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異世界冒険奇譚〜異世界行ったけどイージーじゃなかった〜  作者: ああるぐれい
青春に支配された世界

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第七十話

待ち合わせの時間の十分前、俺は指定された場所についていた。


右手に持っているのは、渡す予定のネックレスが入った、包装されている袋だ。

アカリは何を俺に渡そうとしているのか、気になるところではある。

が、それよりも気になっているのは、俺が渡すネックレスを気に入ってくれるかどうかだ。


気に入ってくれるとは思う。買うかどうか迷っていたのを見たし、名残惜しそうに去って行く姿を見たから。だから渡そうと決心した。


待ち合わせ場所は人気のない空き地。車が転回するために使われているのか、円形状に草が剥げ、土が剥き出しになっている。

座るための場所もないため、俺は道路傍に聳え立つ電柱に背中を預けた。


いつもならなんてことない待ち時間が永遠の時に感じられる。


「ふぅ⋯⋯」


深呼吸をして心を落ち着かせる。


ただ物を渡すだけ。お土産の交換をするだけ。


そう言い聞かせ、自分を冷静に保つ。


「お待たせ」


静寂を切り裂く凛とした声。姿を見るまでもなくアカリだとわかった。


「ん」


曖昧な返事を返し、持っていた袋の取手を握りしめる。

アカリはそんな俺に持っていた包みを渡してきた。


中身は人形が入っていた。


取り出すと、妙に可愛げのある顔をした物だった。腹には北海道の形が記されており、タグには北海道限定と謳われている。


「クセになる顔してるな」

「んふふ、でしょ? 一目惚れしちゃって」

「アカリらしいな」

「私も同じの買ったから、お揃いなんだよ?」


そういって、アカリは持っていたバッグに吊り下げられていた人形を見せてきた。

確かに同じ顔、同じ色をした人形だ。


同じのを2個も買うなんて、よほど気に入ったんだな。


「ありがとう、大切にするよ」

「うん」


そう言って、人形を包みに戻し、大事に抱えた。


今度は俺が渡す番だった。


「これ、お土産」

「あ、ありがと。開けていい?」

「うん」


アカリは渡された袋を期待に満ちた目で見つめ、俺の許可を得ると、早速取り出した。


ネックレスを目にして、アカリは動きを止めた。


「これ、私が欲しかったやつ⋯⋯」


両手で広げ、太陽の明かりに透かす。オレンジ色の紅葉は自らの美しさを遺憾なく発揮した。


アカリの頬に紅葉の影が落ちた。


「⋯⋯⋯⋯きれい」


掠れた小さな声。その声がアカリが見入っているということを確信させた。


「気に入った?」

「もちろん!」


そう言って、アカリはネックレスをつけて、俺に問いかけた。


「似合ってる?」


似合ってるの他に、なにを言うことがあるのだろうか。


「当然」

「んふ、ありがと」


照れくさそうにして笑うアカリは、とても綺麗で、可愛い。


「気に入ってくれてよかった」

「私のも、気に入ってくれて安心したよ」

「んじゃ、帰ろうか。送るよ」

「もう?」

「ん?」


アカリは不服そうに頬を膨らませ、上目遣いでこちらを見上げ──────


「せっかく会えたのに、もう帰っちゃうの?」


抜群の破壊力。

断れるわけがなかった。



◇◇◇◇◇◇



「ネックレスにあう服欲しいなーって」


アカリはどこか楽しそうなステップで俺の前を行く。


似合う服が欲しいのはわかる。だが、なぜ俺まで⋯⋯。


アカリの背中を見ながら、思考を巡らす。

不意にアカリが振り返った。瞬間、思考は霧散する。

微妙で複雑な表情。


「どうした?」

「ん」


アカリは鳴き声を一つ。俺の横に並んできた。


「一緒に歩きたかったのか」

「ダメ?」

「⋯⋯いや」


ポケットの中にいる人形を握ったり離したりしながら、アカリの横を歩く。


「せっかくお出かけしてるんだから、並んで歩きたいの」


時々、通り過ぎたアカリを通行人が振り返る。

その視線を背中に刺さるのを感じながら、アカリの世間話に耳を傾けた。

こうしていると、アカリは人の目を惹きつけるほどの美少女なのだと、改めて思い知らされる。

横に並んで歩くことが億劫になってしまう。


「あ、ここ。ここで買いたかったの」


細い指で刺す先には、少し大人びた景観の店だった。黒い看板が掲げられ、ローマ字が筆記体で連ねられている。俺には縁遠い場所だ。


楽しそうに入店するアカリとは裏腹に、躊躇いがちに店に足を踏み入れる。

中には女性の店員が三人ほどおり、それぞれ客の案内をしていた。

白を基調とした空間に、さまざまな色合いの服──────といっても、黒、白、グレーを基本とした服が大部分を占めていた。

心地よいジャズピアノがBGMとして店内に響いている。


「いらっしゃいませ」


