赤信号みんなで渡れば………
「――なぁ、トキ。お前のその【言霊記録】、次のレベルに上がるための条件がめちゃくちゃ面倒なことになってんな」
ある日の夜、ハンスが酒瓶を片手にそんなことを言ってきた。 俺はカウンターでギルドの書類を整理しながら、怪訝そうに顔を上げた。
「レベルアップの条件? なんだそれ」
「あれ?言ってなかったか? 俺の【鑑定】はな、お目にかかった恩恵の性能だけじゃなく、どうすればそいつが進化するのか、その『条件』まで見破れるのさ」
ハンスはニヤリと老獪な笑みを浮かべ、指を2本立ててみせた。「お前の能力がレベル3になるにはな、まず『100以上の人間を登録すること』。そして『能力のログに、他人の嘘を合計50回以上記録すること』だ」
「……嘘を、50回………」
思わず呟き、自分の手のひらを見つめる。 他人の嘘を暴き、制裁を下す我が能力。レベル2の現状でも十分に強力だが、もしレベル3になれば、ロックオンの同時指定数がさらに増えるかもしれない。
この世界で、俺が生き抜くためには、自衛の力であるこの能力の強化は不可欠だ。
(50回か……。普通に暮らしていたら骨が折れる数字だが、向こうから勝手に嘘を吐きにやってくるなら、話は別だな)
犯罪組織のボス『ドン』が、チンピラ仕向けてきているのは分かっている。 ならば、その悪意を逆に利用してやる。 俺は多少の危険を冒してでも、襲いくるチンピラどもを罠にハメ続け、能力の『肥やし』にしてやることを心に決めた。あの日、路地裏で最初のチンピラどもを退けてからというもの、俺の日常は一変した。
仕事の行き帰りや、人目の少ない通りを歩いていると、執拗なまでに刺客が送り込まれてくるようになったのだ。
あれから襲ってきたチンピラは、合計で8人。
武器を持たずに近寄ってきたり、女の刺客を差し向けてきたり、時には挟み撃ちの陣形を敷いて、俺の視界に入らないように襲いかかろうとしてきたりもした。
他人の悪意に人一倍敏感な俺だ。毎回、相手の浅薄なハッタリや嘘を【虚偽感知】で即座に見抜き、【虚偽制裁】で黙らせてはきたが……さすがにこれだけバリエーション豊かな襲撃が続けば、嫌でも気づく。
(あの『ドン』とかいうボスの仕業か。俺の能力の正体や発動条件を探るために、部下を使い捨ての実験台にしていやがるな……)
悪党らしいヘドが出るほど冷酷なやり口だ。だが、相手が嘘を吐いて自滅するたびに、俺の脳内では【言霊記録】の『嘘の累計記録数』が確実にカウントアップされていた。
――そして、今日。
俺は異世界に来てから、最も最悪なピンチに陥っていた。
「へへっ、ようやく追い詰めたぞ、黒髪のガキ。今度は逃がさねえからな」
「大人しくボスのところへ来てもらおうか。逆らうなら痛い目を見るぜ?」
薄暗い袋小路。俺の目の前を塞いでいるのは、実に対峙したことのない大人数――総勢8人のチンピラどもだった。
(くそ……、一度に8人は想定外だ……!)
背中に冷たい汗が流れる。
俺の固有能力【言霊記録】はレベル2。同時にロックオンして会話を記録できるのは、最大で『2人』までだ。
以前、3人の刺客に囲まれた時は、2人をロックオンして【虚偽制裁】で見せしめにし、その凄惨な激痛ののたうち回りを見せることで、残りの1人を恐怖で戦意喪失させて逃げ出させることに成功した。
だが、今回は数が違いすぎる。
もし目の前の2人をロックオンして無効化できたとしても、まだ『6人』が健全な状態で残ってしまうのだ。
(数はそれだけで力だ。いくら2人が突然発狂して倒れたところで、これだけの人数がいれば、残りの奴らは恐怖よりも数の優位を信じて押し切ってくるかもしれない。武力を持たない俺の肉体じゃ、6人に一斉に掴みかかられたら一瞬で終わりだ……。どうする……?)
脳内で必死に打開策を模索していた、その時だった。
「――おい、お前ら。ガキ相手にそんな大人数で囲って、恥ずかしくねえのか?」
路地の入り口から、低く、どこか退屈そうでありながらも、妙に荒っぽい声が投げかけられた。
突然の乱入者に、俺を囲んでいた8人のチンピラどもが一斉に振り返る。
そこに立っていたのは、俺と大して年齢の変わらなそうな、一人の少年だった――。
赤信号みんなで渡ればみんな◯ぬ。
はい、というわけでお読みいただきありがとうございます。
ポッチとあれ押しておいてくれるとありがたいです。
コメントもお待ちしています。




