第三十七話
次のゲームの告知が『P-device』に映し出されていた。
「次のゲームは『カウント・アウト』」
名前から察するに、何か数字が関係するのだろう。カウントというほどだからな。
このゲームはマルバツクイズとは違い、ブロックで分けられておらず、初めからチームが組まれていた。
俺のチームは相澤レンと相澤ショウタ。マルバツクイズで協力した兄妹だ。
良かった。知ってる人で。俺は初対面の人と喋るのは得意ではない。鬼ごっことか、マルバツクイズではペラペラ喋ってたが、あれは極限状態に置かれていたからだ。人見知りが理由で死ぬなんて嫌だからな。
「ゲーム開始まで二日後、か⋯⋯」
この二日間で体を休めろ、という合図なのだろうか。それとも、このゲームの対策をする猶予を与えてくれているのだろうか。
しかし、名前で推測できることは数字が関係していて、何かを数えることがある。ということしかわからない。こんなのでどうやって推測すれば良いのか。
どんな名探偵でも難しいだろうな。
大きく伸びをして、ベッドに倒れ込む。すると、腹の虫が暴れ出した。
俺は飛び起き、風呂に入ってから、参加者が住んでいる宿舎に設置されている食堂に向かうことにした。
◇◇◇◇◇◇
食堂のメニューは充実していて、どれを食べようか迷うほどだ。中華、洋食、和食、果てにはジャンクフードまで。俺は手っ取り早く食べられるラーメンを選択。そして、デザートにチョコミントアイスを選んだ。食い合わせが悪いように思えるが関係ない。自分が食べたいものを食べれば良いのだ。
いつ死ぬかわからないんだし。
俺は適当な席に着き、早速食べ始める。
「よぉ」
「んあ?」
俺に声をかけてきたのはロウだった。ロウの持っているプレートには、ステーキが三枚乗っていた。今にも落ちそうで、ハラハラする。そして、そのステーキを取り囲むようにして、プリンが置いてあった。
いや、何個食べるつもりだよ。軽く五個は超えてるぞ。
「ここ、天国だぜ。焼きプリンが何個でも食える!」
目を輝かせながら、ステーキをペロリと平らげ、焼きプリンを食べるフェーズに移行する。
「お前、焼きプリン好きなの?」
「おう、当たり前よ」
「そんな食って飽きないのか?」
「んなこたねーよ」
ロウは手をひらひらさせ、俺の言葉を否定する。
つーか、ロウって俺のことを焼きプリンと呼んでたような⋯⋯。
「なあ、お前、俺のこと焼きプリンって呼んでたよな。あれってどういうことだ?」
「ん、あれふぁ。あれふぁな。おまへか」
「飲み込んでから話せ」
「⋯⋯。あれはな、お前が焼きプリンに見えたからだよ」
「眼科行ったほうが良いぞ」
俺のツッコミにロウはニヤけて。
「別にほんとにそう見えたわけじゃねーよ。あれはなぁ、『食い甲斐』を求めるオレにとって、お前は焼きプリンに値するほど『食い甲斐』があるってことだぁ」
なるほど、わからん。
「要するに、気に入ったってことか?」
「んー、まぁ、そういうこった」
ロウは俺の言葉を肯定した後、最後の焼きプリンを平らげた。
そして、俺のご飯を見て笑い始めた。
「んだよ、ラーメンにチョコミントアイスってぇ」
「良いだろ、別に。そういうお前だって、ステーキにプリンっていう食い合わせ最悪のもん食ってるじゃねえか」
俺の反駁に、ロウは目を窄めた。あの時、俺がロウとマンションの屋上で戦った時の目をしている。狙った獲物は逃さない猛禽類の目だ。
「プリンじゃねぇ、焼きプリンだ」
「お、おう」
あまりの気迫に頷く。首を縦に振らないと首が百八十度まわるところだった。
「んじゃ、オレは食い終わったから帰るわ」
ロウが去っていった。そして、入れ違いに来たのは相澤兄妹だった。
