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異世界冒険奇譚〜異世界行ったけどイージーじゃなかった〜  作者: ああるぐれい
AIに支配された世界

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第十三話

接地に備えるために、足のつま先、かかと、膝を揃えた。


足先で着地した瞬間体を丸め、脛の外側、尻、背中、肩の順番に接地させ、体が受ける衝撃をできるだけ分散させた。無事成功し、すぐに逃走を図る。


俺が今やったのは五点接地という技だ。パラシュートの降下訓練などで行われる着地法だ。


後ろを振り返る。俺が蹴破った窓ガラスから、『マスターサーバー』が顔を出していた。


表情なんてないはずなのに、どこか笑っている気がした。



◇◇◇◇◇◇



「つ、疲れたぁー」

「お疲れ様。トウマくん」

「人使い荒いですよ、ホント⋯⋯」


俺は今、レイがいる部屋に来ていた。客用に設置されているソファーの上で溶けた様に寝転がっていた。


「どうだった?」

「めちゃくちゃ綺麗でしたね。俺は十三階まで上がりましたけど、それ以上に高かったです」

「他には」

「ほんの少しですけど、『マスターサーバー』と交戦しましたよ」

「ほ、本当かい!?」


俺の言葉に、異様な食いつきを見せるレイ。俺の肩を変形しそうなほどに掴む。


「六本腕で、それぞれの腕にそれぞれの武器を持ってましたね。あと、顔がのっぺりしてました」

「そうかそうかそうか」


俺が言葉を紡ぐ度に、頬を赤くしながらうんうんと相槌を打つ。


な、なんかちょっと気持ち悪いな⋯⋯。

決して口には出さないけど。


「手から血が出てるけど大丈夫かい?」

「あ、本当だ。⋯⋯多分、鞭を掴んだ時ですかね」


全ての攻撃を受け切った時に、音速に近い速度で迫る鞭を素手で掴んだのだ。その衝撃で皮膚が避け、血が流れていた。


戦った後だから、アドレナリンがドバドバ出ていたせいで痛みに気づかなかったのだろう。


⋯⋯またあのサイコパス気質の医師のもとに行かなければならないのか。


レイの部屋を出て、医師のもとに向かった。


「すみませーん」

「はいはーい。⋯⋯お、また来たのかー」

「また来ちゃいました」

「今度は何したのー」


医師はどれどれと言いながら丸椅子に座る。座ったまま、俺のところに滑ってきた。


「手のひらの皮膚が剥がれてるけど、どうしたのー」

「俺のところに向かってきた鞭を素手で掴みました⋯⋯」

「あっひゃっひゃっひゃっ!!」


俺の告白を聞いた医師は、腹を抱えて笑い出した。息ができないといった風に笑い転げている。


「あのー」

「⋯⋯ああ、ごめんねー。ちょっと予想外すぎてー」


謝りながらも、目尻に溜まった涙を人差し指で拭う。


「鞭を素手で掴んだって、そりゃこうなるよー。はーおかしいー」


医師は未だ含み笑いをしている。


「でも、だいぶ軽症で済んだねー」


『マスターサーバー』は慣らし運転だと言っていた。まだ体を動かすのに慣れていなかったのだろう。だから俺の傷は軽症なのかもしれない。


「ほい、できたよー」


いつの間にか、俺の右手には包帯が巻かれていた。


「自分の体は大切にしてねー」

「は、はい」


医師は両手を頭の後ろで組みながら、「お大事にー」と俺を送り出した。

治療室を出て、包帯に巻かれた右手を見る。

少しだけ痺れと痛みがあるが、動きには問題ない。

やはりあの医師の腕は本物のようだ。


俺は手をワキワキさせながら自分の部屋へと帰った。


「その手はどうしたんですか!?」


俺が部屋に入った時、開口一番、マキナが俺に詰め寄ってきた。


「怪我しただけだから、大丈夫だよ」

「私もついていけばよかったでしょうか⋯⋯」

「マキナは向こうが虎視眈々と狙ってるから連れていけないぞ」

「そうですけど⋯⋯」


マキナはよほど俺のことが心配だったようだ。確かに、俺もリネとかが潜入するとなったら、心配になるかもしれない。いくらあの人が強くても、敵陣のど真ん中に行くとなったら心配の一つや二つはしてしまう。


