表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険奇譚〜異世界行ったけどイージーじゃなかった〜  作者: ああるぐれい
神々に支配された世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/77

第四十九話

俺がカードを出すターンだ。出すべきカードは1。俺はKのカードを出した。まだ1を出すわけにはいかない。


ロウを殺すために、確実に殺すために。


「ロウの番だぞ」

「んぉー」


適当な返事をしながら、ロウはカードを雑に置く。そして、頭をポリポリと掻いた。


「なぁ、トウマ。お前、なんのために生きてんだぁ?」

「なんだよ、急に」

「さっきよぉ、ナツメの答えに詰まってたじゃねぇか。挙げ句の果てにゃあ、わからないときたもんだ」

「それが?」

「お前は、生きたかったはずだ」


ロウは手札を置き、身を乗り出した。俺の目の奥を覗き込むように。ロウの目は漆黒だった。ハイライトすらない完全な闇。キュウ、と目が窄められる。


「なぁんか、初めて会った時のお前とは違うんだよ。目が」

「お前の勘違いだよ」

「んな訳ねぇ。オレの勘は鋭いんだぜ」


ロウは俺の頬を掴んだ。


「お前は生きたいって目をしてた。生きるために、全力を注いでた。つーのによぉ、今のお前の目は、腐ってやがらぁ」


ロウは吐き捨てるように続ける。俺はそれを甘んじて受け入れる。

全てはロウの言う通りだからだ。


「今のお前は、自分は死んでもいいってツラをしてやがる。一体どういう了見だぁ?」

「お前には理解できないよ。自分が勝つのであれば、全てを捨てることのできるお前には」

「いーや、それは違うね」


ロウは手札の中の一枚をとり、場に置いた。俺から、一ミリも視線を外さず。


「少しは他人を見る目はあるんだぜぇ? このオレにはよぉ」


そして、初めて、ロウの目が逸らされた。視線の先には、俺とロウを具に観察しているナツメの姿。


「誰かを守ろうとするヤツは強ぇ。だが、美味くねぇ。自分のために、全力を注ぐヤツがいっちゃん美味ぇ。だから、お前が焼きプリンに見えたんだ」

「なら、お前の審美眼は間違ってたってことだな。コウセイとでも戦ってればよかったじゃないか」

「抜かせ。あんなん、他人に依存してるヤツと変わらねぇっだろうが。お前はさっきのゲームで、コウセイがどう見えたんだぁ?」

「俺には理解できない異常者に見えたよ」


ロウは鼻を鳴らした。俺を蔑むように。


「オレは自分の人生を終わらせられない臆病者に見えたけどなぁ」


だからなんだよ。それがなんだよ。それを言われて、俺はどうすればいいんだ?

今すぐお前を殺すために心血を注げってか?

もうやってるよ。ナツメのためにお前を殺そうとしてんだよ。


「あん時のお前はどこにいっちまったんだ? 自分のために生き抜くお前はぁ」

「ハナからいなかったぜ」

「それもねーな」


ロウは身を乗り出すのをやめ、椅子に座る。腕を組んで、俺を睨みつけた。


「あん時のお前は確かに焼きプリンだった。そうじゃなくなった原因は⋯⋯」


再び、ナツメを見た。

ロウの表情はぐにゃりとひん曲がる。


「あの女か」


⋯⋯!


