わりと雑に始まった決戦
「ハンスの店を襲う、か……」
ギルドからの帰り道、ドンの部下を名乗る男から告げられた言葉に、俺は奥歯を噛み締めた。
あいつらは本物の悪党だ。命令に従わなければ、ハンスのオヤジの店を本当に灰にするだろう。あのオヤジは強いが、犯罪組織に本気で囲まれればさすがに無理だろう。
何より、日本で全てを裏切られた俺が、異世界で唯一「100%嘘のない本音」で接してくれるあの場所を、あんな悪党どもに奪われるのは反吐が出るほど胸クソが悪かった。
「分かった。案内しろ。ドンのところへ行ってやる」
俺はハンスの店に一度戻り、厳重に保管されていた不気味な長剣――【人斬りの魔剣】を背中に背負った。
当然、素直にドンに渡すつもりなんて毛頭ない。武力に関しては皆無に等しい俺だが、何が起こるか分からないアジトへ生身で乗り込むほど馬鹿でもなかった。最悪の事態になれば、破壊不可で身体強化の加護を持つこの剣を振り回してでも生き延びる――そんな一応の保険を携え、俺はドンの屋敷へと足を向けた。
♢♢♢
案内されたのは、街の地下深く、重厚な石造りの広間だった。
燭台の炎が不気味に揺れる中、最奥の玉座に腰掛けたドンが、傲慢な笑みを浮かべて俺を見下ろしていた。その傍らには、油断なくこちらを睨みつける側近の姿もある。
俺は魔剣の柄を握りながら立ち尽くした。
「ククク……よく来たな、黒髪のガキ。大人しくこちらの要求に従ったのは賢明な判断だ」
ドンが玉座の肘掛けを叩きながら、勝ち誇ったように声を響かせる。
俺が何かを言い返そうと口を開きかけた、その瞬間――側近の男が遮るように一歩前に出て、大声で捲し立ててきた。
「無駄だぞ、ガキ! お前が今から何を言おうと、我々はお前の質問に一切答えるつもりはない! お前の恩恵の正体は、我がボスの神がかった頭脳によってすでに完全に見抜かれているのだ!」
側近の言葉に合わせるように、ドンもまた、陶酔したような笑みを浮かべて一方的に言葉を重ねてくる。
「そうだ。貴様の恩恵は『貴様の質問に答えた相手を呪う能力』だろう? ククク、これまで何人もの部下を実験台にして、その発動条件を完全に突き止めたのだ! つまり、こちらが貴様の問いかけをすべて無視し、一方的に話し続ければ貴様の恩恵は絶対に発動せん!」
「その通り! お前など、その恩恵が封じられればただの非力なガキに過ぎん! 我々組織の力は絶対だ、この部屋にいる全員がボスのために命を捨てる覚悟の無敵の軍隊なのだ! さあ、その魔剣をわたせ!」
側近の男は、俺に質問する隙を一切与えないため、狂ったような大声で、勝ち誇ったハッタリをこれでもかと俺に浴びせかけてくる。
――だが。
俺の脳内では今、【虚偽感知】のゾワゾワ感が激しくアラートを鳴らし続けていた。
見事なまでの勘違い。決定的な、滑稽なまでの【誤解】。
俺の【言霊記録】の本質は、質問への解答などではない。ただ、相手が吐いた「嘘」そのものを記録し、制裁を下す能力だ。
そして――今、目の前で側近が吐き散らした「全員がボスのために命を捨てる」「無敵の軍隊」という言葉。これらは全て、能力の正体への勘違いに基づいた『真っ赤な嘘』だった。
(勝手に話し続けてくれて、助かるよ。おかげで――最後の一人が、向こうから飛び込んできた)
ハンスのオヤジから聞いた、レベル3への進化条件。
これまでのチンピラどもを罠にハメて積み重ねてきた【虚偽制裁】の回数は、すでに「49回」。
能力を覚醒させるためのカウントダウンは、すでに残りあと一人の状態まで来ていたのだ。
俺はただ、何も言わずに沈黙を守ったまま、脳内で冷酷に引き金を引いた。
「――【虚偽制裁】」
「ぎ、ぎゃああああああああああああああああっっっっっ!?」
次の瞬間、それまで勝ち誇って捲し立てていた側近っぽい男が、突然白目を剥き、頭を抱えて石造りの床へと激しく転げ回った。脳を直接炙られるような、未体験の凄惨な激痛。
「な、何だと……!? 質問に答えていないはずの奴が、なぜ……っ!?」
側近の無様なのたうち回りを前に、ドンが驚愕に目を見開いて玉座から立ち上がる。
そんなボスの動揺など完全に無視して、俺の脳内に、これまでにない冷徹で強大なシステムメッセージが響き渡った。
『虚偽制裁の合計回数が【50回】に到達しました』
『条件を達成しました。固有能力【言霊記録】がレベル3へ移行します――』
――溜まりきった。
レベルアップ




