第四十五話
神のルール説明が終わると、神は帰っていった。
すると、コウセイが話しかけてきた。妙な表情をしている。
「覚えてるかい、トウマ君」
コウセイは俺と肩を組む。そして、顔を覗き込んでくる。その顔は薄ら笑いを浮かべているが、至って真剣だ。
「お前を殺すことか?」
「あぁ、お誂え向きだ」
「そうだな。お前を殺してやる。完璧にな」
俺の体を、転送の光が包んだ。他の参加者同様に。
これから、ゲームが始まる。
「チーミングはしないからね」
「おう」
◇◇◇◇◇◇
俺は、どこかの立体駐車場に飛ばされていた。
結構大きいな⋯⋯。
遮蔽物が無いため、ゴールデンイーグルの格好の的だ。まあ、切り札をこんな序盤に使うやつなんかいないと思うけど。
俺は『P-device』を取り出し、『探索』を実行した。
ファンシーな効果音と共に、アイテムが出現する。
「『ダイソン』⋯⋯か。なんだこれ」
ルール説明の時にはなかったはずだ。
効果を調べると、任意の対象の3LPを奪取し、自分のLPに変換できる言うことが分かった。結構強いんじゃないか?
普通の掃除機が2LPを奪取するっていう効果だから、上位互換ってことになる。切り札になりそうだ。大事に使っていこう。
『探索』を実行し終わり、することもない。
⋯⋯移動するか。
一区画がどれくらいの広さなのかは分かってる。一区画は四キロメートルだから、俺だったら十分くらいで抜けられるか。
マップを開くと、俺が今第四ブロックにいることがわかる。
スコアボードを開いた。スコアボードは参加者全員分のLPが表示されているため、誰を狙えば殺すことができるかわかるのだ。
今は全員初期値の10だ。ここからどうなるか。とりあえず、LPが2以下にならないようにしなければならない。2以下だと、掃除機に吸われた時に即死してしまうからな。
とりあえず、建物中に移動するか。
「あ、あの⋯⋯」
突然話しかけられ、反射的に肩が跳ねる。
「ご、ごめんなさい。驚かせてしまって⋯⋯」
「い、いや、大丈夫」
振り返ると、そこには女子がいた。俺より随分年下だ。下手したら小学生ぐらいじゃなかろうか。
「良くここまでこれたね」
そういうと、女子は頬をぷくりと膨らませ。
「私、成人してるんですけど」
「あ⋯⋯すみません」
どうやら大人みたいだ。小さいため、大人には見えない。揶揄われているみたいだ。
「あの、協力したいんですけど、一人は不安だし、人数は多いほうが有利ですから」
「ま、まあいいですよ」
短く答えると、女性はにぱっと笑い、俺の横に並ぶ。
「一緒に頑張りましょうね!」
普通話しかけてくるか?
初対面のやつに。しかも自分の体を晒して。俺じゃなかったらゴールデンイーグルで撃ち抜かれるか、警戒されて逃げられるかのどちらかだ。
こんな警戒心のないやつがここまで生き残れるかと言われると、そうでない気がする。
女性はガッツポーズをして意気込んでいる。
「あ、ちなみに、お名前はなんですか?」
「篠村トウマです⋯⋯」
「そうなんですね。私は藤崎チハルです!」
なんだろう。いちいち元気だ。この人が何か話すたびに空間に花が咲く感覚になる。
「とりあえず、建物の中に入りましょうか。ここは危ないので」
「うん、わかりました!」
◇◇◇◇◇◇
立体駐車場の横にあった建物に入る。そこには婦人服やゲームコーナーがある。どうやらデパートみたいだ。立体駐車場はこのデパートのものだったか。
電気は通っていないみたいで、若干薄暗い。
「ふわ〜。このワンピース可愛い!」
そう言って一枚のワンピースを手に取り、自分の体に当ててみる。
「どうですか? 似合いますか?」
俺は服の良し悪しがわからない。あまり服に興味無いし。でも、それを言っちゃあこの人が悲しむよな。と、言っても、普通に似合ってる。
「お似合いですよ」
「本当? やったぁ!」
そう言ってはしゃぐチハル。なんだろう。幼い子供みたいだ。子供ができたらこういう気持ちになるのか。心が浄化されるみたいな感じ。案外悪くない。
チハルはワンピースを元々あった場所に直すと、近くのゲームコーナーに駆け寄る。
「やってみましょう。やってみましょうよ、トウマさん!」
「い、一応殺し合いの途中ですからね?」
「もちろん、わかりきってます!」
本当か?