「ククッ。見たかったぜぇ。その顔」


コイツ、ナツメを⋯⋯。


「殺るべきなのは、ナツメかぁ?」


ロウの手が強張る。筋張った手が、ナツメに残酷に牙を向く。


「アイツを食って、本当のお前を食ってやんよ」


ロウの目が見開かれた。

あんな目は、未だかつて見たことがなかった。どんな生物も、あんな残虐で、獰猛な目はしているところを俺は見たことがない。


ほんの少し前、ロウの目は漆黒だった。

今のロウの目には、光が灯っている。

瞳の黒よりもさらに黒い、漆黒の炎。

殺意によって焚べられた、明るすぎる炎。


瞬間、悟った。

あれが、ロウの本気の目だと。



◇◇◇◇◇◇



「二人とも、何を話してるの?」

「うんにゃ、何も」


ナツメの質問に、ロウが手を振って答える。その顔には薄ら笑いが張り付いている。


「男の話だもんな。なぁ、トウマ」

「⋯⋯あぁ、ナツメには秘密だ」


ここは乗っておく。ナツメが殺される前に、俺がロウを殺さなければならない。

早急に手を打つべきか。


「トウマくん。考えてくれた?」


ナツメの唐突な質問。


「あぁ、考えてるよ」


俺は確かに口にした。


「ロウを殺す」


ナツメはこくりと頷いた。


「私も、協力する」


ナツメはきっとロウと睨みつけた。


「覚悟しなさい」

「おうおう、おっかねぇや」


対するロウはこちらを半笑いでおちょくるだけだ。


ナツメは3であるカードを出す。

俺は4のカードではなく、7のカードを出した。

7のカードだけ三枚あるから、他のカードと比べて余裕がある。


ナツメをチラリと見た。

ナツメは、ロウの表情や仕草をつぶさに観察していて、眉間に皺が寄っている。


「ナツメさん」

「⋯⋯何」

「ロウにダウトを仕掛けないでくれ」


ナツメの顔が不機嫌になる。

カードを置いた。


「なんでよ。私は戦力外だって言いたいの?」

「いや、違う。俺は、お前にカードを背負って欲しくない。⋯⋯ナツメに死んで欲しくないんだ」


怒ってるだろうか⋯⋯。


ナツメの顔をそっと覗くと、顔を赤くさせ、小さな声で何かをつぶいやいていた。


「わ、私も死んで欲しくないわ。トウマくんにね。だって。⋯⋯だって」


言葉は次第に尻すぼみになり、ついには聞こえなくなった。握られた手は震えている。


「ロウは俺が殺すから」


言葉に出すことで、意識をより強固なものにする。


7のカードを出した。

ロウが次のカードを出した。

今度はナツメだ。


少し唸ったあと、カードを出した。


誰も喋ることはない。淡々とカードが出されていく。静寂の水面下で、熾烈な争いが行われている。その気迫は、誰も寄せ付けない。


勝負を仕掛けるのはまだ先だ。



◇◇◇◇◇◇



場には、カードが積み重ねられていた。真実と嘘が混じり合った死への切符。

枚数は四十八枚。


俺たちの手に握られたカードは全員二枚ずつ。指摘のミスが、少しの油断が命取りだ。


今はロウの手番。そして、出すべきカードは4。


あれから、誰も指摘していないため、ロウが4を持っていないことは明白だ。


「もうすぐで誰かが死ぬぜ、トウマ」

「お前だよ。ロウ。死ぬのはお前だ」

「あん?」


俺を訝しむ表情。


「何言ってんだぁ? お前」


そう言いながら、ロウはカードを出した。

俺の勝ちだ。


「トウマくん。待って!」

「どうした、ナツメ」

「指摘しないで。するなら私がする」


ナツメは少し焦っているようだ。


「さっきも言ったろ。ナツメには指摘させないって」

「だめ、だめ!」


ナツメは俺の口を塞ごうとする。

その手を素早く避けた。


「何してるんだよ。ルール違反って見做されたら、お前が死ぬんだぞ!」

「っ⋯⋯」

「何か言いたいことがあるのか?」


ナツメは言おうかどうか迷っているようだ。俺としては言ってくれた方が嬉しい。


「おい、ナツメ。言っちまった方が良いんじゃねえのかぁ?」


ロウの誘うような言葉。その言葉に寒気を覚える。ロウの言うことは聞かない方が良い。

ロウは、今敵対している俺にプラスなことは言わないはずだ。


「ナツメ、何も言うな。ロウの言うことは聞くんじゃねえぞ」


ロウが勧めたってことは、ロウにとって有利なことのはずだ。なら、俺はその逆のことをするまで。


「⋯⋯ダウト」


ロウの出したカードに指を刺した。


「ロウ。お前が出したカードは偽物だ」


誰も喋らなかった。静寂が場を支配する。直後、出されたカードが捲られた。それは、4ではなかった。俺の予想は当たっていた。だが、俺の持っているどのカードにも当てはまらなかった。


