善意の押し売りは断りづらい
長くなっていく…次は短くなる……かも
「――おいトキ、帰るなら寄り道せずに真っ直ぐ宿へ戻れよ」
孤児院の修繕仕事を終え、雑用ギルドに道具を返却した際、窓口の職員が真剣な顔で俺を引き留めた。いつもは気さくな男の、見たこともない険しい表情に首を傾げる。
「何かあったんですか?」
「最近、夜の街に『人斬り』が出るって話だ。昨晩、ついに手練れの自警団が三人も斬り殺されていたらしい。お前みたいなひょろい奴は一溜まりもないからな」
(……人斬りか、たしかに会話する暇もなく切られたら死んでしまうからな)
いや、今は深く考えるのはやめよう。夜に出歩かなければいいんだ
。
「わかりました。大人しく帰って寝ることにします。」
俺はそう返事をして、俺は早足でギルドを後にした。
♢♢♢
日が落ちかけており、夕焼けが街を包み込む。
ハンスの店へと続く薄暗い路地裏を歩いていると、前方から外套を深く被った人影が歩いてくるのが見えた。この治安の悪い街だ、俺は絡まれないように壁際にいき道を譲った。
すれ違いざま、その人影がピタリと足を止めた。
「あ……トキさん?」
「うぇっ!?」
フードの隙間から覗いたのは、昼間に別れたばかりの、あの眩しすぎる金髪の少女――ルナだった。なぜこんな夜の貧民街に。
驚く俺をよそに、ルナは嬉しそうに微笑む。
「やっぱりトキさんだ! こんなところで会うなんて奇遇ですね!」
「あ、は、はい……。ルナさんこそ、何をして……」
そこまで言いかけたとき『ぐぅぅぅぅぅ……』と腹の虫がなる
静かな路地に、盛大な音が響き渡った。俺の腹ではない。
ルナは一瞬で顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに両手でひ腹を押さえた。
「うぅ……。実は、まだ晩御飯を食べていなくて……」
「……はぁ。じゃあ、早く帰ってご飯食べた方がいいですよ」
巻き込まれたくない俺は冷たく突き放そうとしたが、ルナはすがるような目で俺を見た。
「あの! もし良ければ、これから一緒にどこかで夜ご飯を食べませんか? 私、この近くの美味しい串焼き屋さんを知っているんです! 奢りますから!」
昼間あったときから解除していないので今もルナをロックオンしている状態である。俺の耳の奥にゾワゾワ感は一切訪れない。彼女は、下心も裏の意図も全くなく、ただ単にお腹が空いたから、一緒に食べようと言っているようだ
(またこれだ……。気持ち悪い、警戒心が無さすぎて調子が狂う……!)
女性の笑顔と好意に対するトラウマが、俺の足を縫い付ける。断りたい。だが、この異常なまでの純粋な光を前に、どう断ればいいのか脳がパニックを起こしていた。結局、俺は彼女の勢いに押し切られる形で、近くの薄暗い安酒場へと足を運ぶことになってしまった。
安酒場の片隅。運ばれてきた安物の肉串を、ルナは実に美味そうに頬張っていた。その無防備な姿に頭痛を覚えつつ、俺はギルドでの話を思い出し、釘を刺すことにした。
「……ルナさん。さっきギルドの職員に聞いたんですけど、最近、この近くで『人斬り』が出るらしいです。夜はかなり危ないですから、用事がないなら出歩かない方がいいですよ」
これ以上、この危なっかしい善人と関わりたくない。早く家に帰れ。そんな防衛本能からの忠告だった。
だが、ルナは肉串を噛み締める手を止めると、その綺麗な青い瞳を、すっと真剣な光へと変えた。
「教えてくれてありがとうございます、トキさん。……でも、大丈夫です。私、だからこそ夜に出歩いているんですから」
「……は? どういう意味ですか?」
純粋にわけが分からず、俺は眉をひそめる。
ルナは声を潜め、しかし一切の迷いのない、鋼のような口調で言った。
「その人斬りって、夜な夜な人を襲っているんですよね? ……絶対に許せません。だから、私の手で、その人斬りを捕まえて止めようと思っているんです」
(――ゾワゾワしない)
脳内は不気味なほどの静寂。
つまり、目の前の可愛らしい少女は、正真正銘、本気で「夜の殺人鬼を自分の手で倒す」ために、夜な夜な街を徘徊しているということだ。
(……は? 待て待て、頭おかしいだろこの女。正義の味方気取りか? 自殺志願者か何かか!?いや、予想だが力が強くなるみたいな恩恵を持っているんだったな)
狂気すら感じるほどの「純粋な正義感」に、俺は手にしたコップを落としそうになるほどの衝撃を受けた。
お読みいただきありがとうございます。
白黒は皆様のブックマークや高評価が嬉しくていかたがないです。
まだの人はぜひよろしくお願いします




