閑話:女神の命令
人間たちの住まう下界を見下ろす、白磁の神殿。
かつて静寂の満ちていたその場所に、【言霊記録】の覚醒を告げる、禍々しくも美しい残響が鳴り響いていた。
犯罪組織のボス、ドンという悪党を沈黙のまま肉体ごと崩壊させ、その息子を新たな『親友』として裏社会のトップに据えたトキの選択。
神殿の奥に佇む女神は、手元に浮かぶ水鏡に映るトキの姿を見つめながら、陶酔したように両頬に手を当てて口元を綻ばせた。
「ふふ、ふふふ……! 本当によく頑張っていますね、トキ。まさかこれほど早く、私の与えた【言霊記録】をレベル3へと引き上げてくれるなんて……。期待以上、いえ、それ以上の成果です」
レベル3となり、ロックオンせずとも世界の嘘を感知し、重ねられた嘘を乗算させて肉体を崩壊させる【過積載】。女神は満足そうに目を細める。
魔剣そのものは大金に変わらなかったが、代わりに裏社会の巨大な組織がトキの『親友』の手によって掌握された。これもまた、聖光神の築いた強固な秩序を足元から揺るがす、最高の手駒の配置と言えた。
聖光神は本当に狡猾で、私や、私の使徒であるあなたを邪魔者扱いし、容赦なく排除しようとしてくるのですから。
「ですが、あなたが順調にその牙を研ぎ澄ましてくれているおかげで、世界の支配権を私の手に収めるその日が着実に近づいています」
女神は愛おしそうに水鏡のトキの横顔をなぞり、それから、ふと神殿の深い影の奥へと視線を向けた。
そこには、女神の神聖な光に照らされながらも、微動だにせず跪いている『一人の影』があった。
「さあ、時は満ちました。……あなたを、あの世界へと派遣します」
女神は影に向けて、厳かに、しかしどこか神聖な響きを帯びた声で任務を告げる。
「あなたは───しなさい。」
「――御意に、我が神よ」
影の中から、涼やかで、しかし感情の消え失せたような声が短く返ってきた。
「頑張ってくださいね。全ては、世界を素晴らしいものにするためなのですから……」
祈るように両手を組んだ女神の顔には、この世の何よりも美しい笑みが浮かんでいた。
命令の内容は内緒です。
それではまた3章で会いましょう。
あ、また投稿までに時間空きます。ご了承ください




