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異世界冒険奇譚〜異世界行ったけどイージーじゃなかった〜  作者: ああるぐれい
青春に支配された世界

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第五十六話

肝試し。それは吊り橋効果で男女を恋の沼に突き落とすイベント。私は吊り橋側だ。

むふふ、いっぱい驚かして皆を恋に落としてみせよう。私も、ユウナみたいにできるんだから!

でも、トウマくんたちも怖がらせたら、恋に落ちちゃうんじゃ⋯⋯。やっぱりいっぱい驚かすのはダメ。控えめに控えめに。


私は幽霊に扮している。頭についた天冠がチャームポイントだ。


そう考えていると、足音が聞こえてきた。ちょうど二人分。ふふふ、将来の恋人候補か⋯⋯。


二人が私の隠れている物陰に近づいたと同時。叫びながら飛び出した。


「ぐわー! 幽霊だぞー!!」

「キャー! アカリ可愛いー!!」

「って、驚いてよユウナ!」

「無理無理無理! こんな可愛いアカリ見せられたら驚けないってぇ!」


ユウナは私に抱きつくと、胸に頬を擦り付けてきた。

くすぐったい。


「アカリは幽霊なんだな」

「そうだよ。びっくりした? シュンくん」

「全然」

「むぅ」

「はははっ。⋯⋯まぁ、俺たちはビビらない方だからな。他の連中はビビると思うぞ」


シュンくんはサムズアップをしながら答えてくれた。


「ほんと!?」

「ほんとほんと。⋯⋯いくぞ。ユウナ。いつまでもくっついてないで」

「あぁ、名残惜しい」


ユウナは、シュンくんに引きづられながらコースを進んで行った。


気を取り直して、次の人を待たなきゃ⋯⋯。


数分後。


来たっ⋯⋯!


しっかりとした足取りで来てる。今度こそは驚かせてみせる!


「ぐわー!!怖いぞー!」

「北見さん。その姿も⋯⋯イイっすね」

「長末くんは呼んでない!」

「⋯⋯」


はっと意識を戻す。そういえば、肝試しは二人で回るはず。長末くんの相手って。


「セナちゃん?」

「アカリか。可愛いね」

「そういうのいらない」


セナちゃんはユウナの友達だ。バレー部のキャプテンで、男女両方からモテている。最近、彼氏ができたのか、付き合いが悪いらしい。

まさか、長末くんじゃないよね?


「確認するけど、セナちゃんの彼氏って、長末くんじゃ⋯⋯」

「ないない」

「⋯⋯」


倒れた長末くんがビクリと痙攣する。


「でも、ユウナが付き合い悪いって」

「あー、あれね。ちょっと前から、女の子から告白される回数が増えてさー。皆に迷惑かけるのもなーってのと、呼び出されるから一緒に帰れなかったんだよね」


そういってクールに笑うセナちゃん。カッコいい!!


「ま、アカリみたいな女の子がコクってくれるなら、オーケーするけど?」

「し、しないっ!」

「そういうのも可愛いね」


セナちゃんはニコリと笑い、地面に倒れている長末くんを蹴り上げる。


「ほら、さっさと行くよ。エスコートするって言ったのはあんただろ!?」

「うう、ううううううう⋯⋯」


うめきながら、長末くんはセナちゃんとコースを進んで行った。


ていうか、あの二人も驚かなかった!


次の人を絶対に、絶対に驚かしてみせるんだから!


「ぐわー!!」

「可愛いー!!」


またダメ。


「うりゃああ!」

「可愛いー!!」


またまたダメ。


「驚けぇ!!」

「かんわいい!!」


またまたまたダメ。


「幽霊だぞー!!」

「天使!!」


⋯⋯ダメダメだ。誰も驚いてくれない。私って幽霊の才能ないのかな。

地面をツンツンしながら、不貞腐れる。

私だって驚かせて、誰かを恋仲にさせてみたいのに⋯⋯。


返ってくるのは悲鳴じゃなくて歓喜の声だけ。


すると、誰かの足音が聞こえてきた。


頬をぺちっと叩いて、気合を入れる。今度こそ⋯⋯。


「うぅ、ここら辺から気配がします⋯⋯」

「どわぁー!!」

「うひゃあああああああ!!??」


や、やった!

