第四十六話
(南屋コウセイ視点)
ふふっ。ようやくトウマくんに会えた。あんなに僕のことを想ってくれているなんて。照れちゃうなあ。
でも、今はトウマくんと二人きりになれるように、人を殺しておかないと。それに、トウマくんには僕を本気で殺してくれるように、あのチハルってやつをトウマくんの目の前で殺そう。そうだな、それがいい。そうしよう!
チハルを最後に殺すとして、次は誰にするか。流石に警戒されてるだろうから、奇襲を仕掛けないとな。まぁ、誰でもいいか。いちいち決めるなんて面倒なことはせずに、最初から皆殺しにすればいいじゃないか。なあんだ。迷ってた僕がバカみたいだ。
じゃあ、この人にしようかな。選んだのは僕より年齢が高そうな男だ。
今すぐにでも殺しに行きたいけど、もうすぐで崩落する区画が出るから、一旦休むか。
『探索』でゲットした先読みのメガネを使用し、崩落する区画を確かめる。次は8か。関係ないや。今日はここで過ごすか。
◇◇◇◇◇◇
大きく伸びをした。ぐっすりと眠れた。いい朝だね。いつもこんな朝を迎えられたら良いのに。
このゲームに参加してから、日課になりつつある、『探索』を実行する。すると、僕の手に、一つのアイテムが飛び込んできた。
『反射鏡』
全てのアイテムの効果を反射するというアイテムだった。
へぇ。結構使えそうじゃないか。自分が死にそうな時に、一度だけ確定で凌ぐことができるアイテムか。ま、僕が使うことはないだろうね。追い詰められることなんてないから。
さて、『探索』もし終わったところだし、昨日殺すと決めた男を探し出すか。でも、僕が殺しすぎたせいで、人数に対しての区画の数が多すぎるんだよなあ。
ちょっとやりすぎちゃった。でもまあ、根気よく探せば良いからね。
家を出て、近くを散策していると、一人の参加者と出会った。その参加者は僕が探していた男だった。僕の顔を見るなり、警戒して、背中に背負っていた木製の野球バットを構える。
「お前⋯⋯何人殺したんだ?」
唐突な質問。深く考えるわけでもない。すぐに口から答えは飛び出た。
「覚えてないよ」
男の口がキツく結ばれる。
「そんなに僕の返答が気に入らなかったのかい?」
「違う。これはデスゲームだ。巻き込まれた以上、助かるためには、人を殺さなきゃならん。だが、楽しむなんて⋯⋯」
「何を言いたいのさ。困り顔しながら殺せば良いのかい?
それで殺人は許されるのかい?」
「違う」
「なんだよ。要領を得ないなあ」
男は僕をまっすぐ睨みながら。
「俺はお前を殺す。お前みたいな異常者は生きてはいけない」
「へぇ⋯⋯」
思わず感嘆の声が漏れる。僕のLPは40もある。他の人から見れば、僕は人を三人も殺している人間なわけだ。そんな奴とは関わりたくないはずなんだけど、この男は違う。
僕のLPを見てもなお、いや、さらに一層、僕を殺そうとしているのか。
「君みたいな人は初めてだよ」
「何がだ?」
「僕に殺されにきてる人間は」
「舐めやがって」
僕の啖呵は吐き捨てられる。直後、男が距離を詰めてくる。バットの間合いに入ったと同時、思い切り振り抜いてきた。
「おっと」
しゃがんでバットを回避し、男の背後に回った。隠し持っていたナイフで背中を一突き。
男のLPが3減った。残りは7。と思いきや、『命の水』の水を使用して、すぐに回復した。
「ずるいなあ」
「抜かせ!」
すぐに攻撃に転じる男。良い攻撃だ。ただ、僕の動きを予測できていない。僕のLPは40もある。LPが10しかない有象無象とは違って、捨て身の攻撃ができるのだ。
バットを受け流しつつ、ナイフを突き出す。ギリギリで回避され、距離を取られてしまった。
僕のLPが2しか減っていない。ふうん。攻撃を受け流しても、若干の攻撃判定があるみたいだ。まあ、だからなんだっていう話。
ナイフを投擲し、バットの間合いを殺した。瞬時に詰め寄り、胸ぐら、腕をとった。背中に男を背負い、力を込める。やったことなんてないけど、見よう見まねならできる。無理やり男を引っ張り上げ、地面に叩きつけた。
男の手からバットが離れる。それを遠くに蹴り飛ばす。
さあ、お互いに素手だ。⋯⋯と思ったら、男の手には僕が投擲したナイフが握られていた。
ありゃりゃ、取られちゃった。
「形勢逆転だな」
「そのナイフで、僕のLPを削り切れるかな?」
「できるさ」
僕はゆっくりと歩き、少しずつ間合いを詰める。男は逆手にナイフを持ち、煌めく刃を僕に見せつけた。
男を掴もうと手を伸ばした。もちろん、男は抵抗するために、ナイフを突き出した。ナイフは僕の左手を貫き、鮮血を散らす。ちょっとだけヒリヒリする。でも、泣き叫ぶほどじゃない。
引き抜くこともせず、ナイフごと男の手を掴む。僕の方が力が強いため、男は逃げようにも逃げられない。無防備になった顔面に、拳を叩き込んだ。鈍い音が鳴り、男は声にならない声を出す。
必死にガードするが、すでにヘロヘロだ。最も簡単にガードを突破し、鼻を折った。
鼻血が流れ、僕の拳を赤く染める。
「先ほどの威勢はどうしたんだい!?」
男はついに倒れ込んだ。
「や、やめてくれっ」
「君から喧嘩を売ってきたくせに!
