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異世界冒険奇譚〜異世界行ったけどイージーじゃなかった〜  作者: ああるぐれい
屍人に支配された世界

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第十八話

第二章『屍人に支配された世界』開幕です。

「ここは⋯⋯」


飛ばされた先は、海が見える道路の真ん中だった。車は一切通っておらず、人の気配もしなかった。波が寄せる音が聞こえてくる。正午をすぎているようで、太陽が落ちていっている。


周りを警戒しながら道路沿いを歩いていくと、一つの車が止まっているのを見つけた。中を覗くと、誰もいなかった。道路に放置されているようだった。


後部座席には大きいシャベルが置いてあった。


さらに先へ進むことにした。トンネルが見えてきた。中に入ろうとすると、入れなかった。中には車がたくさん詰まっていた。どれもこれも放置されており、異様な空気を漂わせていた。


「何だよこれ⋯⋯」


車によじ登り、先を見た。進もうとしていた先の道は、登り道になっていて、どこまでも放置されている車に埋まっている。


「災害でもあったのか?」


だったら、錯乱した人間が自分に襲いかかってくるかもしれない。

何か、武器になるものは⋯⋯。


そこで俺はさっき見た車にシャベルがあったことを思い出し、取りに戻った。


「確かここに⋯⋯」


車のドアをこじ開け、シャベルを手にした。

シャベルはずっしりとしていて、誰かと戦うには十分な凶器だった。


トンネルの中に入った。道路を歩くスペースはどこにもない。車に登り、天井を歩いた。


車が錆びているため、踏み出すたびにギシギシと音が鳴る。シャベルを引きずりながら歩いているため、金属が擦れる音が響く。それがトンネルの中で反響するため、余計に耳に残る。


「アァ⋯⋯」

「!」


声が聞こえた。瞬時にその方向を向く。シャベルを持ち上げ、いつでも戦えるように準備する。


だが、声の正体は姿を表さなかった。


気にせずそのまま先に行こうとする。瞬間、誰かが俺の足を掴んだ。足元を見ると、黒ずんだ手が俺の足首をしかと掴んでいた。シャベルを振り上げ、足首を掴む手に叩きつける。最も簡単に手首を断ち切った。


「ギャアアアアアアア!!」


俺の足を掴んでいた者が手を切られたことにより、叫んだ。それにより、トンネルのあちこちから声が聞こえてきた。


「くそっ!」


車の上を駆け抜け、トンネルを抜けた。


未だトンネルからは声が上がっている。


「さっきのは何だったんだ?」

「アァ⋯⋯」


今度は近くから声が聞こえてきた。


後ろを振り向くと、声の正体がいた。


ボロボロの服を着ていて、体のそこらじゅうに引っ掻き傷や噛まれた跡がある。肌が露出している場所には紫斑が浮かび上がっていた。

白目をむいていて、どこを見ているかもわからない。

だが、おぼつかない足取りでこちらに近づいてくる。



明らかに死んでいた。死んでいるのに、動いている。これが意味することは。


「ゾンビか!」


手に持っていたシャベルを振り上げ、頭に狙いを定めた。

ゾンビの弱点は頭。映画では定番だ。この世界が映画の通りとは限らないが、ゾンビは元々人間。頭が致命傷になり得る可能性は十分にある。


人間を殺すのは初めてだ。だが、もう死んでいる。躊躇う心を無視して、振り下ろした。


シャベルは違わず頭に吸い込まれ、両断した。脳漿が飛び散り、辺りを汚す。めり込んだシャベルを抜き取ると、わずかに残った血が流れ出た。


「さすが第一次世界大戦で使われてただけのことはあるな」


シャベルにこびりついた脂や血液を、地面に擦り付けて拭い取る。

あらかた綺麗になったシャベルを担ぎ、上り坂を登った。



◇◇◇◇◇◇



上り坂を登り切ると、そこには町があった。だが、廃れていた。どの家も数年間放置されているようで、人の生活感などまるで感じない。人通りもない。その代わり、ゾンビたちが蔓延っていた。おそらく、この町の住人だったのだろう。


