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マンフは異世界へと召喚された  作者: じいちゃんっ子


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3/5

閑話 政志と美愛

「…川島、しっかりしろ」


 私を呼ぶ声に目を開ける。

 そこには不安そうな顔をした浅利君が私の名前を呼んでいた。

 さっき見た血だらけの姿じゃない。

 傷一つ無い、いつもの優しそうな浅利政志君がそこにいた。


「美愛って呼んで…」


「は?」


 どうせなら希望を叶えて貰おうじゃない。

 生きている時は、バカ(馬場満男)に邪魔されて1度も言って貰えなかったし。


「おい、しっかりしろって!」


「アブブブ!」


 激しく両肩を掴まれ、前後に揺すられる。

 これって走馬灯なの?

 走馬灯って昔の記憶が思い出されるものでこれじゃ脳震盪しか起きないよ。


「…浅利君」


「そうだよ、帰って来たんだ」


 少しホッとしたような浅利君の顔。

 走馬灯じゃなかったのは最初からわかってた。

 私は賭けたんだ。

 必ずこの世界に戻って来られるんだって。


「浅利君!」


「お…おい」


「浅利君…浅利君…浅利君…浅利君…」


 浅利君の胸に顔を押しつける。

 満男(馬場満男)にストーカーされ続けた人生だった。

 それが終わり、これから素晴らしい生活が始まるの。


「…落ち着いた?」


「…はい」


 数分後、私は浅利君の前で項垂れていた。

 生きて戻って来られた喜び、見せてしまった醜態。

 2つの感情がぐちゃぐちゃになって、顔を上げられない。


「とりあえず整理しようか」


「そうですね」


 現状を把握しよう。

 ここは高校のラグビー部の部室、さっきまでの体験は悪夢だったと思いたい。


「夢じゃないんだよな…」


「みたいです」


 テーブルに置かれたままのお昼ご飯。

 浅利君の右手には食べかけのおにぎり。

 お箸の置かれたままの弁当箱と湯気の立ったカップ麺。


「亮二達は居ない」


「ええ、君島さんと楠…君島さんも」


 楠野さんの名前を言いかけて、言い直す。

 バカ(満男)と性悪女(史佳)なんか出してやるもんか。


「今の時間は…12時30分」


「確か転移した時は12時24分でした」


「よく覚えてるな」


「はい、たまたまです」


 嘘だよ。

 本当は浅利君の隣に長く座るとバカの機嫌が悪くなる。

 アイツから20分だけと決められていた。

 それを過ぎると後が面倒になるから、時間は絶えず確認していた。


「俺って死んだよな」


「はい確かに死にましたね」


 暗くならないよう明るく振る舞う。

 あれは夢の話、そう思わないと心が持たない。


「帰還魔法…上手く行ったのか」


「ですね、大成功です」


「そっか…」


 こうして私は浅利君と並んでいる。

 成功したのは間違いない。


「ありがとう」


「浅利君…」


 浅利君は私に頭を下げた。


「あの時、意識が遠退いて…もう少しで魔法が使えそうな感覚があったのに息が出来なくて、気づいたら川島が俺の口に…」


「はわわわわ!」


 一気にあの時の光景が頭に蘇る。

 口から血を大量に噴き出した政志さん。

 それまで必死に口を動かし息をしようと足掻いていたが、呼吸が止まってしまった。

 それまで一緒に励ましていた楠野史佳は、浅利君の最期に黙って立ち去った。

 それでも諦められない私は浅利君の口から血を吸い出した。


 …自分の口を使って。


「それで俺は帰還魔法を」


「間一髪でしたね」


「本当にな。

 でもなんで俺が帰還魔法を使おうとしてるって分かったんだ?」


「だって、浅利君全く諦めてなかったから」


「諦める?」


「普通は絶望しますよ、もう死んじゃうって」


 馬場(ウジ虫)にあれほど酷い怪我を負わされ、自分が助からないとなったら、きっと諦めてしまう。

 それなのに浅利君は最後まで足掻こうとしていた。

 だからきっと魔法に賭けていると分かった。


「…そうだった」


 頭を掻きながら浅利君は微笑んだ。


「でもなんで川島さんがここに?

 俺は帰りたいの一心で魔法を使ったんだけど」


「それは分かりません、私も死んだ事が関係しているかも」


「死んだ?

