ビリーのその後
ビリーは3話で出てきたごろつきです。
side:ビリー
(な、なんだあいつは……なんなんだあの悪魔は……ッ!?)
俺は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、必死に路地裏の闇を走っていた。
背後を振り返る余裕なんてない。ただ、一刻も早くあの「黒い服のガキ」から離れたかった。
最初は、見たこともない上質な服を着たいいカモだと思ったんだ。
いつも通り、親切なフリをして路地の奥へ連れ込み、ナイフで脅して剥ぎ取ってやるはずだった。
なのに、あいつが何かを呟いた瞬間、脳ミソを直接焼かれるような、経験したことのない激痛が走った。
あいつは言った。――『嘘をついた罰をうけろ』と。
わけが分からなかった。ただ、頭が悪い俺でも本能で理解した。あいつは謎の、とんでもねぇ加護持ちだ。逆らったら絶対に殺される。
あの冷酷な目で見下ろされ、とんでもない激痛を受け、骨の髄まで恐怖を叩き込まれた。
『……行け。』
そう解放された瞬間、俺は這いずるようにしてその場から逃げ出したのだ。
「ひぃ、ひぃ、あんなの人間じゃねぇ、化け物だろ……! クソッ、クソがッ!」
路地裏の角をがむしゃらに曲がり、なおも全力で走る。
恐怖、混乱、そして自分のホームグラウンドだったはずの路地裏でガキに泣かされたという、行き場のない屈辱と怒り。感情がぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、胸が張り裂けそうだった。
その時、暗がりから一人の男が歩いてくるのが見えた。小綺麗な男だ。
トキに植え付けられた圧倒的な恐怖の反動で、俺の頭は完全に狂っていた。
この、胸の奥で暴れるドス黒い怒りと八つ当たりを、誰かにぶつけずにはいられなかった。
俺は走り込んだ勢いのまま、男の前に躍り出ると、まだ手に握り締めていたナイフを突きつけた。
「おいッ!! 死にたくなかったら、持ってる金を全部ここに置いていきな!!」
喉がちぎれんばかりの怒号。
だが、目の前の男は怯えるどころか、心底つまらなそうな目を俺に向けてきた。
男の手が、腰元に携えた奇妙な剣の柄へと伸びる。
「……フッ、粋がってんじゃねえぞ、モブが!」
男は、この世界のものとは思えない、奇妙な単語を呟いた。
「あ? 何を言って――」
「お前みたいなモブはさ、黙って俺の経験値になってりゃいいんだよ」
「ひっ――」
ゾッとするような冷たい声。
言葉が終わるより早く、男の腰から目にも留まらぬ速さで白刃が抜かれた。
「が――あ、っ!?」
熱い、と思った瞬間には、俺の視界はぐるりと回転し、冷たい地面へと叩きつけられていた。自分の身体が、首から上を失った状態で崩れ落ちていくのが見える。
なんで、俺がこんなところで。
さっきのガキからなんとか逃げ延びたのに、なんで――。
ビリーの意識は、底の無い暗闇へと急速に沈んでいった。
「これで89人目、100人殺せばレベルあがるかなぁ」
静かな路地裏で男がとても楽しそうにそう言った。
お読みいただきありがとうございます。
一人で2度美味しいビリーくんでした。皆さんは覚えていましたか?私は存在を忘れかけていました。
伏線張るだけ貼って忘れてしまわないようにしなければ。




