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人斬り

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「……はぁ」


深夜。街灯すらまばらな薄暗い路地裏を歩きながら、俺は深くため息をついた。

ハンスの店の二階、あの安心できる自室に戻ったはずだった。だが、結局ベッドから起き上がり、こうして夜の街を歩いている。


『私が動ける力を持っているのに、自分の安全だけを理由に見て見ぬふりをするなんて……そんなの、私には絶対にできません』


あの言葉に、一文字の嘘もなかった。

だからこそ、他人のために命を懸ける人間が死ぬのが許せない。

その時だった。


――キィィィィィンッ!!


夜の静寂を切り裂くような、甲高い金属音が路地の奥から響いた。

間違いない、刃物と刃物がぶつかり合う音だ。

俺は足音を殺しながら、音のした曲がり角へと急いだ。壁の影からそっと視線を走らせる。

そこは、血の臭いが充満した行き止まりの広場だった。

地面には、すでに事切れた男の死体が転がっている。そしてその中央で、火花を散らして交錯する二つの影があった。


「あははは! 避けるねえ! でもさあ、圧倒的に足りねぇんだよ、実力が!力が!」

月光を浴びて歪んだ笑みを浮かべる男――あいつが『人斬り』。その手に握られているのは、禍々しい紫色のオーラを纏った、現実離れした形状の刀剣。


「くっ……、あああぁぁ!」


対するルナは、手にした大剣で必死に猛攻を凌いでいた。

昼間に見せたような怪力でなんとか刃を受け止めてはいるが、完全に押されている。力任せに剣を振っているだけで、相手の変幻自在な剣筋に全くついていけていない。


「お前さ、顔も可愛いし俺の『ヒロイン』にぴったりなんだよね。こんな泥臭い街で正義の味方ごっこなんてしてないでさ、俺のものになりなよ。俺様の女になるなら、俺が飽きるまで生かして可愛がってやるからさあ!」


「な、何を言って……! 私は、あなたのような理不尽な人殺しを、絶対に許しません……!」


「拒否権なんてないんだって。ほら、モブはモブらしく、俺に大人しく従えよ!」


人斬りの容赦のない一撃が、ルナの体勢を崩す。大剣が弾き飛ばされ、石畳に甲高い音を立てて転がった。


「しまっ――」


「まずは手足を軽く刻んで、おねだりできるようにしてやるよ、俺様のヒロインちゃん!」


人斬りが勝ち誇った笑みを浮かべ、魔剣を振り下ろす。ルナは完全に無防備。次の瞬間には、彼女の身体が深く切り裂かれる未来が明確に見えた。


(……動け)


生存本能が、俺の足を地面に縫い付ける。

だが、その視線の先で、ルナは恐怖に目を見開いている。どこまでも、嘘のない、純粋な善意。それを見せつけられて、ただ見殺しにすることなど、俺のプライドが許さなかった。


俺は足元に転がっていた、拳大の尖った石を掴む。

そして、渾身の力で人斬りの頭部めがけて投げつけた。


「おい、そこの人殺し――!!俺が相手だ!!」


石は、人斬りの側頭部へとまっすぐに飛んでいく−−−

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