第十五話
マキナと共に食堂に行くと、既に宴会が開かれていた。豪勢な食事が食卓に並び、焼けた肉の良い匂いと、酒の匂いが漂ってきた。
リネとレオはいるが、レイがいない。まだ来てないのだろうか。しかし、それよりも⋯⋯。
「食べるか」
「そうですね」
二人して席につき、近くにあった鳥の照り焼きに手をつける。まだ湯気が立っていて、直に触ると火傷しそうだ。
「いただきます」
かぶりついた。少し甘いソースに旨味たっぷりの肉汁が鼻腔に広がり、かみごたえのある肉が口腔に躍り出る。
「うまうま」
マキナも俺と同じものを食べて頬に手を添えている。
食事を摂っていると、リネがジョッキ片手にやってきた。
「食ってるか〜?」
「はい、美味しいですよ」
「お前らも飲めよ。美味いぞ〜」
言いながら俺に突きつけてきたのは、ビールを縁ギリギリまで湛えたジョッキだった。頬が少し赤い、酔っているのだろう。未成年なので、と断ると、リネはマキナに絡んでいった。
「マキナは飲むか? トウマは付き合い悪くて飲んでくれないんだ〜」
「付き合い悪いって⋯⋯」
「私で良ければ良いですよ」
マキナはそう言うと、躊躇う素振りもなくジョッキを呷った。
「良い飲みっぷりだな〜」
「ちょっ、良いのか?」
「私が酔うことなんてあり得ませんよ」
た、確かに⋯⋯。
「後悔しないようにな。明日、死ぬかもしれないんだからな〜」
言い残し、リネは別の人のところに絡んでいった。
「⋯⋯飲みすぎて二日酔いにならなければ良いけどな」
「そうですね」
照り焼きとは別の料理に手をつけていると、レイがやってきた。
「食べてるかい?」
「食べてますよ。レイさん、遅かったですね」
レイは少しだけ寝癖がついていた。さっきまで寝ていたのだろう。
「ちょっと寝過ぎてしまってね。⋯⋯マキナくん」
「はい、なんでしょうか」
「覚悟はできてるかい?」
レイは、マキナの目をまっすぐ見ながら問うた。
「はい。当たり前ですよ」
マキナも、レイの瞳を見て応える。
やがて。
「そうか。トウマくんも、頑張ってくれよ」
「⋯⋯はい」
それだけを言い、レイは別のところへ言ってしまった。なんだか、変な空気になってしまった。どうしようかと悩んでいると。
「トウマさんは、死なないでくださいね」
不意にマキナが俺の手を掴んだ。しっかりと、だが優しく。
「おう」
俺は短く答え、早めに席を立った。明日に備えるために。
◇◇◇◇◇◇
目が覚めた。顔を洗い、髪を整える。未だ寝ているマキナを起こす。マキナは数度瞬きをして。
「おはようございます」
「おはよう」
返事しながら、パワードスーツを着る。SFP9とショートソードを携え、マキナの準備を待つ。
マキナの準備が終わると、訓練場に行った。
そこには、大量のバイクがおいてあった。既に、多くの戦闘員も集まっている。皆が同じパワードスーツを着ているため、区別がつかなかった。
だが、一人だけ区別がついた。レイだ。レイは壇上に立っていた。ヘルメットを外し、足元においてあったメガホンを手に取る。
「皆さん、おはようございます! 今日は、記念すべき日となるでしょう。地上にのさばるAIたちを倒し、人類が再び日の目を見ることができるからです!」
ざわざわしていた空気が、一瞬にして静まり返る。
「細かいことは言いません。今日、全てに、決着を!!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」
レイの締めくくりの言葉に、皆が呼応し、空気を揺らした。熱狂の中、バイクにまたがる。俺は近くにあったバイクにまたがり、その後ろにマキナが座った。
そして、俺の座ったバイクには、銃身の長い銃が取り付けてあった。
なんだろうと眺めていると、先頭のバイクが走り始めた。順々にバイクが発進していく。
俺もそれに続いた。
全速力で飛ばす。
途中、普通のAIが飛んできて殺そうとしてくるが、撃ち落としながら進む。
東京セントラルタワーの周りは広場になっているため、バレやすい。先頭が広場に入った瞬間、タワーが赤く点滅し、警報を鳴らした。警報は、普通のAIが出す音だった。それに反応して、マキナの目が赤に灯った。
ざわざわと耳障りな音が聞こえてくる。タワーの正面玄関にシャッターが何重にも降りた。この街にいる全てのAIが向かってきた。