無傷で戻って来そうだけど。


部屋の中でマキナと話していると、晩御飯の時間になった。二人で食堂に行く。すると、食堂に入るドアに、ポスターが貼り付けられていた。


『戦闘員は食べ終わったら、訓練場へ来るように』


そう書かれていた。また何か伝えることがあるのだろうか。そういえば、全ての戦闘員の分の乗り物や、武器が揃ったと言う知らせがあった。もしかしたら⋯⋯。



◇◇◇◇◇◇



ご飯を食べ終わり、訓練場にきた。既に多くの戦闘員がいた。少し遠くには、お立ち台が設置されていた。はて、あんなものは訓練場にはなかったような。


「何があるのでしょうか?」

「さあ、でも、暗いことじゃなさそうだけど」


俺の言葉に、マキナが周りを見渡す。皆が近くにいる誰かと身振り手振りを交えて何かを話している。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。


数分待っていると、お立ち台にレイが登った。右手にはメガホンが握られている。


それと同時に皆が静かになった。レイがメガホンを口元に持っていく。


「えー、皆さん。お集まりいただきありがとうございます」


レイが何やら丁寧な口調で話し始めた。


「私が、AIに反旗を翻すことを決意し、『レジスタンス』を立ち上げてから、九年が経ちました。『マスターサーバー』を打倒するため、奔走し、ようやく、見つけることができました。その間に、わずかな躍進や、尊い犠牲が数多、星の数ほど存在します。それが、もうすぐ報われようとしています。つい先日、全ての武器、乗り物が完成しました。明後日、全てを終わらせる戦争が始まります。人間が、人間としての尊厳を取り戻すための戦いが、始まろうとしています。明後日、人間が日の目を見るため、明日は英気を養うことにしました。明日は、盛大なパーティを開くことにします!」


レイが全てを言い終わった。


一瞬、静寂が時を支配した。だが、次に支配したのは、熱狂と、歓喜の悲鳴だった。

聴感覚の全てが耳鳴りで埋もれる。耳がパンクする勢いだ。何がそんなに嬉しいのか、俺にはわからない。だが、皆の興奮する様を見て満足したのか、レイはお立ち台を降り、どこかへ行ってしまった。



◇◇◇◇◇◇



(柊レイ視点)



演説を終えた私は、自分の部屋に帰った。客用に置いてあるソファーに横たわり、目を瞑る。明後日、全てが終わる。私の九年間が終わろうとしている。もうすぐで『マスターサーバー』を討ち取れる。思い返すと、私が創ったレジスタンスは大きくなった。最初は四人だけだったのに。


私と、リネと、レオと──────



◇◇◇◇◇◇



「出動命令だ!」


叩き起こされた次に聞こえて来たのは怒号だった。髪を整える暇もなく、着替える。


「要請は?」

「そんなものを待つ時間などない!」

「でも、何があったのか教えてくれないと!」

「AIが暴走し、国民を脅かしている。既に防衛大臣の命令を受けた」


AIが暴走──────


その言葉にとてつもない違和感を覚える。


一分で装備を整え、自衛隊の車両であるナナトンに乗り込む。この車両が自衛隊が持つ最も乗員数が多い車両だ。俺が手に持つのは89式5.56mm小銃だ。他の皆も俺と同じ銃火器を持っている。ナナトンにはタイヤチェーン、燃料携行缶、洋形おの、スコップとバチツルハシが収納されている。両脇に座り、現場に着くまで揺られ続けるのだ。


「レイ」

「どうした、兄貴」

「死ぬなよ」

「そっちこそ」


俺の横から話しかけて来たのは、兄であるケンジだった。


「こんなこと、初めてだからな。今までの自然災害とは訳が違うし、一筋縄では行かないから」

「当たり前だよ。AIが暴走するなんて、前代未聞だろ」


こんなことになっても、俺のことが気になって仕方ないらしい。これがブラコンというやつか。


不意に、少し離れた家が爆発した。爆発の余波が、車両の中の空気まで揺らした。


「救助しないと!」

「ここは俺らが活動する区域じゃない。俺らがいくところは、もっと先だ」

「上官⋯⋯」


乗員が乗り込む一番前、運転席に最も近い席に上官はいた。


「俺らがいくところは、最前線だ。七キロ先にAIを生産する工場がある。そこを制圧するのが、俺らの目的だ。⋯⋯もちろん俺らだけではない。他にも、何個も小隊がそこに向かっている」


七キロなんて、すぐに着くだろう。俺らが最前線。だが、そんなことは些細なことだ。このAIたちの反乱は全国で起こっているという。全ての駐屯基地が緊張に包まれているだろう。そして、何よりも、気になることがある。