本当だったら、デパートのゲームコーナーで遊ぼうとするはずがないんだけどな。
何か裏があるのかもしれない。
「ほらほら、早く!」
チハルは、バスケットゴールにボールを入れるやつを遊ぼうとしている。今にもボールを放とうとしている。正気か?
「やらないんですか?」
チハルは俺の目を見つめた。俺は、俺は、俺は──────
がしゃん!
「あ〜、惜しいです!」
俺が放ったバスケットボールは、放物線を描き、入る寸前でリングに弾かれる。
どうして俺は、こういうのを断れないんだろう。この無邪気な笑顔に当てられたからだろうか。
「私も投げるので、見といてください」
そう言ってチハルはボールを持った。そして不安定なフォームでボールを放った。当然、リングからは大きく外れ、ゲームコーナーの奥の方へ転がって行く。
「俺がとってきますよ」
転がるボールを追いかけ、ゲームコーナーの奥の方へと進んでいく。ボールは、小さいメリーゴーラウンドの土台に当たって止まる。
ボールを拾い上げる。
直後、首元がヒリつき始める。何か、嫌な予感。そのばから飛び退いた。誰かが、メリーゴーラウンドに乗っている。ソイツは浅く座り、足を投げ出している。ピクリとも動かない。
死んでる⋯⋯?
いや、手には何かが握られてる。まだ生きている。
女⋯⋯いや、男か。
チハルはまだ知らないはずだ。すぐにここを離れて⋯⋯。
これからどうするか考えていると、男は弾かれたように手に持っているのをこちらに向けた。
薄暗い場所でも、ギラギラと目に焼き付く黄金色。それが意味するのは──────
「⋯⋯ッ!」
横っ跳びし、射線から大きく外れる。俺はボールプールのアトラクションの影に隠れた。そして、アトラクションの後ろを通りながらチハルの元に辿り着く。
「あれ、ボールは?⋯⋯うぇっ!」
「逃げるぞ!」
チハルの手を掴み、一目散にゲームコーナーから離れる。近くにあった女性用トイレにチハルを放り込む。
「出て来るなよ」
「で、でも」
「ここにいろ。大丈夫だから」
誰かを諭した時と同じような言葉を吐きながら、俺はゲームコーナーに近寄る。俺らがデパートに入ったのはちょっと前だ。対して、あの男は完全に無防備だった。つまり、ここに人がいないことを確認していると言うこと。であれば、デパートの隅々、とまではいかないだろうけど、他の参加者がいないか見回ったはずだ。
地の利は向こうにある。下手に動けばやられる。なら、自分が把握できる地形で戦った方がマシ!
