!」


 力一杯亮二の顔面を殴りつけるが、奴は顔を歪ませただけ。

 私の拳も痛い、異世界なら数メートルは飛ばせていたのに。


「あ…あの」


「ん?」


 痛む拳を擦る私に恐る恐る川島さんが声を掛ける。

 そういえば、さっき浅利君とキスしてたっけ。


「お二人も帰って来られたんですね」


「見ての通りね、どうしてか分からないけど」


「やった大成功!」


「ウッシ!!」


 川島さんと浅利君は大喜びで抱き合う。

 一体なんなんだ?意味が分からない、


「ちょっと説明してよ」


「そんな事より紗央莉、見ろ」


「何?また殴られたいの…」


 話の邪魔をする亮二を殴ろうと振り返ると、奴が手にしていたのは…


「ラーメン……」


「そうだよ、インスタントラーメンだ!」


「あぁぁぁぁしかも醤油ラーメン!」


 私は亮二からカップラーメンを受け取り、記憶の奥底に眠っていた手順で蓋を捲り、粉末スープを掛けた。


「お…お湯はどこ?」


「落ち着け、確か…」


 二人カップラーメンの器を持ち、部屋の中を見渡す。

 どこだったか、ああ思い出せない!


「亮二、電気ポットならそこに…」


「おお!!」


 浅利君が指を差した先に電気ポット。

 亮二は私に先を譲ってくれるようだ。


「出ないじゃない」


「落ち着け、たしかこのボタンを…」


「あ、出た!!」


 熱い湯がカップの中へ注がれていく。

 立ち上る湯気、ああ醤油の香り…


「蓋をした方が良いですよ」


「そ…そうね」


 川島さんの言う通り、美味しく食べるなら蓋は絶対よね。


「そろそろ3分です」


「おお…」


 川島さんが蓋を捲る。

 なんて芳醇な香り、そして魅惑的な麺と瑞々しさを取り戻したチャーシュー…


「旨い…」


「…美味しい」


 割り箸を受け取り、一口食べてからの記憶が曖昧だ。

 気づけば最後の一滴までスープを飲み干し、完食していた。


「落ち着きました?」


「恥ずかしい所を見せたわね」


 川島さんの視線が恥ずかしい。

 仕方ないでしょ、インスタントラーメンとはいえ日本食…いいえ美味しい食事にありつけたのは数十年振りなんだから。


「おにぎりも食べます?」


「…頂くわ」


 震える手で川島さんからおにぎりを貰う。

 また目の前が…


「…はいどうぞ」


「ありがとう…」


 川島さんからティシュボックスを受け取る。

 今度は号泣していたみたい、お米は偉大だ。


「…なんか二人共苦労したみたいだな」


 そんな憐れむ視線を送らないで欲しい。

 浅利君達だって、私と亮二の境遇を過ごしたら同じ気持ちになるから。

 それだけ食文化が低い世界だった。


「とりあえず、あれからどうなったんだ?」


「あれからって?」


「その、俺と川し…美愛が死んでから」


 なんで浅利君は川島さんを下の名前で呼んでるの?

 川島さんも赤い顔でモジモジして、何この甘い世界は。


「亮二なにかあんたも…」


「すまん、紗央莉が説明してやってくれ」


「分かったわ」


 亮二はテーブルに置かれたままだった冷めてブヨブヨに伸びたカップラーメンを泣きながら食べている。

 あれって、確か異世界に召喚される直前に亮二が食べようとしてたやつよね。

 どうやら記憶がはっきりしてきた。


「私達はあの後、勇者パーティに参加したの」


「へえ…」


「凄いな」


「別に凄くないわ、異世界から来た私達はジョブが無くても凄い力が授かっていたから」


「亮二、そうなのか?」


「だから紗央莉に聞けって」


 亮二のバカは置いておこう。


「大体身体能力は10倍くらいあったわね。

 厚い土壁も殴れば穴が開くし、金属の鎧も簡単に斬れたから」


「凄い…」


「でも勇者は私達の10倍、つまり100倍の力だった」


「はあ?」


「アイツがですか?」


「納得出来ないでしょ」


「当たり前だ!」


「世も末です」


 本当にその通り。

 いくら勇者はチート能力者だとしても、意味が分からない強さだった。


「それで魔王は倒せたのか?」


「いいえ、私達が生きてた間は無理だった」


「生きてる間って、二人共死んだのか?」


「そうよ、先に亮二が…ね?」


「スマン…」


 亮二が椅子から飛び降り、私に土下座をする。

 本当は頭を踏んづけてやりたいが、今は我慢しよう。


「その…亮二が先に死んだのは分かったが、なんで魔王は倒せなかったんだ?