店の奥の方から、店員がひょっこりと顔を出す。


「どのようなものをお求めに?」

「このネックレスに合う服が欲しくて」


アカリは胸元のネックレスをそっと持ち上げ、店員に見えるようにする。


「あら、綺麗なネックレスですね」

「ふふ、ありがとうございます」


店員はネックレスを見て二、三度頷くと、店内を見回す。


きっと、似合う服を頭の中で組み立てているのだろう。


「では、ご案内しますね」


俺は完全な空気だ。いや、それでいいんだけど。服を買うのはアカリだし。


アカリが店員と話してる間に、俺は店内を見て回ることにした。


色んな服が並べられているが、どれも似たり寄ったりなものだ。

俺の見る目がないだけで、デザインか何かが違うのだろうか。

手にとって凝視してみるも、何か変わったりしている様子はない。


素材か? ブランドか?

⋯⋯うーむ、わからん。


手にとった服を直していると、ジャージを発見した。こんな高そうな店にジャージなんて置いてあるのか。そんなことを思いながら値札を見て⋯⋯。


「高っ」


五桁を超えるジャージなんて、果たして本当にジャージと言うのだろうか。

もしかしたら俺が知らないだけで、ジャージにもグレードがあるのかもしれない。

松竹梅みたいな感じで。


世の中面白いことがあるなぁ、と妙な感覚を覚えながら回っていると、店員から声がかけられた。


「お連れ様がお呼びです」

「あ、はい。教えてくれてありがとうございます」


店員に連れられ、試着室に歩を進める。


アカリはすでに着替えを済ませていて、試着室から出てきたところだった。


「どう、かな?」


アカリが着ていたのは、黒色のハイネックのニット、同じ色をしたスラックス、灰色のロングコートだ。細い腰に巻かれているのは、暗めの茶色のベルトだ。バックルには真鍮の控えめな金色が輝いている。


そして、胸元にはオレンジ色の紅葉を模ったネックレス。


今まで着ていた服とは系統がガラリと変わっていて、別人のように見えた。だが、アカリらしさは微塵も失われておらず、新しいアカリの一面を目の当たりにしている気分だった。


「すごい⋯⋯カッコいいよ」

「ん、ありがと」


アカリは少しだけ頬を赤らめ、視線を下にそらした。


「これ、買います」

「ありがとうございます。このまま着ていきますか?」

「はい!」

「なら、タグを切りますので、背中をこちらに⋯⋯」



◇◇◇◇◇◇



「 今日は付き合ってくれてありがとね」


横並びに歩いているアカリがこちらを向きながら、髪を耳に掛けた。


斜陽の赤にも似た光がアカリの髪の毛の透かした。髪色が淡く変化し、赤を帯びた黒になっていく。虹彩が照らし出され、妖しく光を飲み込んでいく。


別人のようなアカリを見て、息を呑んだ。が、すぐにそれを引っ込め、いつも通りの表情を作った。


「俺もだよ、楽しかったし。わざわざネックレスに合う服を買うなんて思ってもなかったけどね」


俺が頭をさすりながら言うと、アカリは微笑んだ。


「トウマくん、大切にするね」


そっと持ち上げられたネックレスがきらりと光る。

だが、それよりも輝いているのは──────


買って良かった。そう思える一日だった。



◇◇◇◇◇◇



家に帰った後、スマートフォンが震え出した。

画面を見ると、電話が来ていた。

シュンからだった。


珍しいな⋯⋯。


「どうした?」

『明日さ、暇?』

「暇だけど」


俺の返答に数瞬の間が空いた後。


『遊ぼうぜ』

「メンバーは?」

『サシで』

「⋯⋯わかった」


いつ集合するか、どこで集合するかを決めた後、電話を切った。


しかし、シュンに誘われるなんて⋯⋯。今までに何度か遊びに誘われたことはあるが、それはいつも他に誰かが居たのだ。


二人で遊ぶだなんて⋯⋯。

何か俺に用事でもあるのだろうか。


翌日、俺は待ち合わせ場所である駅に行くと、すでにシュンは来ていた。


「よぉ」

「おう」


短い挨拶を交わし、歩き出したシュンについていく。商店街とは真逆の方向だ。


「どこ行くんだ?」

「んー、とりあえずついてこいよ」


それっきりシュンは黙ってしまった。ポケットに両手を突っ込み、スマートフォンで目的地を確認するわけでもなく、暇を潰しているわけでもない。


時々足を止め、辺りを確認する素振りを見せるだけだ。


そんなシュンを見ながら、俺は考えを巡らせていた。


一体何が目的なのだろうか。


何か話しにくいことなのだろうか。


「⋯⋯ここでいいか」


ふと、シュンは足を止めた。

人の気配はしなかった。

香箱座りをしている赤茶けた野良猫が、陽だまりで微睡んでいる。


シュンがこちらを向いた。空気が張り詰めるのを、肌で感じ取った。手に力が込められた。


「お前、誰だ?」

誤字・脱字報告を受け入れているので送ってくれたら嬉しいです。

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