ついに誰かが驚いてくれた!

目の前にいる二人を見ると、トウマくんとサクラちゃんだった。


⋯⋯って、ああ!!

サクラちゃんが驚いてトウマくんに抱きついてる!

サクラちゃんのおっぱいがトウマくんの腕に⋯⋯。

サクラちゃんのサクラちゃんが当たって、当たってぇぇぇ!

ふにって、ふにってなってるぅぅ!!

おっきいのがぁ!


そういえば、トウマくんは、トウマくんは驚いてくれた?


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


一切驚いてない!

無表情!

なんでぇ!?

サクラちゃんは驚いてくれたのに⋯⋯。


「どうして驚いてないの!?」

「別に、怖くないから?」


トウマくんは困った顔をして、頬をぽりぽりと掻く。


「って、サクラちゃんはくっつきすぎ!」

「って、うひゃあ! ごご、ごめんなさい!」


サクラちゃんは自分が何をしていたのか気づくと、暗がりでもわかるくらいに顔を真っ赤にして、慌てていた。


「北見さん、似合ってるね」

「幽霊ぽいってこと?」


トウマくんが私に話しかけてきた。


「いやいや、北見さんは綺麗だから、なんでも似合うなぁって思っただけ」

「あ、あう⋯⋯」


それだけで何もいえなくなった。いつもは適当にあしらえるはずなのに。こんなこと、今までに何千回、何万回と言われ続けた言葉。もう何も感じなくなっていたはずなのに、トウマくんがいうと、何かが違う気がする。言葉が紡げなくなる。


「⋯⋯⋯⋯ほ、他の人がきちゃうから、早く進んで!」

「いや、俺らが最後のペアだから、一緒に行こう。他の驚かす役の人も合流するから」


サクラちゃんも頷いている。トウマくんが手を伸ばした。でも、私は、その手を伸ばせなかった。


心がこんがらがっていた。何もわからなくなる。今は、トウマくんと一緒にいたくない。その気持ちが膨れ上がった。頬が熱くなる。今の顔を、トウマくんにみられたくなかった。


「さ、先に言っといて。あとで追いつくから」

「でも、暗いし危ないぞ」

「大丈夫。一人で行けるから」


そっぽを向いて答えた。


「そ、そっか。なら、先に行っとくよ」

「そうして」


二人は、コースを進んで行った。

途端に静かになる。そして、自分の内側から、耳を塞ぎたくなるほどの心臓の鼓動が聞こえてきた。すぐにしゃがみ込む。


この気持ちは何? 何なの?

トウマくんは、私を助けてくれた友達。大切な友達のはずなのに。友達に、こんな気持ちになるなんてことはなかった。なのに、どうして⋯⋯。


「あう」


不意に風が吹いた。天冠が飛ばされ、草むらの中に落ちる。


虫が鳴き出した。


キリキリキリキリ。

ジー。ジー。

シャワワワワワ。


動物が歩いた。


ザフッ。

タタタッ。タタッ。

パチッ。


虫が黙った。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


冷や汗が流れた。自分がいた場所を探る。ライトを置いていたはずなのに、無くなっていた。どこ、どこにあるの?


