第三十四話
風呂から上がり、涼んでいた時。
「んお」
『P-device』が身を震わせた。
見てみると、ナツメからだった。
『今から会える?』
これは一体どういう意図なのだろうか。次のゲームに向けての作戦を立てるためだろうか。それなら、ロウも呼んだ方がいいだろうな。
「会えるよ。どこで会う?」
すぐに返事が来た。
『玄関から入ったところの広間に来て』
「わかった。ところで、どうやってメール送ったんだ?」
『『P-device』の設定のところにフレンド検索があるでしょ?そこから名前を入力したの』
「ありがとう。すぐに行くよ」
俺はナツメに教わったことを利用し、ロウにメールを送った。内容はナツメと作戦を立てるための集合場所を送っただけだ。
俺はメールを送り、すぐに広間に向かった。
広間に着くとロウが出迎えた。
「これからどうするかってことだろ?」
「ああ、そうだな。もうすぐナツメも来ると思うから、ここで待とうぜ」
ナツメはすぐに集合場所に来た。
「なんであなたがいるの!?」
開口一番、ナツメはロウがいることの不満を漏らした。
「なんでって、オレはトウマに呼ばれただけだぞ」
「どうして呼んだの?」
「どうしてって⋯⋯。次のゲームのための作戦を立てるために呼んだんじゃないのか?」
「あ、いや、そうじゃ⋯⋯」
俺の言葉に、ナツメは瞠目した。何かを言おうとしているようだが、うまく言葉に表せないらしい。
「もしかして、何か別の用事があったのか?」
俺の質問に、ナツメは咳払いをしてから答えた。
「いえ、トウマくんの言う通りよ。作戦を立てるために集まったの」
「だよな」
ナツメの言葉に俺はホッと息を吐く。
「俺が変なことしたのかと思ったよ」
「なんかやったんじゃねーの?」
「冗談言うなよ」
茶化してきたロウに苦笑混じりで返す。
「でもよ、作戦つっても、次のゲームがわからなけりゃ作戦の立てようがねーだろ」
「そうね、でも、もうすぐでわかると思うわ」
ナツメが『P-device』を見せつける。
そこには、次のゲームに告知までの時間が表示されていた。
「残り時間的に、午前十二時になった瞬間わかると思うわ。それと、ゲームの内容関係なしに、私たちは協力するってことで良い?」
「ああ、良いぜ」
「俺も同意だ」
自分が生き残るためには協力は必要不可欠だ。ここで断ったって利益はない。それに、既に共に生き残ってきた仲間だ。途中で別れるというのもモヤモヤするし、敵対したくない。
「十二時を過ぎたら、もう一度ここに集合することにしましょう」
「おう」
「わあった」
解散する流れになり、俺は二人に背中を向けた。すると。
「トウマくん」
ナツメが声をかけてきた。
ロウはとっくに消えていた。自分の部屋に戻って行ったのだろう。
「どうした?」
向き直り、ナツメと相対する。
ナツメの目を見つめた。ナツメの瞳は、少しだけ震えていた。何か俺に言うことがあるのだろうか。
「何か、言いたいことあるの?」
「⋯⋯」
なんだ、これ。もしかして『察して』というヤツなのか?
だが、俺はエスパーでもなんでもない。相手の気持ちを見透かせるわけがない。
「気分悪いのか?」
ナツメは無反応だ。
「腹減ったのか?」
これにも無反応だ。
「どっか怪我したのか?」
俺の質問攻めに、ナツメは難しい顔をした。四桁を超えるピースがあるジグソーパズルを目の前にしたような、そんな顔だ。
「鬼、怖かったのか?」そう質問しようとした。寸前。ナツメは顔をふい、と背けた。
「いえ、何もないわ。引き止めてごめんなさい」
そう口にした。
「そっか、作戦はメールで送ろうぜ。周りのヤツらにバレたらいけないし。な?」
「そう、わかったわ。寝過ごさないでね」
「気をつけとくよ。ロウには俺が言っておくから」
言い残し、俺は自分の部屋へと戻った。なんか、ナツメの態度、おかしかったな。
十二時を過ぎた。『P-device』の画面には、こう表示された。
『次のゲームは「マルバツクイズ」です』
端的に表示されている。そこにはゲームの具体的な内容や、ルール説明はない。まあ、ゲーム名から察するに、クイズなんだろう。間違えたら大変なことになる、くらいか。推測できることは。
とりあえず、ナツメとロウに共有だな。
俺は早速メールを送った。
「ゲームの告知見たか?」
『『見た』』
二人から返事が返ってくる。
『おそらく、知識問題になりそうだから、できるだけ多くの人と協力する必要があるわね』
『今更仲間を増やそうってか?』
『そうなるわね。知識問題なら多くの人がいたほうが有利でしょ』
『トウマはそれで良いのか?』
異議を申し立てる必要はないな。
「俺も賛成。でも、仲間は見極めて集めないとな。ゲームやってる時に集めるか。そのほうが人が集まりそうだし」
『そうだな。頭良いやつは残るだろーしな』
『私もそれで良いわ。それで決定ね』
あとは、ゲームの開始を待つだけか。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
顔を洗っていると、『P-device』が震え出した。手にとって画面を見ると。
『転送まであと十分』
と書かれていた。あと十分で次のゲームが始まるのか。立て続けにこう表示される。
『あなたはDブロックです』
「なんだこれ」
Dブロック?