言葉一つで止めるほど、僕は甘くないよ!」
倒れ込んだ男の顔面を踏みつけた。
そのまま、地団駄を踏む子供のように、何度も踏みつけた。
顔面を十分に踏んだら、胸や、首、腹を踏んだ。
最初は乾いた音だったが、踏み続けるたびに、湿っぽい音に変わっていった。
「ごふっ、ぐううっ」
男は苦痛に満ちた声を出した。
それを続けていると、男は消滅してしまった。
「もう終わりか」
残念。まぁ、前の男や女よりかは楽しめたかな。
穴が空いた手のひらを見つめる。血が流れ落ちており、鬱陶しい。
家に帰ったら適当な布で覆っておこう。
◇◇◇◇◇◇
(篠村トウマ視点)
コウセイと遭遇してから、一週間がたった。残り人数は四人。コウセイに当てられ、多くの参加者が潰しあった。俺たちが殺したのは、最初に襲ってきたピンク髪の男だけだ。コウセイは六人も殺しており、すでに神の盾も買ってある。
神の盾を買ってもなお、コウセイのLPは28も余っている。コウセイを殺すには、ゴールデンイーグルを温存している二人以上の参加者がいなければならない。コウセイを殺すとは言ったが、めちゃくちゃ難しいな。
今の所、LPが1番少ないのは俺だ。11しかない。チハルが23で、他のプレイヤーもチハルくらいはある。崩落していない区画も残り5区画しかない。
早めに決着をつけないとな。
日を跨ぐごとに、『探索』を実行してきた。アイテムもそれなりに溜まっている。
『ダイソン』が一つ。『掃除機』が四つ。『先読みのメガネ』が三つ。『命の水』が二つだ。
『反射鏡』はいまだに出ていない。
参加者一覧を見ると、一人減ったのが確認できた。
同時に、コウセイのLPが10増える。またコウセイか。
『P-device』をしまおうと、画面を閉じると、通知に反応し、画面が光った。
「トウマくん。これって⋯⋯」
通知の内容は、新たなギミックの登場だった。
『参加者の人数が条件を満たしましたので、ハンターが登場します。ハンターは自律的に行動し、参加者を発見次第発砲します。被弾した参加者は、5LP消費されます』
まじか⋯⋯。ここにきて不確定要素か。
「トウマくん。あれ!」
チハルの指差す方には、マスケット銃を持ち、首にボロきれを巻いている。マフラーのつもりだろうか。服装は黒いスーツだ。機械的な目は爛々と輝いており、どこまでも見通すみたいだ。
あれがハンター。
様子を伺っていると、ハンターがやにわに銃を構え、発砲した。俺たちの方角ではない。
参加者一覧を見ると、コウセイのLPが減っていた。
あそこに⋯⋯コウセイがいる。
ハンターが撃ったその先に⋯⋯。
すると、ハンターはこちらを向いた。しゃがんだが、遅かった。
右肩に衝撃が走り、脱臼したかと思うほどの痛みが突き刺してきた。
「ぐっ!」
「大丈夫!?」
チハルが駆け寄り、肩を抱いた。傷はない。ただ、俺のLPは減っている。
「私が前に出れば⋯⋯私の方がLPが多いのに」
「いや、出なくていい」
俺は『命の水』を使い、LPを回復する。しかし、5LPも失うのは相当な痛手だ。
もうすぐで六時だから、『先読みのメガネ』で崩落する区画を見ておこう。
『P-device』をタップし、アイテムを消費する。今日の崩落する区画は9。俺と、コウセイ、ハンターがいる区画は12なため、影響はない。
ハンターから遠かった方が安全だが、見失って場所もわからずに狙撃される方が怖い。
近くにいた方が良いな。
「今日はここで過ごそう。ハンターを見失いたくない」
「わ、わかった」
できれば、コウセイの居場所も特定しておきたい。奇襲されて、チハルが殺されるのはいただけない。ハンターがコウセイに向けて撃ったため、おおよその方向はわかっている。
やがて、崩落の時間になった。同時に、『P-device』に通知が来た。
7LPが添付されている。どうやら、崩落に巻き込まれたようだ。そして、コウセイのLPが減っている。つまり、『虚偽情報』を送って騙したのか。
「一対一⋯⋯」
悠長にしてる暇はないな。
「チハル。コウセイを殺そう。これから、俺とコウセイの約束を果たす」
「トウマくん⋯⋯」
「一騎打ちだ」
すぐさま立ち上がり、コウセイのいた方角を睨みつける。あそこのどこかに、コウセイはいる。
ずっと腰に下げていたゴールデンイーグルのグリップを握る。
とうとう、使う時が来たか。
「私はどうすればいい?」
