雨降って地固まる
それから、どれほどの時間が経っただろうか。
気づけば路地裏の夕日はすっかり落ち、周囲は夜の帳に包まれていた。
「はぁ……。お前、武力は皆無のくせに、度胸と口の悪さだけは一丁前だな」
ロイドは壁に背中を預け、呆れたように、だがどこか楽しそうに笑った。
「お前みたいなやつ、俺の回りにはいなかったわ。……お前面白いやつだな」
「それはどうも。褒め言葉として受け取っておくよ」
俺が肩をすくめると、ロイドはポケットから手を出し、ぶっきらぼうにこちらへ右手を差し出してきた。
「決めた。お前、俺の友達になれよ」
「……は?」
唐突な要求に、俺は完全に思考がフリーズした。
友達。日本で親友を名乗る男に裏切られ、すべてを奪われた俺にとって、最も呪わしく、最も信じられない言葉。
当然、脳内の【虚偽感知】は、彼の「友達になれ」という言葉に何の違和感も示さない。完全な、本物の好意。
「純粋な善意」を正面からぶつけられ、俺の心臓が嫌な音を立てて跳ね上がった。激しい動揺が全身を駆け巡る。
「なんだよ、嫌なのか?」
不満そうに眉をひそめるロイド。
ここで拒絶して、犯罪組織のボスの息子を敵に回すのは得策じゃない。それに、こいつの近くにいれば、ドンの動向を探る絶好の情報源になる――そんな、人間不信ゆえの打算を必死に自分に言い聞かせ、だが、友達が欲しい、彼なら信用できる……裏切られないかもしれない。
俺は強張る右手をゆっくりと伸ばした。
「……いいよ。友達になろう、ロイド」
「おう! 決まりだな、トキ!」
ロイドは嬉しそうに俺の手を力強く握りしめた。
打算で握り返した俺の手のひらに、彼の熱い体温が伝わってくる。
こうして、俺に、異世界で初めての『友達』ができた。
♢♢♢
同じ頃、犯罪組織の地下アジトでは、袋小路から逃げ帰ってきたチンピラどもが、ボスの前でガタガタと震えながら言い訳を並べ立てていた。
「も、申し訳ありません、ボス……! 例のガキを追い詰めたのですが……その、ロイド様が乱入してこられまして……」
「ロイドが?」
玉座に座るドンは、不機嫌そうに片方の眉を跳ね上げた。
「は、はい……。ガキを大人数で囲むのはダサいだの何だのと言い出し、俺たちを無理やり追い返してしまったのです。ロイド様のお言葉とあっては、俺たちもそれ以上は動けず……」
部下の報告を聞いたドンは、深いため息をつくと、心底忌々しそうに鼻を鳴らした。
「チッ……あいつはやっぱりダメだな。おれの息子でありながら、いつまで経ってもそんな甘い綺麗事を抜かしていやがる。組織の利益よりも、自分のくだらん美学が優先か」
ドンは冷酷極まりない目で部下たちを見据え、実の息子を切り捨てるような命令を平然と言い放った。
「いいか。次にあいつが俺の命令を邪魔するような真似をしたら、――少しくらい痛めつけても構わん。親父の仕事に泥を塗るのがどういうことか、その身に教え込んでやれ」
「ッ……! は、はい、わかりました……!」
喧嘩後の友情。定番ですね。
異世界で初めての友達です。