「撃て!」
大音量で警報を鳴らしながら向かってくるAIを避け、撃ち落としながら進んでいく。
「マキナ、シャッターってどうすれば良いんだ?」
「これを使うんじゃないですか?」
マキナはバイクに取り付けてある銃を指差す。他のバイクにはついていなかった。マキナが銃をバイクから取り外し、眺める。
「人間は使用しないでくださいって書いてあります。もしかしてこれ、私専用ですかね」
「そうかもな、他には?」
「レールガンって書いてあります!」
その時、インカムからレイの声が聞こえてきた。
『トウマくん。レールガンが取り付けられてあったろう!?』
「ありましたよ」
『マキナくんにシャッターを破ってもらいたいんだ!』
「わかりました。前に出るんで援護してくださいよ!」
インカムを切り、マキナに指示する。
「マキナ、それを使ってシャッターをぶち破れってよ」
「了解です!」
俺はエンジンを全開にし、前にいる仲間たちを置き去りにする。
『レオは広場で指揮を取ってくれ。リネ、トウマ、マキナ、私、ほか数人でタワーに入る!』
インカムからレイの声が聞こえてきた。
「準備できましたよ!」
マキナのもつレールガンの銃口から、光が漏れている。
AIがさらに集まってきて、巨大な生物に見える。それら全てが赤い目をしていて、身をすくませる。
「トウマさん。暴発しそうなので、撃って良いですよね!」
「良いぞ!」
マキナが引き金を引いた。その瞬間、背中に後光が差した。莫大な量のエネルギーが発射され、レールガンの銃身が裂ける。耳元で発射されたため、一時耳が聞こえなくなった。脳が揺れと音に支配され、しばしの間放心状態になる。
「トウマさん!」
「はっ!」
放たれたエネルギー弾は立ちはだかるAIの集団を最も簡単に消し去り、勢いを落とすことなくシャッターに向かっていく。過たず当たり、なんの抵抗もなく撃ち破った。
「乗り込むぞ!」
バイクから飛び降り、タワーの中に突入した。
◇◇◇◇◇◇
(柊レイ視点)
タワーに突入すると、出迎えたのは二人のAIだった。一人は見上げなければならないほどの体躯をもつAI。リネとトウマたちと交戦したAIだろう。クレルという名前だったはず。もう一人は膝下ぐらいの大きさだが、それに似合わない大きさの牙と爪をもつAI。獣そのものだった。
そんな二人のAIを前に、トウマとマキナに質問を投げかけた。
「トウマくん、マキナくん。君たちはどうしたい?」
答えなんて、わかりきっている。
「「上に行きます!」」
「じゃ、ここは任せてくれ。先に行って良いよ」
「「はい!」」
二人は階段を駆け上がり、上へ登って行った。二人のAIは見向きもしない。
私は連れてきた三人に、玄関を固めておくように指示しておいた。
「追わなくて良いのかい?」
「『マスター』ガ負ケルワケガナイダロウ」
挑発してみたが、乗ってくることはない。私はリネの方に手を置いて。
「どっちを相手する?」
「デカブツの方で」
もちろん、これもわかりきっていた。
「じゃあ、始めようか」
「ギギャッ!」
私の合図に呼応するように、猿の形をしたAIが威嚇する。リネは合図と同時にクレルに突っ込んでいく。
私は私の戦いに集中するとしよう。腰の後ろに差した二本のショートソードを鞘から抜く。頭の中でスイッチが入る。瞬間、猿が跳躍し、天井に爪を突き立て、張り付いてみせた。自分が持っている武器を警戒しているのだろう。
このタワーの天井は高く、七メートルぐらいの高さがある。
だが、私には関係ない。
パワードスーツの力の機能を活かし、跳躍。瞬時に猿の目の前に移動し、ショートソードを振り抜く。野生的な反射神経を活かし、紙一重で猿は交わした。
表情には驚きが張り付いている。
「私は『レジスタンス』のリーダーだ。これくらい、できて当然だろう?」
「ギギ⋯⋯」
猿はゆっくり距離を詰める私と同じテンポで後退る。
だが、空気が張り詰めた瞬間、猿が目にも止まらぬ速さで動き出す。床、天井、壁を縦横無尽に駆け巡った。時折距離を詰め、鋭く長い爪で引っ掻いてくる。それを勘でショートソードで弾く。自分から動かずに観察していると、一定のリズムで動いていることがわかった。
