第八話
「ナンダト」
「お前の首を差し出せ。そしたら『探し物』は解放する。もし応じなかったら、『探し物』は殺す」
「何を言ってるんですか」
「ソレヲ取引ト言エルノカ」
「早くしろ。俺の気は長くねえぞ」
犬頭は、歯を食いしばり犬歯を見せた。ゆっくりこちらに歩く。
「磁石を起動させても俺の手は離れないぞ」
こいつはマスターサーバーに対して異常な忠誠心を持っているはずだ。言動からその節々が感じ取れた。できればこんな非道なことはしたくなかったが、こうするしかない。
「本当ニ傷ツケナイト約束出来ルカ」
「⋯⋯あぁ、俺にとっても大事だからな」
「ソウカ⋯⋯⋯⋯私ノ首ヲ差シ出シダソウ」
跪き、頭を垂れた。
マキナの首にあてがっていた短剣を、犬頭の首に持っていく。
「名前は?」
「貴様二名乗ル名ナド無イ」
「⋯⋯⋯⋯そうか」
俺は犬頭の首を切り落とした。
◇◇◇◇◇◇
俺が犬頭を殺してから、二時間が経った。すでにAIを殲滅し、アジトに帰るところだ。
死傷者は大していない。二桁台だ。今回の規模の戦闘に比べたら、だいぶ少ない。
「マキナ、大丈夫か」
「まだ目が赤いです」
マズイな。このまま帰ることになったら、隊員たちにバレてしまうかもしれない。ずっと目を覆っていたら怪我をしたと勘違いされる。どうしようか⋯⋯。
「トウマさん、皆が騒がしいです」
「確かに、そうだな」
なぜか皆がこっちを見ているような気がしている。群衆の間から、レイとリネが現れた。
「トウマ君」
「何ですか?」
「マキナの目が、AIと同じ赤い目をしていたと皆が言っているんだ。何か知らないかい?」
「いや、何も」
「そうか。そしたら、目を隠しているマキナはどうなんだい?」
バレた⋯⋯⋯⋯!
「手を退けて、目を見せてくれないかい?」
「⋯⋯⋯⋯」
「退けないと、AIだと認定するよ」
マキナは観念したのか、ゆっくりと手を退け、目を見開いた。燃え盛る炎のように煌々と赤く光っていた。
「残念だよ」
「トウマさんは私を見捨ててください」
「できるわけないだろ。お前が逃げろ。俺が時間を稼ぐ」
「それこそできません」
マキナの赤い目に隊員たちがどよめいた。
「うわ、まじかよ」
「のうのうと生きやがって」
「スパイだったのか」
「あーあ」
「コイツらどうすんだろ」
「逃すなよ」
「信じてたのに⋯⋯」
「お前ら、武器構えとけよ」
「狙ってたんだけどなー」
「あいつ、AIだったのかよ」
「私たちを騙してたのね」
「俺、最初から怪しいと思ってたんだよな」
「嘘って言ってくれよ」
「トウマもAIなんじゃねーの?」
「裏切り者が」
「最初からだったのか」
「穢らわしい」
「どんな顔して生きてきたの?」
「仲間だと思ってたのに⋯⋯」
「死ねば良いのに」
「こいつを拷問して情報を吐かせよう」
「殺せ!」
囁かれる言葉の中に、一つの言葉が投下された。その短い言葉に、次々と声が加算されていく。
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ⋯⋯」
「殺せ!」
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
「「「「「殺せ⋯⋯!」」」」」
いつしかその言葉は、隊員たちの総意として膨れ上がっていた。もう誰にも止められない。レイも声を張って止めようとしているが効かない。隊員たちは今にもマキナと俺に襲いかかりそうな勢いだ。誰かが一歩踏み出した。それに伴い、次々と向かってくる。全員が武器を持って、明確な殺意を抱いて向かってくる。「殺せ」と言う言葉がエコーがかかったように響き渡った。手を伸ばされる瞬間、俺は叫んだ。
「マキナは! 『マスターサーバー』の居場所を知ってるッ!!」
渾身の叫びにより、皆が止まった。唯一動いたのは、レイと。
「それは本当かい?」
レオだった。
時が止まったような空間を切り裂き、レオが割って入った。手にはSPF9が握られている。
マキナに狙いを定め、引き金を引いた。流星群のようにエネルギー弾が飛んでいく。マキナに着弾する直前、俺が割って入った。