 勇者と聖女の勇者パーティは弱かったのか?」


「いいえ、勇者パーティが弱いというより、魔王軍が強すぎたの」


「そんなにか?」


「そんなによ」


 実際魔王軍は強かった。

 数も圧倒的で、いつも戦場は私達の倍以上だった。


「特に魔王軍の幹部3人、本当に強くてね」


「ああ、2人までは倒したんだ。

 俺も頑張ったんだせ」


 自慢げに話へ加わった亮二。

 確かに頑張ってたのは認めるけどさ。


「私達はそこまでだった」


「なんで?」


「年を取ったからよ、いわゆる老化ね」


 30年以上頑張った。

 でも50歳を迎える頃には力が衰え、どうしようもなかった。


「それで?」


「とりあえず魔王軍の侵攻は止まったから、私と亮二は引退して王国から報奨金を貰って商売を始めたの」


「商売を?」


「ええ、武器や雑貨を扱うお店。

 別に働かなくても生活出来たんだけど、それって退屈でしょ?」


 魔王を倒さない事には帰れない。

 かといって自分から死ぬのはイヤだ。

 なら残された時間をどうするか、だから始めた商売だった。


「結構儲かったんだぜ、英雄夫婦が営む店って」


「夫婦?

 亮二、君島さんと結婚したのか?」


「まあな、長い事一緒だったし」


 亮二は何を照れてるんだ。

 自分の最後を忘れたのか?


「コイツの最後を教えてあげる」


「止めろ紗央莉!」


 バカの後頭部を叩き、足元を掬いあげる。

 体術はまだ身体に染み込んでいるようね。


「確か65歳の時だったわね、調子に乗ったコイツは私の目を盗んで娼館に行って…」


「娼館って?」


「娼婦の居る娼館ですか?」


「そうよ、簡単に言えば売春宿ね」


「止めてくれ…」


「若い娼婦の腹で腹上死よ」


「あちゃー」


「やっちゃいましたね」


「おぉ…」


 浅利君と川島さんは呆れるだけで済むが、私はそれからが大変だった。


 元勇者パーティの英雄が若い娼婦とコトの最中に腹上死。

 私がどれだけ恥をかいた事が…


「スマン…」


「黙れ…」


 死にたい程の屈辱だった。

 周囲からの憐れむ視線に耐えながら残りの人生を過ごす羽目になった。


「…で君島さんはそれから何年生きたんですか」


 川島さん話を変えたつもり?

 亮二にはお仕置きをしないといけないのに。


「まあ良いわ、それから20年くらいね。

 最後は皺くちゃの婆さん。

 いつも眠くて、気づいたらここだったから多分大往生だったんでしょ」


「なるほど、亡くなったから帰還魔法が発動したんですね」


「帰還魔法?」


「ええ浅利…政志さんの」


「政志、お前成功したのか?」


「まあな、だから帰って来られたんだぜ」


「政志!」


「亮二!!」


 激しく抱き合う2人は置いておこう。


「川島さん、貴女も浅利君の魔法に協力してくれたのね」


「は…はい」


 顔が真っ赤ね。

 さっきのキスも魔法の為、つまりそういう事か。


「政志、腹上死の最後ってどうだった?」


「胸が痛くて、死ぬかと…いや死んだんだな」


「黙ればか!!」


 浅利君とバカ話で盛り上がる亮二を力一杯蹴り飛ばす。

 全く死んでも反省しないわね。


「2人の最期は分かったけど、アイツらはどうなった?」


「勇者マンフと聖女フミカの事?」


「勇者マンフ?」


「誰それ?」


 おっと、2人は知らなかったわね。


「聖女フミカはそのまんま史佳のことね、マンフは馬場満男の通り名よ」


「なんでマンフなんだ?」


「勇者ババがいやだったんですって」


「…よく分からない」


「どっちの名前もいやです」


 川島さんは顔を歪ませる。

 本当に嫌いな幼馴染だったんでしょうね。


「私と亮二が引退してからもあの2人は戦い続けてたわ。

 私が死ぬ前も討伐を止めたって聞かなかったから、最後まで戦ってたんじゃない?」


「80を過ぎてか?」


「そうよ、フミカは全く老けない加護があったけど、マンフは悲惨だったわ。

 禿げて腰が曲がっても、フミカは体力増強の魔法をマンフに掛け続けたから、ヨボヨボで魔王軍に突撃させられてたみたい」


「…悲惨だな」


「もしかして満男が憎かったんでしょうか?」


「さあ?

 フミカは次に転生する時の研究とか言ってたらしいわ」


 フミカの真意は分からない。

 でも必ず生き返って政志に謝るとか言ってたけど。

 今の浅利君と川島さんの仲睦じい姿を見たら…


「仕方ないんじゃない?」


「何がです?」


「内緒よ。

 それより亮二、ゆっくり話し合おうじゃない」


「勘弁してくれ…」


 ここに馬場満男と史佳の姿は無い。

 それなら今は黙っておこうと思った。


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