見えない目を凝らしながら、探していく。すると、くぼみに足を引っ掛け、転んでしまった。

太ももを擦りむく。死装束に血が滲んだ。


「い、いたい⋯⋯」


傷を確認しようにも、何も見えない。木の幹を頼りにしながら、立ち上がる。ライトはもう無くしてしまった。とりあえず、コースに出て──────


そこで気づいた。コースがない。土がむき出しになってる小道があったはずなのに。

帰るべき道がない。ライトを探しているうちに、離れちゃった。

涙が溢れてくる。


「うっ⋯⋯ひぐっ」


涙を拭った。でも、次から次へと溢れ出してくる。地面にシミを作った。見えないのに、それだけはわかった。


これ以上動いたら、崖から落ちてしまうかもしれない。

ここにいるしかない。


うずくまり、顔を覆った。


⋯⋯今頃、みんなはキャンプファイヤーを見てるのかな。


トウマくんとサクラちゃんが、キャンプファイヤーをバックに手を繋いでいる情景が浮かび上がった。

どうしてこんな時にまで思い浮かべるんだろう。


誰か、私に気づいて──────


草むらが揺れた。

顔を上げると、揺れが大きくなっていく。

その揺れは、一直線に私に向かってきている。猪? 野犬?


「や、やだっ!」


地面に落ちていた石を投げた。当たっても、揺れは止まらない。


「死にたくないぃ!」


土を投げた。

また石を投げた。今度はさっきのより大きい。


「いて!」


そして、声が聞こえた。聞き慣れた声。私の心をかき乱した声。


「北見さん。ここにいたんだ⋯⋯」


トウマくんだった。私は、声を大にして泣いた。



◇◇◇◇◇◇



(篠村トウマ視点)



アカリは俺を見るなり泣き出した。よっぽど不安だったのだろう。

涙を拭ってやると、勢いよく抱きつかれた。

苦しいほどだ。


「こ、怖かったぁ。⋯⋯怖かったぁ」


声を震わせている。俺はアカリの頭を撫でながら、泣き止むのを待った。


「北見さん。泣き止んだら、向こうへ行こっか」

「⋯⋯うん」


俯きながらも頷く。すると、アカリの右太ももから血が出ていることに気づいた。


「北見さん。ここ怪我してるけど」

「さっき転んだの⋯⋯」

「いたくない?」

「うん」

「そっか。強いね」


俺の言葉に、アカリは下唇を噛んだ。子供扱いっぽくなったな。怒ったか?

しばらくすると、アカリの呼吸も落ち着いてきた。


「泣き止んだし、移動しようか」


立ちあがろうとした直前。ジャージの裾を掴まれた。


「まだ、二人でいたい⋯⋯」


あの時、動物園の時のような気配をアカリから感じ取った。


「⋯⋯うん」


横に座り、アカリの話を聞いた。


「どうして、私の位置がわかったの⋯⋯」

「あぁ、あれか。心配だから俺が見に行ったら、北見さんが元々いた場所にライトが落ちてたんだ。だから、迷ったんだろうなって思って、ライトのすぐそばに靴の跡があったし、小枝とか、草が踏み倒されてたから、それを辿ったんだよ」


見つけるのは随分簡単だった。だからと言って、焦りや不安がないということはないが。


「ハンターみたいだね」

「そ、そうかな」


⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


沈黙の後、アカリが話し始めた。


「今頃、キャンプファイヤーやってるのかな」

「そうかもな。もうすぐ佳境ってところかもな」

「ねえ、トウマくん」

「ん?」

「私と、キャンプファイヤー、見ませんか? ⋯⋯約束がなかったらでいいから」


アカリは、胸の辺りを抑え、溜まりに溜まったものを吐き出すように言った。

最初こそ勢いは良かったものの、後半は尻すぼみになっていく。

勇気を出したことが丸わかりだった。アカリほどの美少女なら、口先三寸でついていくやつがほとんどだろうに。


断ることなんてできるわけがない。


「いいよ。見に行こうか」

「なら、おんぶして」

「え?」

「連れてって」


強烈な上目遣い。


「⋯⋯わかった」


そう言って、アカリに背を向けてしゃがみ込む。直後、ストンと、重さが加わった。


「よいしょっと」


太ももに手を回し、一気に膝を伸ばす。アカリの薄い胸から、熱くなった体温と普通より早い鼓動が俺の背中を刺激した。

草むらからコースに出て、歩き出す。


「ねえ、トウマくん」


アカリの顔が首筋にあるからか、暖かい吐息が首筋に当たる。艶のある髪が、俺の頬をくすぐる。


「トウマくんは、大きい方と、小さい方、どっちが好き?」


なんだそれ。主語がわからん。


「なんのこと?」

「おっぱい」

「⋯⋯」


アカリは恥ずかしさからか、俺の首筋に顔を埋めた。首に唇が当たる感覚がする。それに、その質問によって、気づかないふりをしていた、背中に感じる微かな柔らかさが主張を激しくしていった。