放たれた六発が全て俺の胸に吸い込まれた。車に跳ね飛ばされたような衝撃が胸を襲った。肺に取り込んでいた酸素が全て吐き出された。何発かがパワードスーツを貫通し、胸を穿つ。
口から血が溢れ、地面に膝をついた。
「何をする、レオ!」
「トウマさん」
「こいつは裏切り者だ。殺さなきゃだめだ!」
レオのあまりの剣幕にその場にいた皆がたじろいだ。
マキナが俺の胸の状態を見ようとしてくる。それを手で制止して、レオに話しかけた。
「どうした、レオ。そんな殺気立っちゃって」
「黙れ、裏切りもんが」
「『マスターサーバー』の居場所をバラされるのがそんなに怖いか?」
「ああん?」
「どう言うことだ。説明しろ、レオ」
レオは、レイの言葉に耳を貸さず、俺をただ睨んだ。
「もしお前が人間側だったら居場所を吐かせてから殺すのが当たり前だ。なのに、どうしてマキナを撃った?」
「逃げられないようにするためだ」
「その割には足じゃなくて顔とか胸を狙ってたけどな」
「トウマ、お前、生き残れると思ってるのか?」
口からとめどなく血が溢れてくる。呼吸もままならない。どうやら肺に穴が空いているらしい。気胸と言うやつだろう。俺が死ぬまでに、レオの裏切りをどうにかして⋯⋯。
「焦ってんのか。今回の奇襲が失敗したことに。俺らをここで始末できなかったことに」
「適当なこと口走ってんじゃねえぞ⋯⋯」
「なら、トイレでしてた電話は何だ? 何が順調だ? この奇襲がか? 何がわかるんだ? 『探し物』についてか?」
「てめえ⋯⋯!」
SPF9の引き金を引こうとした。だが、マキナがそれを許さなかった。
「やめろ、死にたいか?」
いつの間にか、パワードスーツを脱ぎ捨てていた。自由になった体から、ドリルと化した右手と、背中から湧き出す触手が顔を覗かせている。
「やめろ、マキナ。取り返しのつかないことになるぞ」
「トウマさんが撃たれる方が取り返しがつきません」
マキナの全ての攻撃が銃を構えるレオに注がれようとしている。
「レイさん、やっぱりマキナはAIでしたよ。早く殺しましょう!」
「今の私ならここらの人間を殲滅することぐらい容易ですよ」
「レイさん、こいつは危険すぎます!」
「マキナ、やめてくれないか」
「やめろ、マキナ⋯⋯」
あぁクソ、意識が⋯⋯⋯⋯。
「レオ、お前、AIに加担してんだろ。トイレの電話も、この奇襲を喰らった時も、お前の方にだけAIが向かっていかなかった。乱戦の時はお前の姿はどこにもなかった。レイさんが戦場を駆けずり回ったのにも関わらずだ」
「単に見つからなかっただけだろ⋯⋯」
「俺とマキナがレジスタンスに初めてきた時も、お前はレイさんの指示を無視して、俺に地図を渡してどっかにいっちまった。おおかた、人が増えたら連絡しろとか言われてたんだろうが」
呼吸が荒くなっていく。視界が霞んでいく。ゆっくりと足が痺れていく。膝を地面についた。気分がふわふわしてきた。
「他にも、クレルの襲撃にあった時にはお前だけ反応が薄かった。まるでそれが予定通りだったかのように!」
「レオ、君を拘束させてもらう。抵抗したらどうなるかはわかるね。⋯⋯⋯⋯マキナ、君の処分は追ってするとしよう。今は帰還するべきだ。それに、『マスターサーバー』の居場所も教えてもらわなければならない」
レイの言葉を聞いて、俺は意識を闇に落とした。
◇◇◇◇◇◇
目が覚めた。俺は治療室のベッドの上に寝かされていた。
「おー、目覚めたねー」
「あ⋯⋯」
話しかけてきたのは、少し怖い医師だった。ほんの少し口角をあげ、俺の体を人差し指で突く。
「いやー、今度こそ助からないと思ったのになー。また助かったねー」
「あはは⋯⋯」
「まー、まだ安静にしておくべきだからねー」
「レイさんや、レオ、マキナはどうなったかわかりますか」
「さー、僕は治療室からほぼ出てないからねー、外のことについてはほとんど知らないなー」
「⋯⋯そうですか」
「あー、でもー、今日誰かしらの処分を決めるとか何とか言ってたねー」
「本当ですか!?」
「⋯⋯だめだよー、君はまだ動いちゃだめだよー。ほらー、安静にしてー」
