レベルアップ
人斬りに勝てる。このまま倒せる、そう確信した、その時だった。
「おい! そこで何をしている!!」
暗闇の向こうから、松明の光が近付いてくる。
夜間巡回を行っていた、二人の衛兵だった。路地裏の異変と激しい金属音を察知して、駆けつけてしまったのだ。
「ま、待ってください! 近付いたら危険です!」
ルナが焦った声を上げる。
だが、傷を負って息を荒くしていた人斬りは、その衛兵たちの姿を見た瞬間、狂気に満ちた笑みをその顔に張り付かせた。
「あは、あはははは! 恵みの雨ってやつかよ!やっぱり主人公である俺様は運がいいぜ!」
人斬りの身体がブレる。壁を蹴り、ルナの制止をすり抜けて、一直線に衛兵たちへと肉薄した。
「なっ――ひっ!?」
衛兵が恐怖に顔を歪めた時には、すでに紫色の刃がその首を真横に切り裂いていた。一人、そしてすぐさま二人目。鮮血が夜の闇に舞い、二つの身体が物言わぬ肉塊となって地面に崩れ落ちる。
「ひゃははははは!! きた、きたきたきたぁぁぁ!! これで――ちょうど『100人目』だ!!」
人斬りの身体から、どす黒いオーラが爆発的に噴き出した。
傷口が急速に塞がり、その瞳が禍々しい光を放つ。手にする魔剣のサイズがさらに一回り巨大化し、周囲の空気がじりと肌を焼くように重くなる。
「俺の加護、知りたい? 人を斬れば斬るほど経験値が溜まって強くなるんだよ。で、今ので記念すべき100人切り達成! スキルのレベルアップってやつ? 悪いね?これで俺の勝ちだわ」
圧倒的な絶望感を纏った人斬りが、ゆっくりとこちらを振り返った。
(なるほど……人を斬ることで強くなる加護、か。だからあんなに狂ってやがるのか)
俺は冷徹に、目の前の状況を分析する。
ルナの表情には明らかに焦りと恐怖の色が混じり始めている。人斬りの放つプレッシャーは、先ほどまでとは桁違いだ。正面から戦えば、今度こそルナは殺される。
なら、俺のやるべきことは一つだ。
これまでの会話で、この男の性質は十分に分かった。歪んだ全能感に溺れ、自分を主人公だと思い込んでいる哀れな道化。
これまでの会話で、この男の底は完全に割れた。歪んだ全能感に溺れ、自分を特別な主人公だと思い込んでいるだけの哀れな道化だ。知能の低い獣を殺すなら、罠を張ればいい。
「――おい」
俺は一歩、前に出た。
ルナが驚いたようにこちらを見るが、構わず人斬りをまっすぐに、冷ややかな視線で見据える。
(てか、絶対、俺と同じ転移者だろ。主人公とか言ってるし。まあ、だからこそやりようがある)
人斬りをロックオンし、言葉を紡ぐ。
「お前は主人公なんかじゃない。ただの犯罪者だ」
「……あ?」
「お前がやっているのは、無抵抗な一般人や衛兵を闇討ちしているだけだ。そんなの、ただの小心者の通り魔だよ。どこにそんな卑怯な主人公がいるんだ? 恥ずかしくないのか?」
淡々と、冷ややかに事実だけを突きつける。
「てめぇ……! 口先だけでイキがってんじゃねえぞ、無能力者のクソモブが! 俺様は神に選ばれてこの加護を貰ったんだ! この世界は、俺様が楽しむために作られたステージなんだよ!」
俺はフッと、男を憐れむように鼻で笑って見せた。これだけ自分が特別だと思い込みたい男だ。見下されたまま力任せに殴るより、「俺の方が上だ」と言葉でマウントを取りたくて堪らなくなるはずだ。
「いいぜ。そこまで言うなら、お前がどんなに惨めな存在か、言葉でも、力でも、たっぷり分からせてやるよ」
こいつは強い。おそらくルナでは勝てない。
なら、ここからは俺の戦いだ−−−
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レベルアップ(トキがとはいってない)




