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マンフは異世界へと召喚された  作者: じいちゃんっ子


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マンフとフミカ

「シネ!」


「…ふぁ?」


 魔王の持つ魔剣がマンフの首を一閃する。

 首は宙を舞い、斬られた首元から鮮血が噴き出した。


「聖女様!」


「分かってます」


 急いでマンフの身体に駆け寄り、首を拾って来た兵士から受け取る。

 蘇生魔法は時間との戦い、早くしないと間に合わなくなる。


 ここまで共に戦ってきた兵士は必死で魔王の前に立ち塞がり時間を稼いでいる。

 マンフはどうでもいいが、他の者は一人たりとも死なせる訳にいかない、早くしないと。


「蘇生(Resus)」


 白目を剥いたマンフの首が身体と結ばれ、傷跡が消える。

 しかしマンフの呼吸は止まったまま、心臓も動き出す様子が無い。


「寿命か…」


 どうやら魔王と戦う前にマンフの命は尽きかけていたようだ。

 強化魔法でここまで無理やり動かしていたが、首を斬られた瞬間魔法が解け、元の身体は耐えられず死んだみたい。


「クソが!」


 皺くちゃのマンフの首を蹴り上げる。

 砕けたマンフの首が千切れ魔王の近くに転がった。


「フハハハ…」


 魔王は邪悪な笑みを浮かべながら首を拾い上げ、口に運ぶ。

 魔族にとって勇者の血肉は大好物、食べたところで強化される訳でもない、単に美味しいらしい。


「今の内に早く」


 魔王が夢中で食べている今が兵士達の逃げるチャンス。

 傷ついた兵士達は一斉に魔王の玉座から離れ私の元に集まった。


「…グェップ」


 魔王の咀嚼音が部屋に響く。

 首を食べ終わった魔王は次にマンフの身体を首から食べ始めている。

 何回見ても悪趣味な光景だ。


「治療は以上ね、他に怪我人は?」


「これで全員でございます」


「そう」


 どうやら全員助ける事が出来たみたい。

 何人か死んでたけど、蘇生魔法が早かったから生き返ってくれたし


「先に帰ってます…」


「聖女様…また後ほど」


 眩い光が私を包む。

 勇者が魔王を倒せなかったから、私も一緒にやり直す。

 それがこの世界に召喚された時の決まり。


「パーフェクトヒール」


 消える直前に私は自分の身体へ治癒魔法を掛ける。

 今回も全く怪我をしなかったが、なぜか毎回欠かさずにしていた。


「やれやれ…」


 光が収まると、召喚された最初の部屋に私は立っていた。

 また最初からやり直し。

 戻るのは場所だけ、時間は最初の召喚からずっと流れている。


「もう一息でした」


「そうでございますか、次こそは期待しております」


「ええ」


 魔法陣の部屋で待機して居た王国の関係者達に焦りや落ち込んだ様子はない。

 今回で1026回のループが終わった事になる、お互い慣れた物。

 魔族の侵攻も800年前に終結した。

 現在の魔王領は魔王城の周りだけ、それ以外は全て人間の領地に併合された。

 魔王が発する瘴気は身体に悪い。

 奴を倒せば世界は全部人間の領地となる。


「ほら起きろ!」


「フゲ!」


 隣で呑気に眠るマンフに、強化魔法を掛けた脚で蹴り上げる。

 マンフはどれだけ酷い殺され方をしても、こうして生き返る。

 本当に便利な身体だ。


「アアハウゥ゙…」



 少し力を入れすぎたかもしれない。

 壁に叩き着けられたマンフの四肢はあらぬ方に折れ曲がり、凹んだ壁一面に血飛沫刺が染まっていた。


「ヒール」


 また死なれては困る。

 マンフに治療魔法を掛け部屋を出る。

 毎回の事と理解している兵士達は気を失ったマンフの身体を引きずり片隅に置かれたベッドに放り投げる。


 マンフに対する彼等の扱いが粗雑なのは、過去数回の討伐中に同行していた女達に飽き足らず、各地でも女性へ乱暴狼藉を働いたからだ。


 当時の私はまだマンフに力で勝てず、どうする事も出来なかった。

 女達の心と身体の傷を癒すしか出来なかった。

 今は私の方が完全に上だ。

 なにしろ私は召喚以来1度も殺されていない。


