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異世界冒険奇譚〜異世界行ったけどイージーじゃなかった〜  作者: ああるぐれい
青春に支配された世界

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第五十四話

「来週の頭に、林間学校を行う」


いつものホームルーム。しかし、担任から放たれた文言の魔力によって、瞬く間に教室がざわつき始める。


そんな中、シュンが手をあげた。


「せんせー、そんなの、予定表に書いてなかったです」

「ん?」


担任は頭をぽりぽりと掻いた後。


「記載漏れだ。私は悪くないぞ」

「せんせーそれでも大人ですかぁ!?」


担任のボケに、シュンのツッコミ。教室が笑い声に包まれた。

こういうところで、シュンは人気があるんだろうな⋯⋯。


「ま、土日もあるわけだし、時間は十分だろ。持っていく物をまとめたプリント配るから、それ読んどいて。そんで、今日の七限目に、林間学校について話あってもらうから。以上」



◇◇◇◇◇◇



「ったく、せんせーって結構抜けてるよな」

「そうね〜。でも、そういうところが好かれてるんじゃないの?」

「そうかもね。お堅い先生より、親しみやすいだろうから」


シュン、アカリ、ユウナの三人の会話。見ているだけで目の保養になりそうだ。

イケメンに美少女の組み合わせ。俺が場違いすぎるな。


「しっかし、飯盒炊爨に六人必要か⋯⋯。アテはあるのか?」

「「「⋯⋯」」」

「誰もないか⋯⋯」


俺らの沈黙に、シュンが頭を掻く。多分、四人の中で一番人脈があるのはシュンだろう。四番目? もちろん俺だ。


「なら適当に誘っちまうか⋯⋯。俺らと飯盒炊爨したい人、手ぇあげて!」


シュンの唐突な呼びかけ。しかし、反応に遅れたものは誰もいなかった。


「はいはいはい!」

「俺もやりたい!」

「私もー!」

「北見さんのご飯を⋯⋯じゅるり」

「⋯⋯はい」

「鎮まれええいいい!!」


鶴の一声でクラスメイトを黙らせたのは、長末だった。


「俺を、入れてください」


流れるような五体投地。はち切れそうな体を目一杯縮こまらせ、床に額を擦り付けた。

この熱量。断れるはずもなく。


「いいぜ。⋯⋯んじゃ、後一人。できれば女子がいいなー」


女子の手が天井に突き刺さろうとしている頃、一人の女子が目に入った。小柄で、おとなしそうな子。その子が、一生懸命に手をあげていたのだ。頑張っているのか、頬が赤くなっている。


「なあ、シュン。彼女は?」

「⋯⋯」


シュンは顎に手を当てて考えた後。


「いいぜ。そこの女子。俺らと組もう」

「い、良いんですか?」

「んじゃ、お名前を教えてね〜」


彼女が名前を言おうとした。瞬間。


「波川サクラさんだよね」


アカリが、顔を微笑ませながら言った。


その言葉に、サクラと呼ばれた女子が頬を赤く染め、顔を覆った。


「どど、どうして私なんかの名前を⋯⋯!」

「当たり前でしょ? 大切なクラスメイトなんだから」

「⋯⋯ッ!」


サクラは、感極まっており、ろくに喋れていない状態だ。


「長末の目的はわかるんだけど⋯⋯。どうして波川は手を挙げたの?」


ユウナの唐突な質問。サクラはアワアワしながら、こちらを見た。

俺と目が合う。首を傾げた。すぐに目は逸らされる。


だが、ユウナは笑っていた。

そして。


「オッケー、わかった。教えてくれてありがと〜」

「えぇ!? ま、まだなにも言ってませんよ!」

「はぁ、もう、可愛らし〜い。こんな可愛い子がクラスにいたなんてぇ」


ユウナはサクラを抱きしめ、頭を撫で始める。


可愛いか⋯⋯。確かに小柄で、小動物的可愛らしさはある。だが、ユウナが抱きしめるほどか?