こう表示されたなら、少なくともAブロック、Bブロック、Cブロックがあるはずだ。
俺はすぐにナツメとロウにメールを送る。
「ブロックはどうだった?」
『Dブロックだったわ』
『オレも』
よかった。
「俺もだった」
それだけ送る。ブロックが違ったら作戦が実行できなくなるところだった。
危ない危ない。
支度をしていると、すぐに十分は過ぎていった。
◇◇◇◇◇◇
気がついたら、見知らぬ場所にいた。しかし、それは自分だけではない。多くの人が俺と同じように転送されていた。
ここがゲーム会場⋯⋯。
床は三色に染められており、自分が立っている場所は青く染められていた。向こう側はよく見えないが、人の隙間から見るに、赤い床だ。そして、赤い床と青い床の間には、灰色の床があった。
「皆さんちゅうもーく!!」
雑踏と話し声で混雑した空間に、よく通る声が響き渡った。
例の銀髪の少年は、俺たちの上に立っていた。宙に浮いており、少年を人ではないものだと判断してしまう。
「えー、これから、皆さんにはマルバツクイズをしてもらいます!」
少年はポケットから紙きれを取り出し、それを見ながら口を開いた。
「ルール説明をします。皆さんが立っている赤い床、これはマルを表しています。そして、青い床はバツを表しています。以上!」
少年は満足したように空を歩きながら去っていく。が、直前に思い出したように言い残した。
「答えを間違えたら即死なので気をつけてね。それじゃ!」
今度こそ少年はどこかに去って行った。
なんだよあれ。まるで⋯⋯。
少年の言葉に、より一層騒がしくなる。今度は、無機質な機械音声が響き渡る。
「これから、ゲームを始めます」
壁にはモニターが掲げられ、そこには残り十問という文字と、残りの人数が書かれていた。残りの人数は二百人。
「一問に対する回答時間は三分です。それでは、ゲームをお楽しみください」
そんな皮肉とともに、ゲームは始まった。
問題が出されるのは良いが、先にナツメとロウと合流しないとな。
「第一問」
その声に、皆が聞き入る。誰もが耳を傾けている。
「1+1=2である。マルかバツか」
なんだ。案外簡単じゃないか。このデスゲームを考えたやつだ。最初から難問を出してくるかと思ったが、そうじゃないみたいだ。最初に人が減っては楽しみがなくなるからか?