他にも情報を聞き出そうとしたが、はぐらかされてしまった。しかし、今日で誰かの処分が決まるなんて。そういえば、俺はあれからどれくらい寝てたか聞いてなかったな。
一日で目覚めたとしても、あまりに決断が早すぎる。今から行ってどうにかしなきゃ。もしレオが裁かれるなら、裁く前にレオの立場を最大限利用してからにしてほしい。
医師の目を気にしながら、ベッドから抜け出そうとする。
「どこ行こうとしてるのー」
「いやぁ、ちょっとトイレへ⋯⋯」
医師は俺の苦しい嘘に息をついた。
「良いよ。いってらっしゃい。どーせ君を抑えることはできないからねー」
「す、すみません⋯⋯」
「でもー、気をつけなよー。君は今大変らしいからねー」
胸を気にしながら治療室を出る。意識を失う直前まで感じていた痛みは、綺麗さっぱり無くなっていた。少し怖いけどあの医師はやはりすご腕なのだろうか。
俺が今大変か⋯⋯⋯⋯。多分、俺のことを裏切り者だと勘違いしている輩がうろついているのだろう。しかし、今はそんなことはどうでも良い。まだ処分が決定されることはないはず。先にマキナの様子を見てからレイのところへ出向こう。
「マキナ、居るか?」
ドア越しに呼びかけたが、帰ってくる声は聞こえない。しかし、微かな息遣い部屋の中から聞こえてくる。ドアノブに手をかけた。少し力を入れると、すんなりと回った。鍵は空いている。開けようと決心した瞬間、ドアが開かれた。
「誰だ、お前!」
俺の目の前には、見知らぬ男が立っていた。少し服装が乱れている。
「ようやく来たか、トウマ」
「マキナはどこに居る!?」
「部屋の中にいるよ。⋯⋯そんな怖い顔するなって」
ヘラヘラ笑う男を押し除け、リビングに入った。そこにマキナがいた。しかし、複数の男に手足を掴まれ、拘束されている。
「おい、どう言うことだよ」
「捕まえろ」
先ほどの男が指示すると、部屋の奥から出てきた二人の男に取り押さえられた。地面に伏させられ、両手を背中側に持っていかれ、極められた。
「ぐっ」
心なしか、男たちの息遣いが荒いように思えた。
「俺たちに何の用だ?」
「お前らはな、裏切り者なんだよ。それに、この女に至ってAIらしいじゃねえか。俺らが確かめてやろうと思ってな」
「はぁ?」
「人間なら、アレがあるだろ? それを俺らが確かめてやるんだよ」
そう言いながら、男がズボンのベルトを緩める。その行為で何をするのかを悟った。
「離せ、離せって言ってんだろ!」
拘束を取っ払おうとしても、二人がかりで押さえつけられると、なす術もない。男がマキナの顔を掴んだ。強制的に自分の方に振り向かせ、キスをしようとした。同時に、下半身に手を伸ばす。マキナはただ無表情なだけだった。
「おい、やめねえとぶっ殺すぞ!」
「はっ、どうした。自分の女がヤられんのがイヤってか?」
「そんなんじゃねえよ!」
「⋯⋯トウマさん。大丈夫ですか?」
マキナが俺に心配する言葉を投げかけた。それを見ていた男の日たいい青筋が浮かんだ。
「こいつ⋯⋯今からヤラレるってのに、男の心配すんのかよ。クソッ!」
逆上し、俺の顔面を蹴り付けた。鼻血が出始めた。さらにもう一発。唇がきれ、口の中に鉄の味が広がった。
「おらっ、おらっおらっ!」
散々蹴り散らかした後、マキナに振り返った。
「どうだ、これで満足か?」
「あの、死んでくださいね」
「あ?」
マキナはいつの間にか、両手を縛っていた鎖を最も簡単に引きちぎり、男をぶん殴った。
男は吹っ飛び、ドアを跳ね飛ばして廊下の壁にめり込んだ。追撃を加えようとして、エネルギー弾を発射しようとする。が、男の仲間に邪魔される。全体重をかけてエネルギー弾を発射する手にぶら下がる。マキナは一瞥し、男の仲間の腕を掴んだ。一気に握りつぶす。メキメキと音を立て、腕が悲鳴を上げた。
「ぎゃああああ!」
男の仲間の腕が、紙のようにくしゃくしゃになってしまった。
「やめろ、マキナ! おいだされるぞ!」
「大丈夫ですよ。もう皆さんに話しましたので」
「何?」
もう一人の男は逃げ出してしまった。
「バラしたんですよ。全てを」
誤字・脱字報告を受け入れているので送ってくれたら嬉しいです。