なぜゾンビになるのかはまだわからない。ウイルスによって感染したのか、ゾンビに噛まれて感染したのか⋯⋯。はたまたこの世界には「ゾンビ」という概念が存在するのか。


俺に襲いかかってきたゾンビは俺に噛みつこうとしていた。つまり、少なくともゾンビに噛まれて感染した人も少なからずいるはずだ。


そんなことを考えながら、町に入った。ここにはゾンビが大量にいるため、危険なはずだ。しかし、もしかしたら、ここに残された食料にありつけるかもしれないし、人類が全滅したとも考えにくいから、助けを得ることだってできるはずだ。


それに、ゾンビは歩くことしかしない。俺が走ったら余裕で撒けるはずだ。


首を振って周りの視野を確保しながら進む。途中、ゾンビが向かってくるが、軒並みシャベルで頭をかち割った。


歩いている途中、他の家とは違って、綺麗な家が目に止まった。警戒しつつ、中に入った。最近まで人がいたような痕跡があった。


洗面器に取り付けられている蛇口から、水が滴り落ちていた。

目にした瞬間、喉が唾を飲み下す。だが、ウイルスが混入しているかもしれないと考えると、口に含むのが憚られた。喉の渇きを我慢して、他の物がないか探索を再開する。


すると、床が腐っていた。そこから異臭が漂っている。この異臭は床が腐っているから臭っているのだろうか。上を見ると、そこも腐っている。


雨漏りでもしているのだろうか。この家は綺麗だったから雨漏りしづらいはずなのに。


二階に上った。瞬間、異様な匂いが鼻腔を漂った。その匂いに顔を顰めつつ、二階の物色をした。寝室のドアを開けると、先ほどから漂ってきていた匂いが塊となって押し寄せた。あまりの不快さに顔を背ける。吐きそうになりながら向き直る。


匂いの正体を目にした瞬間、俺は吐いた。


「うっ⋯⋯ごえっ⋯⋯⋯⋯」


俺は何も食べていなかったため、胃液と唾液が入り混じったものしか地面に落ちない。


匂いの正体は人間の死体だった。首を吊っていた。両親と子供一人で。誰も助けに来ないことに絶望したのか。このまま生きていても未来がないと判断したためか。どっちにしろ、悲惨な思いをしたに違いない。


死体がぶら下がっている床には、糞尿が滴り落ちていて、床が腐っていた。死んだことにより、筋肉が弛緩したのだろう。死体から滲み出る体液も相まって、形容し難い雰囲気を纏っていた。


