ドンの息子
「あ? 何だお前――って、ろ、ロイド様!?」
振り返ったチンピラの一人が、乱入してきた少年の顔を見るなり、目を見開いて声を裏返らせた。他の男たちも一斉に顔色を変え、突き出していた短剣を慌てて懐へと引っ込める。
ロイドと呼ばれた少年はチンピラどもを冷めた目で見据えたまま、ポケットに両手を突っ込んでゆっくりと歩み寄ってきた。
「お前ら、親父の命令だからって、そんなダセェ事してんじゃねえよ。数に物言わせてガキ一人を囲むとか、見ててヘドが出る。さっさと消えろ」
「は、はいっ! 申し訳ありませんでした!」
今までの会話である程度コイツの正体について予想がついた。
───ドンの息子だ。
ボスの息子には逆らえないのかチンピラどもはロイドに頭を下げると、蜘蛛の子を散らすように一目散に路地裏から逃げ去っていった。
一瞬で静まり返った袋小路。残されたのは、俺と、ドンの息子であると思われるロイドの2人だけだ。
「……助かったよ。ありがとう」
俺は感謝を伝え、頭を下げた。
だが、内心の警戒レベルは最高潮だ。目の前にいるのは、俺の魔剣を狙って刺客を送り込んできている大ボスの身内。何の目的があって俺に近づいたのか、探る必要がある。
俺は思考の裏で、静かに【言霊記録】の照準をロイドへと合わせた。
「別に、お前を助けたわけじゃない」
ロイドはため息をつきながら、面倒くさそうに頭を掻いた。
「ただ、あいつらのやり方が気に入らなかっただけだ。あんな大人数でガキ一人を囲むなんて、どう考えてもダセェだろ」
――ゾワゾワとした違和感は、ない。
能力が告げている。この少年の言葉には、一文字の嘘もない。本心から「ダサいから止めた」と言っているのだ。
犯罪組織のトップの息子でありながら、そんなズレた、だが真っ直ぐな美学を持っている不気味さ。他人の善意を疑う俺にとって、ルナとはまた違うベクトルの「嘘のない人間」の登場に、チクリと胸が痛んだ。
俺はトーンを少し落とし、皮肉を込めて言い返した。
「ガキ、ね。お前だって、見たところ俺と大して年齢は変わらないだろ」
「あ? 俺は裏社会で色んな修羅場をくぐり抜けてきてんだよ。ただの一般人のガキと一緒にすんな」
「へえ、修羅場ね。親の七光りでチンピラを怒鳴りつけただけで、ずいぶんと偉そうな修羅場だ」
「なんだとてめえ……! 口の減らないガキだな!」
そこからは、売り言葉に買い言葉の、子供じみた言い合いになった。
ロイドの言葉を能力で監視し続けるが、どれだけ口汚く罵り合っても、彼の言葉から「嘘」が検知されることは一度もなかった。
彼はは呆れるほど真っ直ぐな奴なのだろう。