アカリの鼓動も早くなる。


「俺、は⋯⋯どっちでもいいかなぁ⋯⋯なんて」


情けない声が出た。


「もしかして、お尻の方が好き?」

「いやいやいや! 俺は胸の方が──────」


焦りから妙なことを口走ってしまった。口を閉じるがもう遅い。


やべえ〜。キモがられたか⋯⋯?


アカリの顔色を伺うと、アカリは震えていた。

ど、どうしよう。


しかし、俺の心配は杞憂に終わった。


「ぷっ、あはははっ! トウマくん、正直すぎ⋯⋯!」


アカリは笑っていた。堪えきれなかったといったふうに。


「トウマくん、おっぱいの方が好きなんだ〜。えいえい」

「や、やめろ、やめろって」

「やめないよー、うりうり」


アカリは俺の頬をぷにぷにとつつく。何度止めても、イタズラっぽく笑うだけだ。


「しょうがないだろ。あんなふうに言われると、そういうしかないだろ」

「じゃあ、本音を言うと?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯胸」

「あははっ! トウマくんてば、おもしろー!」

「笑うなって⋯⋯。あーもー、忘れろ」


くそ。飛んだ失言。飛んだ失態だ。こう言うのは男子の悪ノリでいうことだろうに。

もっと気を引き締めないとな⋯⋯。


そんなことを思っていると、キャンプファイヤーが見えてきた。


「もうおんぶしなくていいよ」

「まだ痛くないのか?」

「みんなに見られるのが恥ずかしい」


ニヤリ。


「降ろさないよ」

「なっ、なんで」

「お返しだよ。俺を笑ったことのな」

「むぅ、ひどい。トウマくん。人でなし!」

「ふはは、なんとでも言えー」


俺はアカリを降ろさないまま、キャンプファイヤーへと近づく。メラメラと踊る炎が、俺たちを歓迎しているような気がした。


「綺麗だね」

「そうだな」


アカリの言葉に同意した。

炎は薪を食い尽くすまで、踊ることをやめないだろう。


炎を見ていると、サクラがやってきた。


「アカリさん。大丈夫ですか!?」

「サクラちゃん。大丈夫⋯⋯心配させてごめんね」

「良かった⋯⋯って、足怪我してるじゃないですか!」

「擦り傷だから、大袈裟にしなくていいよ」


サクラは目に涙を溜めて、アカリの体をしきりに心配している。


「アカリ〜!!!」


ユウナが文字通り飛んできた。


アカリに抱きつき、顔を猫のように擦り付けた。


「アカリが迷子になったって聞いてから生きた心地しなかった〜。あたしが迂闊だった⋯⋯。シュンなんかほっぽってアカリと一緒に幽霊すれば良かったぁ〜!!」

「ユウナ、心配しすぎ。私は小学生じゃないんだよ?」

「でも、アカリって怖がりなくせに強がるから⋯⋯」

「確かに怖かったけど⋯⋯」

「あっ、てゆーか、トウマはアカリに何もしてないよね! いかがわしいこととか! えっちなこととか!!」


ユウナの矛先が俺に急変更。喉元スレスレだ。

ユウナは俺を訝しむ表情をしながら、人差し指を突きつける。


「何もしてない。神に誓えるな」

「おんぶしたときにお尻触ったくせに⋯⋯」

「北見サン!?」

「ト〜ウ〜マ〜」

「何もしてないから!」


ユウナが今にも暗黒面に落ちそうだ。呼吸が完全にアナキンだ。頭の中でテーマソングが流れる。


「そっか、トウマくんはお尻よりおっぱいが好きだもんね!」

「北見サン!?」

「トウマ。さすがにそれは⋯⋯」

「篠村さん、最低です」

「ち、違うって!」


どんな糾弾より、サクラのシンプルな一言が俺につき刺さる。

まずい。完全に劣勢だ。俺の味方はゼロ。敵陣ど真ん中だ。