下ろしてあげようと触ろうとする。だが、直前で思いとどまる。この死体は不衛生だ。綺麗な水を手に入れられない今、手を洗うことすら難しい。


俺は静かに手を合わせつぶやいた。


「ごめんなさい」


家を出る。もうすぐで日が落ちそうだった。どこか寝れる場所を確保しなきゃいけない。

誰かと会えればいいけど。



◇◇◇◇◇◇



日が完全に落ちてしまった。あたりは暗くなっていて、街灯の灯りさえない。

完全な闇に飲まれてしまった。二メートル前ぐらいは見えるが、それ以上はおぼつかない。


どこからゾンビが飛び出してくるかわからない恐怖を覚えながら、進み続けた。


だが、人が住んでいる場所は夜になったほうがわかりやすい。人が住んでいる場所には電気があるはずだ。少しくらいは灯りがついているはずだ。


しかし、いくら辺りや遠くを見渡しても、人がいるであろう場所は見つけられない。


「⋯⋯そりゃ電気は節約するよな」


再び歩き出す。この町を抜ければ、襲ってくるゾンビの数は減るだろう。俺は昼頃からずっと大通りを歩いているため、このまま行けば町の外に出れるはずだ。


瞬間、足が何かに引っかかり、転んでしまった。


「なんだ!?」


すぐに向き直り、一度手放したシャベルを手に取る。だが、どこからもゾンビは襲ってこない。あたりを警戒しながら、俺を転ばせたものを手でペタペタ触る。


「これ、木の根っこか」


それを辿っていくと、木の幹に触れた。


「良く見えないけど、結構大きいな」


そこで俺は閃いた。

今日は木の上で過ごせばいいと。

ゾンビに木の上に登ってくる知能はないし、あったとて上れるほど身体能力は高くない。


手近な木の枝を掴み、体を持ち上げる。足を上げ、枝を挟んだ。体を起こして枝の上に乗っかる。それをもう一回。こうすることで、ゾンビがジャンプしても絶対に登ってこれない高さにつく。ここなら安心。ここで一晩過ごそう。



◇◇◇◇◇◇



目が覚めた。まだ日は昇っていない。体感で午前五時くらいだろうか。いくらゾンビの手が届かないところとはいえ、一日飲まず食わずでこの極限状態に晒されているのだ。眠りも浅くなる。日が昇ってから出ないと行動するのは難しい。しばらく待っておこう。


小一時間待っていると、山の麓から日が登るのが見えた。オレンジ色の陽光が眩しく、顔の前に手を翳す。今から、この町を抜けよう。


スルスルと木から降り、歩き始める。体力を消耗しないようにゆっくりと。できれば今日のうちに人と会いたい。人が水を飲まずに生きていられるのは三日。今日は二日目だ。タイムリミットは刻一刻と迫っている。


一応町の家の水道から出る水は確保しておいた。いずれ我慢の限界が来るかもしれない。その時はこの水を飲むつもりだ。ゾンビになってしまうかもしれないが、その時はその時だ。


できるだけ口呼吸はせず、鼻呼吸で。体から水分が出ていかないように。


もうすぐで町を抜けようかとしている頃、太陽は自分の頭のてっぺんを通っていた。


「正午をすぎたか?」


足が棒になった感覚を覚えながらひたすら歩き続ける。

引きずるシャベルの擦れる音が鳴り響く。


温い風が頬を撫でた。それに揺られて髪がたなびき、視界の上をチラチラと走る。

風に運ばれてゾンビの呻き声が耳に届く。


不意に近くから足音がした。その方向を見ると、ゾンビがいた。しかし、他のゾンビとは少し違う。傷が少ないのだ。少なくとも露出している場所に目立った引っ掻き傷もないし、噛まれた跡もない。初期罹患者か?


ゾンビはこちらの動向を窺っているようだ。ゾンビが少しだけ足を踏み出す。シャベルを持つ手に力が入る。


ゾンビは地面を蹴った。跳躍したのだ。綺麗な弧を描きながら俺の上に覆い被さろうとする。咄嗟に突き出したシャベルで迎撃し、ゾンビの腹に突き刺さった。それにより体がくの字に折れ曲がる。


「ァ⋯⋯」


地面に叩きつけられるがものともせず、すぐに起き上がって飛びかかる。腕を伸ばし、足を引っ掻こうとする。足を上げて回避し、バックステップで距離を取る。


ほんの少しの間が開く。刹那、シャベルを振りかぶる。獣のように迫るゾンビの顔面をシャベルで打ち据えた。


ゾンビの顎が砕け、足をシャベルで叩き折る。


片足が折れたゾンビはまともに動けなかった。後ろ足を失ったバッタのように、惨めにもがくだけだ。


シャベルを頭の上に持っていく。全身を反らし、その反発でシャベルを振り下ろした。ゾンビの頭を完全に破壊する。一ミリも動かなくなったゾンビの死体を後に、再び歩き出した。

誤字・脱字報告を受け入れているので送ってくれたら嬉しいです。

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