皆が赤い床、マルを示す方へ流れていく。
「トウマくん」
背後から名前を呼ばれた。振り返ると、そこにはナツメがいた。
「ナツメさん」
俺は人の流れに逆らい、ナツメの元まで歩いた。
すぐに合流する。離れないようにするためか、ナツメは俺の腕を握った。
「離れるなよ」
「わかってる。⋯⋯それより、ロウくんはどこかしら?」
「さあ、見てない。でも、アイツもバカじゃないだろうし、どこかにいるよ」
俺は周りを見渡しながら、ナツメと会話する。
「こんな感じで続いて終わりだったら拍子抜けするのだけど」
「だったら良いな」
皆が赤い床に行く中、一人の男が青い床に残った。
「何だよアイツ⋯⋯」
男は不敵に笑い、赤い床に行った俺たちを嘲笑した。
「お前ら、バカなのか!?」
男は身振り手振りを最大限使って力説し始める。
「良いか。これはデスゲームなんだぞ! 最初の問題だからって甘い考えは捨てるこったな! 最初だから、そこには罠があんだ! 何だよ、答えは2であるって。こんなの罠以外の何物でもないだろぉ!?」
「これで俺だけが生き残って、お前らは惨めに死ぬんだぜえ!? 想像するだけで脳汁止まんねえよぉ!」
男は若干危ないような雰囲気を醸し出す。そして、制限時間である三分が過ぎる。
赤い床端から、透明な壁が出てきた。参加者を移動させないためだろう。
そして、機械音声が答えを告げた。
「答えは、マルである」
瞬間、バツの床に残った男は赤い床に駆け寄った。しかし、透明な壁に阻まれる。男がいくら殴りつけようと、壁はびくともしない。
「俺、まだ死にたくねえよぉ!」
男は泣き叫びながら。
「誰か助け──────」
祈りの言葉は最後まで紡がれることはなかった。
青い床から、無数の剣山が生えてきた。そこにいた男は串刺し。五体の隅々までを貫かれた。錆びていた剣山に、男の血が刻まれる。そして、処刑が済むと、男は剣山と共に跡形もなく消え去った。
「うわっ」
「こんな死に方するのかよ⋯⋯」
その光景に思わず肝が冷える。間違えたらあんな死に方をするのか。あんなことを経験するんだったら、鬼に一発で殺してもらった方が良いな。
「⋯⋯悪趣味ね」
「そうだな」
「ところで、あの灰色の床って何なのかしら」
確かに、ただのマルバツクイズだったら正解の床と不正解の床だけ作ればいいはずだ。
まあ、これが普通のマルバツクイズなわけがないだろうけど。
「俺も気になるけど、今は気にしなくて良いな。問題に集中しようぜ」
一つ分かったのは、逆張りはしないほうが良いってことだ。
「二問目」
男の死に、ざわめいていた参加者が静まる。
「漢字の『鬱』の画数は二十八画である。マルかバツか」
⋯⋯⋯⋯。
「ナツメさんわかる?」
「少し待って」
俺も何となくで宙に指で書いてみるが、イマイチわからない。
こうやって、こうやってこう⋯⋯。
二十八画。合ってる⋯⋯のか?
「二十九画かしら?」
ナツメは、俺とは違う結果を出した。
正直、俺はこの答えに自信が無い。
「ナツメさんが合ってると思う。マルに行こうぜ」
「いや、私もあまり自信が無いから⋯⋯」
さあ、どうしようか。と、言っても、俺はナツメが正しいと思っている。
⋯⋯!
「ナツメさん、危ない」
「⋯⋯きゃっ」
「あイタ!」
ナツメの背中に、少年がぶつかったのだ。よろけたナツメを支えながら、少年に声を掛ける。
「大丈夫か?」
「ああ、すみません。前を見ていなくて⋯⋯」
そうやって頭を下げる少年。中学生くらいだろうか。
「こちらこそごめんなさい」
頭を下げる少年を見て、ナツメも頭を下げる。
少年はどこかに行こうとする。瞬間、俺は少年を引き留めた。
「ちょっと待って!」
「⋯⋯?」
「俺たちとさ、手を組まないか?」
少年は顎に手を当て、考えるそぶりを見せる。やがて。
「良いですよ」
「良かった。⋯⋯早速だけど、マルかバツかわかるか?」
「バツですよ。本当は二十九画なので」
俺とナツメが悩んでいた問題をあっさりと答えた。戦力になるな。⋯⋯まあ、俺たちが常識的な問題がわからなかっただけの話だったけど。
バツの方へ移動しながら、ナツメが少年に話しかけた。
「君の名前を教えてくれる? 私は桐谷ナツメ」
「俺の名前は篠村トウマ。よろしく」
「奇遇ですね。僕は篠村リクです」
リクの苗字は俺と一緒。あまりにも出来すぎた偶然だ。いや、デスゲーム自体の参加人数を考えると、同じ苗字の人はいるにはいるのだろうが、こうやって対面すると、なんか変な感じだ。
「篠村って、トウマくんの苗字じゃないかしら。兄弟なの?」
「いえ、違いますよ」
「違う」
そもそも、俺は別の世界の住人なんだ。この世界に血の繋がった兄弟なんているはずが無い。そもそも、俺自身が一人っ子だし。だから絶対に無い。
もしかしたら、リクはこの世界線でいう俺なのか?
いや、まさかな。
誤字・脱字報告を受け入れているので送ってくれたら嬉しいです。