むーん。女子の可愛いの基準がわからん。



◇◇◇◇◇◇



七限目。


「肝試しをやることになった。それで、驚かす役を募りたい。⋯⋯吊り橋効果で意中の人を落としたいってやつは立候補しなくていいぞ」


担任の言葉に、生徒から黄色い悲鳴が上がる。


「だが、、そんなもんで落とせると思うなよ青二才どもが⋯⋯」


急に毒を吐き始めた。実体験なのだろうか⋯⋯。


「トウマどうする?」


シュンが椅子を傾け、俺の方を振り向く。


「俺はどっちでも良いかな」


俺は本物のゾンビ見てるし。怖くはない。血もたくさん見てきた。

何度も心臓が止まる思いをした。

今更降ってきたこんにゃくでビビる訳がないだろうな。


「じゃ、脅かす役やろうぜ。ユウナとアカリの腰を抜かしてやる⋯⋯」

「悪い笑い方だな⋯⋯」


悪魔が憑いたような笑いをしているシュン。それを見ていると。


「し、篠村さん⋯⋯」


服の裾が引っ張られる。


「どうしたの、波川さん」

「わ、わ、私と、肝試ししませんか?」


⋯⋯⋯⋯。


「それって、一緒に脅かそうってこと?」

「いや、えっと、そうじゃなくてですね。⋯⋯一緒に回りたいなぁって。だ、ダメですか?」

「いや、全然いいよ。むしろ、俺なんかで良いの?」

「はい! 篠村さんが良いです!⋯⋯はっ!」


口を押さえるなり、顔を赤くし始めるサクラ。耳まで真っ赤だ。

そんなに俺と回れるのが嬉しいのか⋯⋯?


「波川さんは、肝試し得意な方?」

「いやぁ、私は全然ダメです⋯⋯。篠村さんは得意なんですか?」

「まぁ、大概は大丈夫だと思うけど⋯⋯」


どうしよう。こんな大口叩いていざ本番で腰を抜かしたら恥ずかしいなんてもんじゃない。大丈夫なはずだ、俺。


「何話してるの?」


突如、アカリが会話に入ってきた。

瞳をパチパチさせながら。


「波川さんが、俺と肝試し回りたいってさ」

「⋯⋯」

「北見さん?」


アカリはムッとした顔をしながら、何かを呟いている。


「どうした?」

「もういい!」


アカリは怒った声を出して、ユウナの元へ行ってしまった。



◇◇◇◇◇◇



(郡元ユウナ視点)



「ユウナ〜。話聞いて〜!」


ブーたれた表情であたしの太ももへダイブしてきたのは、あたしの可愛い可愛い親友である北見アカリ。

スカート越しに、アカリの艶のある黒髪が太ももに心地よい刺激を与えた。


「どうしたの〜、アカリ」

「友達の話なんだけどさ⋯⋯」


アカリは人差し指を突き合わせ始めた。


⋯⋯キタッ!


アカリのいう友達の話は、大抵自分の話なのだ。

こういうわかりやすい嘘を頑張ってついているアカリの姿も可愛い。


「なになに?」

「友達がさ⋯⋯気になってる人を、別の女の子に取られそうになってるって言ってて、どうしたら良いと思う?」


アカリはあたしの太ももに、顔をすりすりし始める。猫みたいで可愛い。


「そうだな〜。思い切って、誘っちゃうとか?」

「何に?」

「遊びにとかかな〜。先を越されたなら、後でもっとアピールすれば良いんじゃない?」

「でもでも、恥ずかしいって時は?」

「その時は⋯⋯」


さて、どう答えるのが正解か。


あたしのIQ200の頭脳で考えてみよう。


まず『横取りしちゃえ!』


これは悪手。アカリも罪悪感を抱くし、アカリのいう、気になる子を誘った子も可哀想。あたしはアカリが勝って欲しいけど、恋する乙女の恋路を邪魔する気は毛頭ないのだよ⋯⋯。


次は、あたしがさっき提案した『後日遊びに誘う』


一見、良いかもしれない。誘った子のアピール度を観察した後、自分がどれくらいアピールすれば良いのかわかるから、アカリでも頑張れるかもしれない。

ただ、アカリの許容範囲を超えるほどのアピールをしなくならなければなくなると、アカリは撃沈してしまう⋯⋯。それに、気になっている子は二番煎じ感を感じてしまうかもしれない。


次に『同じ日にアタックしよう』


これはアカリでも頑張れるかもしれない。


「ちなみに、その友達は初恋?」

「そ、そうみたいだよ」


ふむ。初恋か⋯⋯。

良いな〜、アカリの初恋の相手になれて。⋯⋯むむむ。しかし、難しくなった。

アカリには失恋の経験なんてないはず⋯⋯。あるとすれば、アカリに告白して玉砕して逝った男どもの姿ぐらいか。


アカリには悲しい思いはさせたくない。でも、アカリといえど、一方の方を持って恋を応援するなんて⋯⋯あたしにはできない!