「ちょっと良いか。次のゲームについて話し合いたい」
レンは俺のことを見つめるだけだが、ショウタの俺を見る目は少しだけ厳しい。まあ、ロウとあんなことがあって、俺はロウの肩を持つようなことをしたからな。そんな目で見るのは当然か。
そして次のゲームでは一緒になった。警戒しない方が不思議だな。
「座ってよ」
俺が促すと、レンは俺の前に座り、ショウタはレンの横に座る。
「次のゲームのことについて、何かわかることはあるか?」
「そうだな⋯⋯。せいぜい、数字が関係することくらいか?」
「だよねぇ」
レンが頬杖をつき、溜め息を吐いた。
「そういえばさ、マルバツクイズのとき、レンは妹じゃないって言ったよな。あれってどういうことなんだ?」
「ああ、それはね、私たちは双子なの。だから、私がお姉ちゃんでもあるし、妹でもあるの。でもね、ショウタは私のことを妹扱いするから⋯⋯」
「実際、レンは妹だろ。俺のことお兄ちゃんって呼ぶし」
「それは仕方がないとき!」
ショウタが口を挟むと、レンが声を荒らげる。自分を年下扱いしてほしくないみたいだ。
俺は言い合っている双子を眺めながら、デザートであるチョコミントアイスを口に運む。
喧嘩するほど仲が良い、か。良く言ったものだ。
「まあ、落ち着けよ。俺はどっちでも良いと思うし。それより、次のゲームで生き残るのが大切だろ?」
「そうだけど⋯⋯」
「兄貴としての威厳を保たなきゃだしな」
「だから同い年って言ってるじゃん!」
「そうだとしても、俺はお前を守らなきゃいけないんだ」
レンがショウタの耳を引っ張る。ショウタはなんとも思ってないみたいだ。
喧嘩、と言えるほど激しくない。むしろ微笑ましい。互いを想いあっているが故の喧嘩か。
「イチャつくのはやめて、要件はそれだけか?」
「「イチャついてない!!」」
双子だな。
「俺は帰るぞ。休まなきゃだし」
「ああ、時間取らせて悪かったな」
「次のゲームはよろしくね」
「おう」
◇◇◇◇◇◇
時間がきた。時間は一分を切っている。猶予である二日間は、俺はベッドにくるまってひたすら寝ていた。マルバツクイズでの身体の疲労と、心の磨耗も十分に回復できた。
俺は『P-device』をポケットに突っ込み、転送される時を待った。直後、景色が切り替わる。目の前には、レンとショウタがいた。
「始まったみたいだな」
ショウタが呟く。
転送されたのは、普通の部屋の中だった。目の前には食卓があった。食卓にはインテリアのつもりなのか、バナナとリンゴが皿に盛り付けられてある。その後ろにはキッチンがあり、調理器具一式が揃えてある。安っぽい白いLEDが部屋を照らしていた。椅子は四脚もあった。最初から三人しかいないのに。
壁際には緑色のソファがおいてあり、その横には別の部屋へと繋がるドアがある。
このゲーム、少し時間がかかりそうだな。
『ルール説明をします』
天井から声が降ってきた。マルバツクイズで問題を述べていた声と同じだった。
『このゲーム、「カウント・アウト」はタブーを特定するゲームです。タブーは五個あり、それら全てを特定する必要があります』
なるほど、タブーか。
「ねえ、後ろ」
レンの視線の先には、モニターがあった。モニターには『50』と書かれている。
『壁にあるモニターは、タブーを犯して良い回数です。これが「0」になると、即ゲームオーバーです。ご注意ください。また、このゲームの制限時間は七十二時間です。これを超えると即ゲームオーバーです』
なるほど、二つの制限があるのか。このカウントを減らさないよう、タブーを見つける。そして、三日経つまでにタブーを特定したら生き残ることができると。
