第三話
下ネタが出てきます。
苦手な人はご注意ください。
「全員、散開!」
その言葉と共に、グループの全員が敵を囲むように展開する。俺は短剣をメンバーに託し、銃撃による後方支援にまわる。肩に力を込め、ある程度狙いをつけながら引き金を引く。俺以外のメンバーの四人が接近戦に持ち込み、四人の攻撃の隙間を埋めるように俺が発射した鉛玉がクレルに飛んでいく。しかし、クレルはそこら辺を歩いているAIとは装甲が比べものにならない。当然のように弾を弾いている。だが、少しでも牽制になっていれば良いのだ。
「こいつ硬すぎるぞ!」
どうやら、俺が渡した短剣の切れ味が鈍いらしい。それほどまでにヤツは硬いと言うことだ。
⋯⋯⋯⋯今更だが、ロボット三原則はどうなったんだ。とっくの昔、九年前に消えたのだろうか。
そんなことを考えながら空になったマガジンを放り、替えのマガジンを装填する。しかし、こんな大胆に戦っていると、音があたりに鳴り響く。それに釣られ、大勢の一般のAIが湧いてくる。
「「人類ヲ排除シマス」」
それらから放たれる光線を避けながら接近し、頭部を拳でぶち抜く。
最初は逃げ惑っていただけだった俺が、今となってはワンパンで倒せるなんて⋯⋯⋯⋯。
若干の感動を覚えるところだ。
替えのマガジンを撃ち尽くした頃には優に二十体を超えるAIを撃破していた。これでサンプルとしての数は十分だろう。クレルとは戦わずに離脱してもいいが、アイツを倒せば有益な情報が得られそうだから、離脱する気はリネ達にはないはず。
「リネさん。AIは十分ですよ!」
「コイツをぶっ殺してからズラかるぞ!」
「了解!」
意思確認を一つし、また撃ち始める。
「チョコマカト、豆鉄砲ナゾ効カンガ、ウザッタイゾ」
クレルの目がギラリと光り、こちらに先ほどまで振り回していた大剣を投げてきた。危なげなく避けると、リネたちにはお構いなしにダッシュで距離を詰めてきた。目算にして十三メートルほど。すぐに近くまでくると、拳を振り抜く。紙一重で躱したが、銃が壊されてしまった。すぐに距離を取り、離れようとしたが、クレルの追撃の方が一歩早かった。
「トウマぁ!!」
リネが叫んだ。クレルは鋭く重いパンチを俺の腹にぶち込んだ。俺は骨の悲鳴を聞き、血反吐を吐きながら宙を舞った。
◇◇◇◇◇◇
あれ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯?
俺、何してたんだっけ。あぁ、そうだ。AIと戦ってたんだ。なんで、戦ってたんだっけ。あ、今、二人が戦ってる。俺、今倒れてる。あれ、なんで二人だけ。確か、俺を含めて五人いたような気がする。なのに二人足りない。
痛む首をどうにか動かして、戦闘が行われている場所を見る。そこには、両断された二人の死体が落ちていた。それぞれ大量の血を流し、虚な目をしている。ほんの少し前まで、あんなに生気が灯った目をしていたのに。
「ルカぁ!」
リネの悲痛な叫び声が聞こえた。ルカと呼ばれた男はAIの大剣に両断されようとしていた。あの男は俺の質問に丁寧に優しく答えてくれた男だった。まさに切られようとした瞬間、俺と目があったような気がした。いや、目があった。ルカはニヤリと笑い、手に持っていた短剣をこちらに投げた。ルカは体を真っ二つにされた。投げられた短剣は、空中で弧を描きながら、倒れて動けないでいる俺の手の元に転がり込んできた。
今、なんで俺に短剣を投げた? その短剣で自分の命が助かったのかもしれないのに。自分の命を賭して、俺に次を託したのか? あの笑いは次を託せた安堵によるものか?