 魔法も知恵も全てに於いて実力が蓄積されている私と、毎回殺されて一からやり直しているマンフでは比べる間もないだろう。


「ふう…」


 城内の最上階に作られた自室へ戻り、部屋に置かれていたベッドに倒れ込む。


 今回もダメだった。


 私の実力を持ってしても魔王はどうしても倒す事が出来ない。

 本当はマンフの力なんか使いたくないが、私がどれだけ魔王を痛めつけても奴は死なない。

 止めの一撃は勇者と決まってるようだ。


「もっと効率よくいかないと」


 魔王城へのルートをこれ以上縮める事は無理だ。

 この数百年の間に王国から魔王城までの間は整備された街道が作られ、途中には宿場町も出来たから、馬車でスムーズに移動出来る。


 一気に駆け抜ければ、半年程で到着出来るが、それでは兵士達が疲れてしまう。

 だから1年の時間を掛けているが、

 450年前、初めて魔王城へ辿り着いた時は旅立ちから8年も掛かったのに比べたら隔世の感がある。


 最大の懸念はマンフの寿命がここへ戻される度、どんどん短くなって来ている事。

 最初は気の所為かと思ったが、この数百年で確実に老いて来ている。


 中年から壮年、そして老年。

 前回も80過ぎのジジイだったが、今日は更に老けこんでいた。


「会話も成立しない、完全にボケてる」


 このまま失敗が続けば、いずれマンフは討伐に出る前に寿命を迎える事になるだろう。

 若返りの魔法さえあれば苦労しないのに、残念ながらそんな魔法は存在しない。


「あらかじめ魔王を弱らせて、檻かなんかで閉じ込め、その外からマンフが聖剣を刺すとかすれば…」


 アイデアはまだ沢山ある。

 諦めないでやっていこう。


「お食事の用意が出来ました」


「ありがとう」


 部屋に運ばれて来た豪華な料理の数々。

 食事も随分美味しくなった。

 最初の頃は肉や魚の調理方法は焼くしか無かった。

 調味料も塩と砂糖、後は香辛料らしき粉くらいで、私は果物ばかり食べていたが、長い異世界生活の中で食事の改善を訴えて来た甲斐があった。


 魔王との戦いに一段落して、人々に余裕が出来たからだろう。


「うん、美味しい。

 これなら紗央莉と亮二も満足するわね」


 ふと呟いた言葉に違和感が募る。


「…紗央莉と亮二って誰?」


 そんな人はここに居ない。

 異世界から召喚されたのは私とマンフの二人だけのはず。



「…後で調べよう」


 食事を終えた私は王国の書庫に入る。

 数万冊に及ぶ膨大な蔵書、殆どが私に関する書籍。

 女神とか、救世主だとか、私を讃える物ばかりで内容も胡散臭い。


「これか…」


 遥か頭上に並んでいた一冊の本に手を伸ばす。

 魔法って本当に便利だ。

 本は棚を離れ、私の前に降りて来た。


「えーと…」


[聖女フミカ魔王討伐史 第1篇]

 題名にマンフの名前がないから、おそらく千年近く前に書かれた物のようだ。

 これ以上昔に私の事について書かれた書籍はない。


「ふむ」


[英雄サオリー]

[大聖女フミカ様と共に異世界から召喚された英雄。

 フミカ様と共に最初の魔王討伐へ旅だたれ、数十年の苦楽を共にする。]


[齢48にして先に旅を終え、共に召喚されていたリョージと結ばれる。

 リョージが亡くなった際、サオリーは夫の為とフミカ様に願い、王国より[バカタレ]という1代限りの称号を賜った。

 サオリーが亡くなった時、フミカ様はたいそう悲しまれ、またの再会を願った]


「…へえ」


 そんな人がいたなんて実感が無い。

 二人の顔や旅の記憶も、千年以上生きてると昔の記憶がボケて来るのは当然。



[最初の旅を終えられ、再び王国に戻られたフミカ様はマサシ様やミチカ様、サオリー様とリョージ様がいなかった事に酷く狼狽えられた。]


「マサシ…ミチカ…」


 一体誰だろう?

 私の胸が疼く。


「あ…あれ?」


 頬に何かが?


「涙?」


 それは私が流す涙。

 この数百年、1度も流した事の無かった…


「な…なんで…」


 止めどなく流れる涙の意味が分からない。

 ただ胸の痛みに堪えるだけだった。


次、エピローグ!

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