そのカードは──────


「ジョーカー⋯⋯」

「ククッ」


ロウの口から、笑い声が漏れた。


「クククッ、クフッ、クハハハハハハハハ!!」


ロウは笑った。高らかに笑った。


「フハ、ハァーハッハッハッハハ!!!」


目には涙さえ浮かんでいる。


場に置かれていた死への切符が全て、俺の手の中に舞い込んできた。


⋯⋯どうして、俺は気づかなかったんだ。


トランプのカードは全部で54枚。ジョーカーも含めてだ。俺はジョーカーが説明になかったから、ないと思っていた。ジョーカーがなかったら、52枚になり、三人に配るときに、誰かが一枚多くなるはずだった。なのに、全員同じ枚数もらっていた。俺はそれを見落としていた。


俺は気づかなかった。


見下ろした手札。そこには、ひょうきんな格好をしたジョーカーがニヤニヤ笑っている。


俺は、ロウに負けた。


ロウの手札は残り1枚。ナツメは2枚。俺は51枚。


次の手番は俺だ。だが、ロウの手番がくれば、俺の負けが決定する。実力行使で止めようとしても、ルール違反とみなされ、俺は死ぬ。


詰みだ。


「どうした、トウマ。なんか言えよ」


ロウは俺を睨め付ける。その顔は笑っていた。


「俺の負けだよ、ロウ」

「そんだけか?」

「あぁ」


これ以上言うことはない。


俺の言葉に、ロウは不服そうにした。


最後に、その顔が見れただけでもヨシとするか。


「⋯⋯ナツメ、ロウに勝ってくれよ。俺も、下で見てるから」


俺はカードを場に出そうとした。瞬間。


「待って!」


叫んだのはナツメだった。


「トウマくん。こっちを見て」

「どうした?」


ナツメは身を乗り出していた。顔が近い。こんな間近で、ナツメの顔を見たことはなかった。


⋯⋯ナツメ、綺麗だな。


「ごめんね」


唐突に告げられた謝罪。疑問を浮かべる暇もなく。


ペチッ。


乾いた響き。俺はナツメに頬を張られていた。とても優しいビンタだった。

俺の頭が急速に冷える。暴力行為はルール違反と見做され、処刑される。


どれだけ優しくとも、神に暴力行為と見做されれば、ナツメは処刑される。


「どう⋯⋯して⋯⋯」


言葉をうまく紡げない。どうしてナツメは俺にビンタした?


ナツメは目に涙を浮かべていた。ただ、力強く笑っていた。


「生きて、トウマくん。そしたら、私の願いは、叶ったも同然だから」


ナツメの声はまっすぐだ。どこまでも突き進んで行く、透き通った声。


近くにあった顔が、さらに近づく。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯チュ。


『暴力行為を発見。プレイヤー・桐谷ナツメを処刑します』


だめだ。守らなきゃ。


俺はナツメを庇おうと、抱きしめる。伸ばした手は虚空を泳いだ。

ナツメは、どこにもいなかった。

最初から何もなかったかのように。


全身が痺れた。ナツメは、ナツメはどこに行った?

いない。いない。どこにもいない。なんで。

何か、ナツメがいた痕跡は⋯⋯⋯⋯。


「ぁ」


はたと手に触れた。

残っていたのは、俺の頬に残る、いやに熱い跡だった。

誤字・脱字報告を受け入れているので送ってくれたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