タブーの数は五個。個数的に七十二時間という制限は余裕がありそうだ。
『タブーを特定したら、『P-device』に書き込んでください』
『説明は以上です。ごゆっくり』
あの時と同じような皮肉で音声は途切れた。
「わかったか?」
「うん、大体はね」
「こりゃめんどくさそうだな」
レンが部屋を歩き回り、閉じていたドアを開けて中を確認していく。
「待てレン。あんまり動き回るな」
「なんでよ、ショウタ。私たちはここで三日間過ごすんだよ? 何があって何がないのかは把握しとかなきゃ」
「違う。もうゲームは始まってるんだ。下手に動き回ると、タブーを犯しかねない」
いや、そうじゃない。確かにそうだが、そうでもないんだ。
「動き回るのは良いと思う。でも、自分が何をしたかが重要なんだ」
俺の言葉にショウタが反応した。
「どういうことだ?」
「俺たちはタブーがなんなのかわかってない。つまり、一度タブーを犯さなければ、タブーがなんなのかさえわからない。それに、モニターを誰かが見ておかないと、タブーを犯した時、誰がどんな行動をしていたのか特定しても意味がないんだ。いつカウントが減ったかわからないからな。動き回るのは良いけど、誰かがモニターを見張っておかないと」
ショウタは少し考えてから。
「トウマがモニターを見ててくれ。俺とレンで部屋を探索してくる。カウントが減ったら叫んで教えてくれ」
「わかった」
二人が散開していく。俺はモニターを見つめた。
一瞬でも目を離した瞬間、カウントが減ってもおかしくは無い。もしそれが起こったら俺のせいで二人が死ぬかもしれないのだ。それだけは避けたい。俺はモニターに穴が開くほど眺めた。
時折二人の声が聞こえてくる。何かを漁っているのか、物音が響く。部屋には俺しかいないため、二人の声が良く聞こえる。
二人が戻ってくるまでどれくらいかかるだろうか。数分だろうか。
床に座るのも腰が痛くなるため、俺は立ち上がり食卓に備え付けられた椅子に座った。
そして、モニターを眺める。瞬間、モニターの『50』が『49』に変わった。
「変わったぞ!!」
俺の叫び声に二人が駆け戻ってきた。
「まさか⋯⋯」
「二人は何をしてた?」
「俺は寝室に何か無いか探してたよ」
「私はお風呂を確かめてた⋯⋯」
なんだ?
何がタブーだったんだ?
俺はただモニターを見ていただけだ。もしかして、モニターを見ることがタブーなのか?
いや、まさかな。それがタブーだったら、視界にモニターが入る度にカウントが減っていくはずだ。
「俺はただモニターを見てただけだ。俺がタブーを犯したとは思えない。二人のどっちかが何かをしたってことになるよな」
「まあ、そうだが⋯⋯」
強いていえば、俺は椅子に座った。それだけだ。もしそれがタブーだったら、俺が座った直後にカウントが減らなければおかしい。タイムラグがあるのならこのゲームをクリアすることは不可能だ。なぜなら、命と同義であるカウントを犠牲にしてタブーを特定するという手段ができないからだ。
いや、もしかしたら、俺が原因でカウントが減ったのかもしれない。このゲームにおいて⋯⋯というか、今までの、そしてこれからのゲームにおいて先入観は足枷になるだけだ。
何もしていない俺がカウントが減った原因になったのかもしれないのだ。全ての事象を疑ってかからないければ、このゲームを生き残ることはできない。
「もしかしたら、俺のせいかもしれない」
「ど、どういうこと?」
「もしかしたら、俺が無意識のうちにやってたことがタブーだったのかもしれない」
何か俺がやったことといえば⋯⋯⋯⋯。もしかして、何もしていないことがタブーなのか?