脳内でリズムをとり、先を読んで突っ込む。それも猿は紙一重で交わし、噛みついてきた。私はそれをあえて避けず、攻撃を喰らうことにした。素早い動きが止まる。順手で持っていたショートソードを瞬時に逆手に持ち替え、刺突。
「浅いか⋯⋯」
猿はすでに天井に張り付いており、奇妙な鳴き声を立てた。
「ギュギギギ⋯⋯」
「喋れないのか?」
「ギャウギャウ」
「私の言葉は理解できるようだね」
「ギヒヒ⋯⋯」
猿はニンマリと笑った後、先ほどよりも早いスピードで動き始める。耳元の近くを通った時、風切り音が聞こえるほどだ。
「追いかけっこか。良いだろう」
踵を浮かし、目の前に向かってジャンプした。空中で体勢を変える。足を壁につけられるようにするため、体を空中で寝かせた。直後、壁に足がつく。ありったけの力を込め、床にずり落ちるよりも早く、ジャンプ。体を回転させ、天井に足をつかせた。重力に囚われて落ちるよりも早くジャンプし、床へ着地する。
体を柔らかくし、床についた時の衝撃を横に流し、滑らかに壁に足をつけた。また天井へ、今度は床ではなく壁へ。床へ。床。壁。天井。床。壁。壁。天井。床。天井。壁。天井。床。壁。天井。壁。
目まぐるしくかわる視界の中、私は猿を確かに捉えた。必死に飛び移る猿の背中に追い縋る。猿は一定の周期で立体的に動いていた。次に動くのはわかっている。一足先に床につき、ショートソードの鍔のすぐ下にあるスイッチを押した。手に微細動が伝わってくる。
「終わりだね」
「ギャギッ」
最後の賭けとばかりに飛びかかる猿に一閃。
「ギャギャアアアア」
猿は綺麗に二つに分たれた。覗く断面から配線が飛び散り、叫びごえのトーンが落ちていく。
やがて聞こえなくなり、微動だにしなくなった。
◇◇◇◇◇◇
(倉敷リネ視点)
「どっちを相手する?」
「デカブツの方で」
あたしの方に手を置くレイの顔を見ずに、端的に答えた。
氷のように冷え切った息を吐き、腰に下げてあるサーベルの柄を握りしめた。
今のあたしは鬼神そのものだ。目の前にいるのは、大切な仲間を殺したクレルという名の仇。
「じゃあ、始めようか」
刹那、サーベルを鞘走らせ、クレルとの距離を詰めた。
左手には盾、右手には大剣。右側にサーベルをテイクバックし、大剣に叩きつけた。
「前トハ比ベ物二ナラナイパワーダ⋯⋯」
金属同士がぶつかる耳障りな音が耳を劈く。
クレルがサーベルを弾き、返す刀で両断しようとしてくる。それを前転することで回避した。大剣が上を通り過ぎる時、空気を切り裂く音が聞こえた。剣先の先にある壁に斬撃が走る。クレルの懐に潜り込み、左ストレートを腹に一発。あたしの本気のパンチを喰らったため、クレルは大きく弾かれる。
「体重差ナドモノトモシナイカ」
「黙れ!」
振り下ろされる大剣を体を捻って避け、盾を持っている左側に回った。これにより、クレルは大剣を横薙ぎにできない。
「チョコマカト⋯⋯」
「前もそんなセリフを聞いたような気がするよ」
柄の根元にあるスイッチを押す。ブン、とサーベルが微細動を始める。飛び出し、大剣を持つ右手を狙った。だが、反応が早く、盾で防がれる。振動し続けるサーベルは、盾を豆腐のように切り裂いた。両手で持ち、大上段で狙ったため、後隙が大きかった。
クレルの腕が閃き、大剣が首を刈り取らんとした。しかし、そこにあたしはいなかった。
膝抜き。力を抜くことで、流れる水よりも滑らかに下へ移動した。床に両手をつき、左足を床につかした。腰を最大限まで捻ることで、爆発的な捻転力を発生。その全てを右足に集約させ。
「ああああッ!!」
気合いの声を発し、鞭のようにしならせ、弾丸のように射出した。クレルの防御は間に合わなかった。
鳩尾に蹴りが突き刺さり、装甲が歪んで陥没した。鈍い金属音とともに、内部の駆動系が悲鳴を上げる。
「グウッ」
クレルが呻き、片膝をついた。
「ウ、動ケン⋯⋯」
「中が壊れたんじゃないのか?」
あたしは、クレルを見下ろしていた。さっきまであんなに大きかったのに、いざ行動不能にしてみると、ちっぽけに見えた。クレルが片膝をついているのもあるが。
「どうだ? あたしに命を握られてる感覚は」
「ナントモ思ワンナ」
サーベルをクレルの首に添えた。
「じゃあな」
サーベルを払い、クレルの首をはね飛ばした。
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