ゲームコーナーから伸びる足の影。
「おいおいおいおいおい。呑気に女とショッピングかよぉ。俺も混ぜてくれよなぁ」
出てきたのはガラの悪い男。ピンクの髪。無地の白シャツに、少し前に流行ったダメージジーンズ。
いかにも、といった風貌だ。俺の偏見だけど。
その手には、ゴールデンイーグルがしかと握られている。
いつでも動けるように、用意はしておく。
男は銃をこちらに向けた。
「今撃っちまうのか? もったいねえな」
「チッ」
男は俺の指摘に舌打ちをする。当たり前だ。当たれば誰でも殺せる銃を、こんな序盤で撃つ馬鹿はいない。男もそれに気づいている。ならなぜ俺に向けたのか。
ビビってるか、舐めてるか、だな。これみよがしに銃を構えるのがいい証拠だ。
できれば前者が良い。俺も戦いたくないし。
「あんたも馬鹿じゃないならわかるはずだろ。今銃を撃つって言うのだやばいってこと」
「まぁな」
「なら、ここは矛を収めようぜ。そんで、俺ら二人は別のとこに行くよ。邪魔して悪かったな、寝てるとこの」
そう言って、俺は男から目を離さずに、チハルが隠れているところに辿り着く。
「行くぞ。チハル」
「だ、大丈夫なの?」
「あぁ、多分な」
俺はチハルを背中に隠しながら、男から離れた。
見えなくなったところで、チハルが口を開いた。
「倒さなくていいんですか?」
「ここで戦っても、消耗するだけだ」
チハルはどうすればいいかよく分かっていないらしい。まぁ、当然か。
今いる場所は、フードコート。
有名チェーン店が立ち並び、見るだけで涎が出そうだ。しかし、今はあいつから離れなければならない。すぐにここを出て、適当な屋内に逃げ込もう。
「チハルさん、行きましょう」
「むぅ」
チハルは頬を膨らませ、不満の声を漏らす。一体何が不満なのだろう。
「敬語に戻った⋯⋯」
「それが?」
「敬語じゃない方がかっこいいし、男らしいよ」
は?
一体何を言ってるんだ?
さっきまで敵対していた者がいたのに、すぐにこう言う軽口を言うなんて、どんだけ余裕があるんだよ。調子が狂うな。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう」
「私は死ぬとしても楽しく死にたいからなぁ、できるだけ明るくしているのですよ!」
チハルは俺の肩を叩きながら続ける。
「それに、打算的な考えもあるのです。こうやって甘えれば、庇護欲を掻き立てられると言いますから」
「それを言っちゃあ効果がないでしょ」
「は、確かに!⋯⋯あははは!」
チハルは涙を浮かべながら、先ほどよりも強く肩を叩いた。妙に叩かれた方が暖かい。体温が高いのだろうか。本当に子供みたいだ。
「別に、庇護欲を掻き立てられなくても守りますよ。協力してますから」
俺が裏切ることを心配してるのか。あえて明言することで、情を湧かせようとしているのか。
「約束です!」
しかし、そんな疑いの目は、千春の無邪気な笑みによって霧散した。
「私はこんな性格なので、煙たがられてきたんです。真面目にしろ、ふざけてるなって」
チハルは人差し指を突き合わせ、上目遣いでこちらを見つめる。
なんともあざとい。だが、別に不快感はない。
「でも、トウマさんは私に対しても、とやかく言わないし、優しいしで⋯⋯」
なんだこれ。こそばゆい。妙に背中がムズムズする感覚を覚えながら、チハルから紡がれる言葉に耳を傾ける。
「力も強いし、さっきので頭も良いってわかったし⋯⋯」
「も、もう良いです」
「んむっ⋯⋯」
俺はこれ以上体が火照らないように、チハルの口を塞ぐ。
くそ、なんだよこれ。本当に。
そもそも、このゲームは一人しか生き残れないんだし、仲良くしたって無駄なんだ。どうせどっちかは死ぬんだ。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
「はああああ⋯⋯」
「どうしたんですか、ため息ついて」
「いや、なんでもないです」
仲良くしようとしているチハルの行動を、無駄だ、意味がないと切り捨ててしまった自分に嫌気がさしたのだ。
頭をわしゃわしゃ掻き、頭を振ってネガティブな思考を振り落とす。
「行きましょうか、別の場所へ」
「うん。⋯⋯あ」
チハルの視線は俺の頭上に注がれていた。
失念していたのだ。地の利は向こうにあるということに。
面白いと感じたらブックマーク、感想等お願いします。
誤字・脱字報告も受け入れているので送って下さい。