ポケットから『P-device』を取り出し、タブーを書き込んだ。
『何もしないこと』
しかし、何も起こらない。五個ある枠にはなんの変化も起きない。これは違うってことか。
というか、何もしないって何を指しているか曖昧だもんな。そりゃ違うわけだ。
「何をしたの?」
「もしかしてと思って書き込んでみたんだ。でも、違ったよ」
俺はソファに深く座り込んだ。なんでカウントは減ったのか。これを解き明かさなければ、生きて出られない。俺は一切モニターから目を離さなかった。それだけは確実だ。そして、椅子に座って少ししたらカウントが減った。少し実験してみるか。
「ちょっと良いか?」
「どうしたの?」
「少し試したいことがある。カウントが減った時、俺は床から椅子に座り直したんだ。その少し後にカウントは減った。椅子に座ることがタブーなんじゃないかなって」
「なら、俺が座ってみるぞ」
俺の言葉を聞いたショウタがすぐに椅子に座る。しかし、しばらく経ってもカウントは減らなかった。
「カウント減らないね」
「⋯⋯ああ、減らないな」
「じゃ、違うってことか」
ショウタは立ち上がり、伸びをした。
「俺さ、腹減ったんだけど」
「じゃあ、私作るよ」
レンが長い髪をヘアゴムで纏めつつ、言い出しっぺのショウタをキッチンに引っ張っていく。俺も手伝おうとしたが、レンに断られてしまった。
なら、俺はタブーを推理することにしよう。
何か他の──────
「!」
いつの間にカウントが減っていた。
「減ってる」
俺は一体何をした?
いや、今度こそ俺は何もしていない。絶対にだ。
「二人とも!」
俺の呼びかけに二人も察したようだ。モニターを見て、すぐに自分が何をしていたか探る。
「いつ減ったんだ?」
「いや、俺も見てなかった。ただ、いつの間にか減ってたんだ」
「俺は手を洗って、食材を出そうと冷蔵庫を開けたくらいだぞ。レンは?」
「私は⋯⋯髪をまとめて、手を洗ってたくらいかな」
なら⋯⋯。
俺は『P-device』を取り出し、タブーを思われるものを打ち込んだ。
『手を洗う』
だが、何も変化は起きない。だったら⋯⋯。
『髪を触る』
これもなんの変化も起きなかった。
「他には何をした?」
「私、これ以上何もしてないよ」
「別に自分がやったことじゃなくて良い。誰かがやったことでも、何かをしてる途中でやってしまったこととか!」
レンが『P-device』を取り出す。そして、自分がしたであろう行動を全て打ち込んでいく。
やがて。
「あっ⋯⋯」
小さく声を漏らした。それと同時、『P-device』から音が鳴った。ガラガラで一等賞が出た時のような、激しくベルを揺らす音だった。
画面を見ると、文字が表示されていた。
『タブーを特定しました。「耳を触ること」』
レンが特定した!
「どうしてわかったんだ?」
「何がダメだったか見当がつかなかったから、私がこの部屋で触ったものを全部入力していったの。そしたら当たった」
総当たりしたのかよ。
「運が良かったな、レン」
「日頃の行いがいいからねー」
そう言って笑顔を作るレン。その笑顔はとても眩しい。思わず目を細めるほどだ。
「ショウタにはできないもんね。日頃の行いが悪いから」
「なっ⋯⋯。成績は俺の方が良いだろ!」
「関係ないもーん」
そうやってレンはそっぽを向く。
小言を言い合いながら、料理に精を出し始める。
「残りのタブーは四つか」
一日目で特定できて良かった。もしかしたら最終日までタブーを一個も特定できずに⋯⋯なんてことになるかもしれなかった。
今日中にあと一つタブーを見つけられたら良いな。
まあ、無理に見つけようとしてカウントを減らすのも嫌だし、今日はこれで良いのかもしれないな。
誤字・脱字報告を受け入れているので送ってくれたら嬉しいです。