俺が進むと信じて次を託したのか。
なら、俺はこの次を誰かに託さなきゃ。
手の中にある次をしっかりと握りしめる。地面を匍匐前進の要領で進む。戦闘が行われている場所はすぐ近くだったが、負傷して歩けない俺にとっては、あの十キロよりも長い道のりのように感じられる。
「ドウシテ、ソンナニ顔ヲ歪メテイル。想イ人デモ、死ンダノカ」
「あたしの大切な仲間である部下が、お前に殺されたからに決まってるだろうが!」
そう叫びながらリネがクレルを殴りつける。今の形勢は五分だ。どちらかが隙を見せた瞬間、負ける。俺がその隙になる。リネを勝たせる。
少しづつ進んでいく。意識が消えないように手に持っている次で二の腕を突き刺す。痛みに体が震えるが無視して這う。今はこの痛みがカンフル剤だ。ようやくすぐそばまできた。
歯を食いしばり、手に力を込めて投げた。それは過たずリネの手に渡った。
「ナイスだ。トウマ」
そう呟いたリネは神速で短剣を振り下ろす。クレルの大剣を持っている左手を最も簡単に斬り落とした。ゴトリ、と落下する左手が地面に着くよりも早く、リネが追撃を喰らわせようとした。
「ナ、何」
クレルは呆然と手首の断面を見た。まさか、といった表情で。迫るリネを見て、すぐに逃走した。それを追えるほどの余裕は俺たちには無かった。遠ざかって行くクレルを見送った。
「あー、疲れた」
そう言って、リネは壁にもたれかかりながら座り込む。
「大丈夫ですか。立てます?」
「立てますって⋯⋯⋯⋯お前の方が重症だろ。つーか、死んだと思ったぞ」
「それは⋯⋯すみません」
「ばか、何謝ってんだ。とりあえず、ここ離脱するぞ」
「うっす」
そう言い、なんとか立ち上がり、リネの左腕を俺の肩に回させ、一気に立ち上がる。
「痛くないですか」
「ああ、全然」
「⋯⋯⋯⋯ご遺体は」
「置いていく。ここじゃ荷物にしかならないからな」
「そんな⋯⋯」
「あたしが死んで、誰かが生き残ってもそうすると思うぞ。ほら、さっさと歩け」
「⋯⋯⋯⋯はい」
◇◇◇◇◇◇
「誰か、ここを開けてくれ!」
叫びながらドアを叩く。やがて、出てきたのはマキナだった。
「どうしたのですか。こんな怪我して」
「なんかボスっぽいのにやられたんだ。他の連中ももうすぐ帰ってくるだろうから手当の準備をしてくれ」
「は、はい。それより、トウマさんの怪我も」
「俺は後回しで良い。今はリネさんを最優先だ」
「レイさんとレオさんは先に戻っています」
「わかった。場所は」
「会議室です」
マキナの言葉を聞いて、会議室に向かう。俺たちが戦ったクレルというAIの情報を一刻も早く伝えなければいけない。足早に廊下を通り、会議室のドアをノックするのもほどほどにドアを開けた。
「ちょっと緊急のようがあるのですが」
「どうしたんだい、トウマ君⋯⋯⋯⋯君、その傷は一体!」
「⋯⋯⋯⋯!」
「この傷と関係がありまして。少しお話があるのですが」
「わかった。リネは呼んでいるかい?』
「いえ、リネさんは負傷して、今は治療室に運ばれていると思います」
「リネが負傷!?」
「誰にやられたんだ、トウマ」
荒い息を落ち着け、口を開いた。
「ボスっぽいAIです」
「マスターサーバーのことか?」
「いえ、普通のAIは意思疎通が困難なんですけど、ソイツは簡単に話すことができて、それに、名前も持っていました」
「確かに、それはおかしいな。普通のAIは個体識別番号と言って、製品番号のような数字とアルファベットを、組み合わせたものしか持ち合わせていない。やはり、ソイツは特別な個体ということか⋯⋯⋯⋯」
「あと、ひとつ気になることを言ったんです」
「なんだい?」
「探し物をしている、と」
「それに心当たりは?」
「いえ」
「レオは?⋯⋯⋯⋯レオ!」
「い、いえ。ありません」
なんだ、今の反応は。俺はずっと顔を窺っていたが、レオだけクレルの情報を開示したら眉間にシワを寄せていた。何か関係があるのか?
