親友
静まり返った広間。俺は倒れているロイドの元へと駆け寄った。
全身の筋肉を痙攣させ、血を流して倒れているその体を、ゆっくりと抱き起こす。
「おい、ロイド! しっかりしろ、生きてるか!?」
「……ト、キ……か。あいつ、は……?」
ロイドは焦点の定まらない目で、辛うじて俺の顔を見つめてきた。俺は視線だけで、完全に魂の消滅した抜け殻となり、ピクリとも動かなくなったドンの体を指し示した。
「終わったよ。あいつはもう、二度と動かない」
「そう、か……。ダセェところ、見せちまったな……」
自嘲気味に笑おうとして、再び苦しそうに顔を歪めるロイド。そんなあいつの胸ぐらを、俺は少し強めに掴み直した。
「バカ言え。勝つか負けるかじゃない。……命がけで、勇気を出して俺を助けに来てくれた。それが何より大事なんだ。ありがとな、ロイド」
心からの感謝の言葉。
【因果応報】は当然静まり返ったまだ。これが、俺の本心だからだ。
ロイドは驚いたように目を丸くし、それから本当に嬉しそうに、へにゃりと笑った。
「……そっか。お前にそう言ってもらえるなら、あがき続けた甲斐もあったって、もんだ……」
俺は転がっていた漆黒の魔剣を拾い上げ、介抱しながらロイドの手へと握らせた。
「おい、これはお前にやる」
「あ? 何言ってるんだよ。これはお前が命がけで手に入れた大金に化ける代物だろ……」
「いいんだ。お前はこれから、あのドンの跡を継いで、この組織を引っ張っていくんだろ。まともなボスとして生きていくために、その身体強化の魔剣を役立ててくれ。……受け取れよ、『親友』」
親友。その言葉を口にした瞬間、少しだけ胸が締め付けられた。だが、ロイドの目から伝わる熱い真実の好意が、俺の凝り固まった心を少しずつ溶かしていくのが分かった。
「トキ……。おう、ありがたくもらう。俺はあんたみたいな汚ぇやり方をする奴らとは違う、一本筋の通った最高の組織を作ってみせるよ」
ロイドは魔剣を強く握り締め、力強く頷いた。
♢♢♢
翌日、俺はハンスの店へと戻り、事の顛末をすべてオヤジに報告していた。
オークションの出品をキャンセルすると告げた瞬間、ハンスは頭を抱えて机に突っ伏した。
「おいおいおい! オークションはキャンセルだと!? バカ言えトキ、あの教会の地下オークションの『目玉商品』にするつもりで、もう上層部にも話を通しちまってるんだぞ! 今更ありませんじゃ、俺の首が飛ぶわ!」
「悪いな。でも、あの魔剣はロイドに譲ったんだ」
頭を抱えて絶望しているハンスを見つめながら、俺はふう、と息を吐いて提案した。
「オヤジ、代わりに前に俺から買い取ったあの『黒い制服』を出品してくれ。今回は急なキャンセルで迷惑をかけたしそもそもあれはオッサンに売ったからな。だから、その制服がいくらで売れようが、俺への取り分は一切ナシでいい。全部ハンスの儲けにしてくれて構わないから、それで教会の連中を収めてくれないか」
ハンスはガバッと顔を上げ、驚いたように目を見開いた。
「……たしかにあの服はこの世界のどこを探しても存在しねえ素材でできていてで、縫製技術も狂ってる。異世界の『聖衣』として出せば、目玉にはなりそうだな?」
「ああ。魔剣の代わりの目玉商品には十分だろ。頼んだよ、オヤジ」
「……クハッ! お前ってやつは、本当にしょうがねぇやつだな!」
ハンスは呆れたように、だが嬉しそうに笑い声を上げ、奥の保管庫から大切そうに制服を引っ張り出してきた。
魔剣は大金には変わらなかったが、ロイドという本物の親友、そしてレベル3へとなった【言霊記録】が手に入った。
これにて2章本編は終了です。閑話でまた会いましょう。