ここにおいて行ってもいい。ただ、俺とコウセイがすれ違ったら、自衛する術を満たないチハルはコウセイに殺されることになる。
連れて行っても、殺される可能性が高い。でも、俺の手に届く範囲なら、助けられるかもしれない。
「俺と一緒にこい」
「うん、わかった」
◇◇◇◇◇◇
今、俺たちは、第12区画にある、一番背が高いビルの屋上にいた。九階建てだ。ここなら、ハンターの索敵範囲にも入らない。それに、コウセイの奇襲も受けにくい。少なくとも、ずっと心を張ることにはならない。
「ひゃあー、高い」
チハルは四つん這いになり、屋上から顔を出し、地面を見下げている。
「落ちたらどうしよう!」
「落ちないでくれよ」
貯水タンクに背中を預けながら、チハルの危なげな行動を尻目に捉えておく。
コウセイは俺たちを捕捉しているだろうか。ハンターの狙撃である程度の位置はわかっているのだろうが。
このままの状態が続くなら、残りの区画が一つになるまで状況は動かないだろう。ハンターの動向を探り、狙撃されないように動くだけだ。
人数的には俺たちの方が有利だが、正直、チハルは戦力にならない。ゴールデンイーグルを消費したのはいい。俺の油断が招いたからだ。それを責めることはしない。
しかし、チハルがコウセイと戦えるほどの戦闘力を有しているとも思えない。
俺だけで戦うことになる。
「トウマくん。どうしたの? 怖い顔しちゃって」
「いや、考え事してただけだよ。大丈夫」
チハルは俺の横に座る。
「静かだね」
「⋯⋯そうだな」
この崩落都市に、俺たち三人以外に、人間は誰一人としていない。すでに、崩落した区画は見るも無惨だ。
「落ち着く」
チハルは俺の肩に頭を乗っける。
「今の状況が?」
「うん。トウマくんと二人きりだから」
「⋯⋯」
返答に困る言葉だ。
風が吹く。このマンションは背が高いため、強風が吹くのだ。風に煽られたチハルの髪が、俺の頬をくすぐる。
「こうやって、静かに過ごせたらなぁ」
チハルの切ない願いは、無限の青い底に吸い込まれていく。
「俺もだよ」
俺も口を開いた。
「こうやって、静かに生きていけたらなって思う。でも、俺にはできなかった。⋯⋯いや、無理だった」
「どう言う意味?」
「運命ってやつかな」
俺の言葉に、チハルは疑問符を浮かべる。
わからなくていい。わからない方がいいはずだ。今が幸せなら、きっと。
ただ風が吹いている。
風切り音の合間に、一つの銃声。凪いでいた俺の心にさざ波が、いや、うねるような、大きな波が踊り出た。
ハンターが動いた。
俺はすぐさま立ち上がる。
「うベっ」
支えを失ったチハルが地面とキスした。
身を乗り出し、ハンターの居場所を探る。もう一度、銃声。
先ほど聞いた銃声よりも、一段と大きい。
近づいてきている。つまり、コウセイも近い!
「チハル!」
チハルを捕まえ、屋上の際まで引っ張っていく。
ハンターはマンションから少し離れたところ。およそ五百メートルの位置に佇んでいる。もう狙ってはいない。見失ったのだろう。
コウセイは、コウセイはどこにいる?
あたりを見渡すが、人影は一切見当たらない。どこに。⋯⋯いや、今は安全を確保する方が優先だ。コウセイを探しながら、チハルに手を伸ばす。
「チハル。俺に掴まって──────」
伸ばした先にあった手を、しかと掴んだ。だが、チハルは前にいた。空へと足を踏み出していた。いや、そんなはずはない。現に俺はチハルの腕を掴んで⋯⋯。
振り返れば、そこには、少し汗ばんだコウセイがいた。コウセイの手は、チハルがいたであろう場所に突き出されていた。
チハルのいい匂いだけがその場に残された。チハルの笑みは、滑らかに、何かを悟ったような表情に変わる。
だめだ。その顔は⋯⋯。
「だめだ!」
コウセイの手を振り払い、手を伸ばした。限界まで、筋肉がちぎれるほど強く。
伸ばした手は、虚空を泳いだ。チハルはこの世の法則に従って落ちていく。
風にたなびく髪がふわりと揺れた。巻き上がり、俺の指に触れた。 その指に、シャンプーの柔らかい匂いを絡ませた。
掴んだのは空気だけだ。
チハルは、俺の視界から急転直下。 見下げた俺はチハルの最後を目にした。 最後まで俺を信じている綺麗な瞳。そこに揺蕩う潤んだ光。 残像を残し落ちていく。
あぁ、聞きたくなかった。
ぐしゅり。
誤字・脱字報告を受け入れているので送ってくれたら嬉しいです。