「レオさん、どうしたんですか。そんなしかめ面をして」
「⋯⋯⋯⋯少し厄介なことになったと考えていたんだ。ソイツが外の世界を歩いているなら今後、このようなAIの集め方は難しくなったからな」
確かにそうだけど、もっと別の心配をしていたような。
「情報をありがとう。⋯⋯⋯⋯それより、君は治療してもらってこい」
「⋯⋯⋯⋯はい」
廊下を歩いていると、左の脇腹に強烈な痛みが襲ってきた。
「あだだだだだだだ!」
どうやら、ドバドバ出ていたアドレナリンが切れたようだ。息を荒くしながら治療室に行く。白衣をきた男性に先導されベッドに転がり込む。
「どこが痛いですか?」
「左脇腹です⋯⋯」
「触りますねー」
そっと触れるかと思いきや、強めに押され激痛が走り、思わず呻き声が出る。
「あはは、ごめんなさい。⋯⋯あー、これ。思いっきり折れてますねー。でも、奇跡的に肺には刺さってないですねー。刺さってたら今頃天に召されてますよー」
「はあ、そうですか」
あまりにも軽い物言いに、少し引きながら反応を返す。医者ってサイコパスが多いのだろうか。そんなことを思いながらされるがままにする。あっという間に包帯が胴体に巻かれ、左手がギプスに包まれた。どうやら左腕の骨にヒビが入っていたらしい。この医者は少し怖いが腕は確かなのだろう。俺はそそくさと治療室から出ようとした。が、寸前で立ち止まる。
「あの、リネさんは⋯⋯⋯⋯」
「今は安静にしておくべきだから、ゆっくりさせてあげてくれ。⋯⋯⋯⋯大丈夫、命に支障はないから」
俺の不安げな表情を見て、付け加えた一言に安堵した俺は、ゆっくりと治療室を出る。
ところで。普通、肋骨を折ったら入院というか、絶対安静しなければならないのでは?
思えば、なんか注射されたような気がする。痛みもある程度引いたし、触ってみてもあまり違和感がない。
これも基本世界には無いテクノロジーの一つなのか。どうにかして、基本世界に戻れるようになったときに、少しでも良いから融通してもらえるようにコネを作っておくのもアリだな。
そう思いながら、自分とマキナの部屋に繋がるドアをノックする。すぐにマキナが出迎えてくれた。
「大丈夫ですか」
「あぁ、痛みは引いたよ」
「リネさんは」
「今は絶対安静だってさ」
そう言い、ベッドに転がる。外に出て動き回ったから汗をかいてしまった。風呂に入りたいが、片手が塞がっていて、それも難しい。今日は風呂なしか。
そう思っていた。
「あの。良ければ、体洗いましょうか」
「えっ」
◇◇◇◇◇◇
「あーそこそこ。気持ちー」
「良かったです」
今は背中の痒いところをマキナに掻いてもらっている最中だった。一緒に風呂に入るという行為は最初こそ恥ずかしかったが、慣れてくるとどうでも良くなる。要は何事も慣れだ。
背中を流してもらい、湯船に張ったお湯に肩まで浸かる。この行為だけで、今日の戦闘の疲れが吹き飛んでいく様。これは日本に生まれて良かった理由の一つになるな。
「今日は珍しく長風呂ですね」
「あー、そうだな。今日は疲れたからな」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
「って、なんでマキナも一緒に風呂に浸かってるんだよ!」
「たまにはいいじゃないですか。いくら自動洗浄機能が付いているとはいえ、こうしてお風呂に浸かるというのは、心身共にリフレッシュすることです。お風呂は心の洗濯、と言われているぐらいですからね」
「いや、確かにそうだけど」
そう言って、体を縮こませる。背中を流してくれるのは特に恥ずかしくなかったが、同じ風呂に浸かるとなれば話は別だ。何か知らないがモヤモヤしてくる。
⋯⋯落ち着かない。
隣にAIだとしても女性がいるということに違和感しか感じないのだ。
「どうしました」
「いや、なんでも」
⋯⋯。
「こういうのってさ、おかしいと思わないのか?」
「何がですか?」
「こうして一緒に風呂に入ってることに」
「さあ、なんとも思わないですね」
マキナは眉を顰めながら俺をみた。やめて、そんなまじまじと俺を見ないで。
俺の髪を伝う水滴がぽちゃん、と落ちた。浴槽に張られたお湯に波紋が広がる。
一応タオルで体を隠しているとはいえ、精神衛生上良くない。
極論、俺はどうでもいいがマキナがダメなのだ。
⋯⋯今にものぼせそうだ。
「そろそろ上がるわ」
「はい、お先にどうぞ」
誤字・脱字報告を受け入れているので送ってくれたら嬉しいです。