おっとっと。話が脱線した。


ふーむ。いろんなことを鑑みて、やはりするべきアドバイスは同じ日にアタックするようにいうだけかな。


「その子と、同じ日にアタックできそう?」

「できるよ⋯⋯」

「なら、そうして」


これで積極的になってるアカリを観察すれば、アカリの気になってる子もわかるしね!


むふふ。やはりあたしのIQは200。いや、ここはとあるラブ探偵に倣い、IQ3としておこう──────



◇◇◇◇◇◇



(篠村トウマ視点)



俺から離れて行ったアカリは、ユウナに慰めてもらっている。たまに何かを話し、ユウナが顎に手を当て考えているようだ。何か積もる話でもしているのだろうか。


「トウマはサクラと行くんだな。んじゃ、俺もユウナと回るかぁ」

「ひゃう!」

「どうした?」

「ななな、名前で呼ばれたので⋯⋯」


サクラは、シュンの何気ない言葉に反応してしまったようだ。


「もしかして、サクラってさ、男子に慣れてない?」

「えぇ、まぁ、そうです⋯⋯」

「ふーん」


あっ。シュンが何か悪いことを思いついているような気がする。


「ちなみに、サクラって呼んでもいいか?」

「良いですよ。⋯⋯名前で呼ばれるのは嬉しいので⋯⋯でも⋯⋯」

「でも?」

「し、篠村さんにも、呼んで欲しいでしゅ⋯⋯」


噛んだ⋯⋯。もしかして、これが可愛いというやつか?

って、俺に呼んで欲しいって!?


「お、俺に?」

「はい⋯⋯」

「⋯⋯」

「何恥ずかしがってんだよー」


うるさい。目でシュンを黙らせた後。


「サクラさん⋯⋯」

「〜〜〜ッ!」


サクラは、顔から湯気が出そうなほどに真っ赤になっていた。気の抜けたような顔をしている。目の前で手を振っても、ぴくりとも反応しない。気絶してる⋯⋯?


「なぁ、シュン⋯⋯って、いない!」


教室を見渡すと、シュンはユウナと、教室の隅で談合している。時折こちらに目線を向けた後、魔女のような笑い声を出している。


顔が良いのが台無しだ⋯⋯。


「サクラさん。大丈夫?」

「ひゃ、ひゃい⋯⋯。大丈夫、れす」


呂律が回っていない。ただ、目は回っているようだ。


「座りな」


サクラの手をとり、机にシュンの席に座らせる。


「わひゃあぁ!?」


サクラは一際大きな声を出し、クラス中の注目を集めた。


「篠村お前、何してるんだ⋯⋯」

「いやいや、何もしてませんよ!」

「なら、その手はなんだ?」


それが証拠だと言わんばかりに、指を刺されたのは、シュンの席に誘導するために握った手。


「いや、違っ、これはああぁ!」

「篠村さん。い、いきなりはびっくりするから、先に言ってください⋯⋯」


トドメの一撃。放ったのはサクラだった。



◇◇◇◇◇◇



「死ぬかと思った⋯⋯」

「あれはトウマが悪いよ〜」


電車に揺られる帰り道。隣にはユウナがいる。


「俺も迂闊だったけどさ⋯⋯」

「いやぁ〜面白いね、トウマは」


あのあと、自分の失態に気づいたサクラが平謝りしてきたが、時すでに遅しだった。

俺は男子から責められ、女子から疑いの目を向けられることに。


「トウマ、覚悟しておいてよね♪」

「何がだ?」

「林間学校でわかるよ〜」

「?」


俺は気づかない間にまた何かやってしまったのか?

ユウナはニマニマ笑うだけで教えてはくれない。

気になるな⋯⋯。




誤字・脱字報告を受け入れているので送ってくれたら嬉しいです。

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