 まさか馬場に殺さたとか」


「いいえ自分からです」


「な…なぜ」


 浅利君びっくりしてる。


「だって浅利君が死んでしまったら私は生きていけません」


「それって、つまり…」


「浅利君…いいえ政志さんが好きだからですよ」


「好きって、だって川島さんは馬場の…」


「違います、馬場君は幼馴染。

 それだけの事、むしろずっと嫌いでした」


「マジかよ…」


「気づきませんでしたか?」


「ごめん…全く」


 申し訳なさそうに浅利君は私を見た。

 ずっと馬場満男という男によって私の尊厳は踏みにじられてきた。

 満男は偶然同じ幼稚園に入ったに過ぎなかった。

 それだけなのに奴は私を守る為と言って、近づいて来た人達を全て排除してきた。


 そのせいで、親しい友人も作れず性格も内向的な物に捻じ曲げられてしまった。

 保育園のお遊戯会に始まり、クリスマス会、果ては運動会のペア競技、悉(ことごと)く私の隣には満男が居た。

 1度だって私が満男に頼んだ事は無い。

 むしろ止めて欲しいと何度もお願いした程だ。


「その…親に言わなかったのか?」


「もちろん言いましたよ、何回もです。

 親や先生達にも」


「それで?」


「無駄でした、アイツは外面が良いからみんな騙されてしまうんです」


 狡猾な満男は私が内気な性格なのを逆手に取り、周りとの仲を取り持っているだけだと言い張った。

 外面は良く、狡賢い満男。

 大きくなってから表立っての干渉に加え、裏からも手を回し始めた。


 特に男の子に対する警戒は酷かった。

 暴力ではない、男の子の周りに悪評を流す等し、排除していた。


「馬場はそこまで酷い奴だったんだ」


「浅利君アイツに殺されて、まだ言います」


「そうだよな…」


 呑気なのか、鈍いのか。

 あれだけの目に遭わされたのに。


「史佳まで寝取られたのに」


「政志さん…」


 あの二人はキスくらいしてると思ったが、既に寝取っていたとは思わなかった。

 君島さんから最初の頃

『浅利君と距離が近すぎる、彼は楠野さんの恋人なんだから』

 そう忠告は受けていた。

 だから自制していた、その隙を二人は突いたのだ。


「史佳の浮気にも気づかない、俺は間抜けな奴だったって事か」


「そうかも…しれないです」


「そこは否定してくれ」


 少しムッとする浅利君。

 だって、楠野史佳が満男に何かあったのは直ぐ分かったのに。


「だって最近楠野さん様子が変でしたよ。

 浅利君に対しての視線とか、あと馬場のどこか勝ち誇った態度も」


「斎藤のやつ、知ってたのかな?」


「分かりません、でも君島さんは薄々何かに感づいていたみたいです」


「君島さんが?」


「はい、紗央莉さんも過去に色々あったみたいですよ」


 少し前くらいから君島さんは私を応援すると言っていた。

 もう史佳とは一線を置くとも。


「その辺を亮二や君島さんから聞きたいな」


「それは戻ってからですね」


「だな」


 それがいつになるか分からない。

 なにしろあの二人(馬場満男と楠野史佳)が勇者と聖女なのだ。

 特に満男が務めを果たすとは思えない。


「もう政志さんの魔法って使えないんですか?」


「何を言ってるんだ?」


「だって戻ったらジョブは消えるって言ってましたか?」


「そりゃ消えるだろ」


「分かりませんよ」


 物は試しって事もある。


「やってみるか」


「頑張って」


 自分で言ってて何をどう頑張って貰うか皆目だけど。


「グムム…」


 必死で祈るけど、辺りに全く変化が無い。

 額一杯に汗をかきながら、浅利君は何度も唸り声を上げた。


「ダメだ」


「そうですか」


 唸る事30分、遂に浅利君は音を上げた。


「少し状況を変えましょう」


「変える?」


「あの時を再現するんです」


 浅利君を仰向けに床に寝かせ、両腕を広げて貰った。


「さあ、もう1度」


「これ、意味あるのか?」


「無いとも限りません」


 たぶん意味は無い。

 私がもう1度再現して欲しいだけの事。


「ムムム…」


 そして更に10分、当然変化は無い。


「次は服をこうして」


「お…おい」


 カッターシャツのボタンを外し、上着を捲る。

 筋肉質の厚い胸板、これは堪らない。


「再現です」


「なんか川島、性格が変わってないか?」


「かもしれません。

 なにしろ一回死んだんですから」


「俺は変わってないぞ」


「いいから」


 仕方ないでしょ、今まで抑圧されていたんだから。


「ダメか…」


 案の定だが変化は無い。

 最後は…


「お…おいって」


 床に正座して浅利君の頭を膝に乗せ、顔を近づける。

 ようやく仕上げ。


「ま…待て」


「嫌ですか?」


 どうやら私の意図に気づいたみたい。


「その俺には…」


「史佳さんはもう居ませんよ」


「そうじゃなくて」


「それじゃなぜ?」


 私のことが嫌いなの?

 あんな奴(馬場満男)と浮気するような女(史佳)に私は負けるんだ。


「…悔しいよ」


 涙が溢れる。

 浅利君の顔は私の涙で濡れて行く。


「分かった…」


「浅利君…」


「まだ気持ちの整理が追いつかないけど、俺を救ってくれたのは川島だから」


 その言葉に心が満たされて行く。

 再び浅利君の顔を両手で包み、唇を重ねた。


「川島…」


「美愛って呼んで。

 さっき言ったでしょ」


「美愛…」


 もう1度口づけをする。

 当たり前だが、吸い付いたりしない。

 人生三回目のキス…


「な、なんだ!」


「なにが起きた…って、二人共なにしてるの…」


 突然の声に振り返ると、驚いた顔で私達を見る斎藤亮二君と君島紗央莉さんが椅子に座っていた。

次もう1話、閑話を追加します。

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