アカリはおんぶし続けたことへの意趣返しができたからか、俺の頬をつついている。


「アカリ、無事だったんだな」


すると、そこに救世主が現れた。


「シュン! 助けてくれ」

「どうした?」

「カクカクシカジカで⋯⋯」


俺の言葉に、シュンは深々と頷いた。

わかってくれるか⋯⋯。心の友よ⋯⋯。


「俺尻派だから。お前敵な」


一度堅く握られた手は、無常にも放された。


「くそー!!」



◇◇◇◇◇◇



(北見アカリ視点)



キャンプファイヤーも終わり、就寝時間がやってきた。


みんなも布団に潜り、それぞれ寝たり、話したり、スマートフォンをいじったりしている。他の人に気づかれない声量で、サクラちゃんを呼んだ。


「どうしました?」


サクラちゃんのクリクリとした大きな目。暗くてもわかるくらいに存在感がある。子猫みたいで可愛い。


「⋯⋯」

「⋯⋯?」


どうしよう。大胆に聞くべきなのかな?

でも、それで嫌われちゃったらどうしよう。友達なのに⋯⋯。

でもでも、聞かなきゃわかんないよね。


あう、どうしよう⋯⋯。


「何か言いたいことでも?」

「う、うん」

「なら、そっち行きますね?」


そういうと、サクラちゃんは私の布団に潜り込んできた。下から顔をひょっこりと出し、クスリと笑う。


「二人でいた方があったかいですね」

「⋯⋯」


胸がキュンとする。こういうところで男の子の気を惹いてるのかな⋯⋯。

サクラちゃんの真意を知るべく、私は耳打ちした。


「ト、トウマくんのこと、好きなの?」


あんなに話しておいて、好きじゃないなんてあり得ないと思う。私は⋯⋯トウマくんは大切な友達だから、いっぱい話しかけるんだ。


「そうだとしたら、困りますか?」

「それって⋯⋯」

「好きですよ」


小さな声で囁かれたその言葉。まるで自分に言われたかのような錯覚にも陥った。


「⋯⋯!」

「もしかして、アカリさんも?」

「いやいや、トウマくんは大切な友達だから⋯⋯ほら、サクラちゃんならトウマくんのこと任せられるかなって⋯⋯」


あぁー、何を言ってるんだ。私って。こんな上から目線から。


「り、理由とかある? いつから好きだったー、とか」

「理由ですか⋯⋯」


サクラちゃんは目を閉じて少しばかり唸った。


「特にないですね⋯⋯」

「ふぇ?」

「いつの間にか好きだったというか⋯⋯。そもそも、好きになる理由って、あるんですかね?」


サクラちゃんは小さな子供を叱るように、人差し指をピンと立てた。


「今まで好きになった人はいますけど、特に理由はなかったです。ただ、いつの間にか、みていると胸が苦しくなるんです。それが普通なんじゃないんですか?」

「そ、そうかな⋯⋯」

「皆が皆、そうだとは思いませんけど、少なくとも私はそうですね。理由はいらないです。好きだから好きなんです」


ふふん、と笑って見せた。


「アカリさんは好きな人はいるんですか?」

「私はいないかな⋯⋯」


男の子は、私の気持ちを無視してきたから。


「そうですね。じゃあ、初恋ってことかぁ」

「初恋もまだだよ!?」


サクラちゃんはキョトンとした顔をした後、笑ってみせた。


「そうですね。⋯⋯あぁ、アカリさんって可愛い!」

「急に何!?」


サクラちゃんは私も抱きしめ、撫で回した後、眠りについてしまった。私の布団に入ったままだ。

私も、サクラちゃんを抱きしめて、ゆっくりと目を瞑った。

誤字・脱字報告を受け入れているので送ってくれたら嬉しいです。

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