「なあ、兄貴。親父たちって⋯⋯」

「黙れ。⋯⋯皆が心配していることだ。お前だけが心配している訳じゃない。だから、黙れ」

「ご、ごめん」

「もうすぐつくぞ!」


目の前にあるのは、有名な企業の生産ラインだ。ここで多くのAIが生産されている。


「従業員が人質に取られているかもしれない。慎重に潜入するように」


後ろのドアが開いた。そこから次々と飛び出る。


「走れ!」


銃を構えながら、姿勢を低くして、先頭に続く。やがて、先頭が工場に入った。俺も、兄も、そこに潜入した。工場は電力がダウンしたのか、照明が付いていなかった。生産ラインも動いておらず、未完成の部品や、精密機械などが放置されていた。


「暗視を」


部隊長の言葉に、個人用暗視装置を起動した。


迷彩柄のヘルメットの先端に取り付けられている暗視装置を眼前に持ってきた。

視界が緑に包まれ、視界がクリアになる。銃を構え、ゆっくりと前進する。引き金の横に人差し指を忍ばせ、いつでも発砲できるようにしておく。


後ろから物音がした。瞬間、振り返り、銃口をそちらに向ける。目を凝らしたが、そこには何もいなかった。


緊張で息が荒くなる。ここはAIを生産できる工場。仲間を増やすためには、ここを占拠すると思ったのだが、まだここには来ていないのか⋯⋯。


ここで来るであろうAIたちを迎え撃つのか。


不意に、銃声が聞こえた。前方からだった。位置的に、自分の小隊の先頭だろう。


「援護する!」


兄は既に前方に進んでいた。おそらくAIと接敵したのだろう。


生産ラインを飛び越え、工場内を駆け抜ける。視界の端に、誰かがいた。走るのをやめ、そちらに銃を構えた。引き金に手をかける。だが、次の瞬間には、AIも、兄も、見失っていた。


視界が真白に染まっていた。AIが照明をつけたのだろう。暗視装置をつけていた俺たちは、莫大な光量が目に飛び込んで来たことにより、一時的に視力を失った。


「人類ヲ排除シマス」


妙な機械音声が工場内に響き渡るとともに、そこら中から機械の駆動音が聞こえてきた。手探りで隠れる場所を探す。やがて、生産ラインの下を探り当て、そこに隠れた。


うつ伏せになり、脚を立て、銃を床に設置した。辺りから叫び声が聞こえて来た。銃を乱射する音が聞こえる。目が見えない中AIに襲われ、半狂乱で引き金を引いたのだろう。銃声が聞こえるとともに、叫び声も途切れる。


バレないように息を潜める。早鐘を打つ心臓をどうにか黙らせ、視力が回復するのを待った。


兄はどこに行った?

まだどこかにいるのか。既にここを脱出したのか。もしくは⋯⋯殺されたか。



◇◇◇◇◇◇



ようやく視力が回復した。周りを見渡す。


「ッ!!」


すぐ横には、仲間の死体があった。

眼光はとっくに失せていて、焦点があっていなかった。死体の腹には、ぽっかりと大きな穴が空いていた。跳弾を受けて死んだとしても、こんな傷にはならない。おそらく、AIの攻撃を受けたのだ。これがAIの攻撃方法⋯⋯。


顔は知らなかった。自分とは別の小隊だったのだろう。俺は手を合わせ、少しばかり供養をした。


工場の構造は体育館のような構造だ。吹き抜けになっていて、二階の部分には、壁に沿った廊下があるだけだ。そこには、十数体ほどのAIが等間隔で歩いている。全員手ぶらだ。攻撃して来たのはあのAIではないのか。もしくは、武器などいらないのか。


どうやってここから脱出しようかと、考えていると、一人の男が視界にいた。兄だった。兄は上ばかり気にながら、ゆっくりと、近くにある外につながるドアに向かっていた。脱出する気だ。援護しなければ。


俺は銃口を上に向け、引き金に指をかけた。この銃は消炎制退器が装着されているため、発砲しても位置がバレにくい。だが、上からだと確実にバレるだろう。見晴らしが良すぎる。誰かが脱出するには、自分を晒さなければならない。誰かが囮にならなければ、脱出しようとした者は蜂の巣になること請け合いだろう。


なら、俺が囮になろう。引き金を引いた。思いが通じたのか、銃声が響いたと同時、兄が立ち上がり、ドアに方へ向かっていった。ラインの下に隠れていた俺は、影から転がり出て、そこを離れて一拍置いた後、何本ものレーザービームがラインを貫いた。


すぐさま立ち上がり、別のところへ隠れる。すると、再び銃声が響いた。逃げたはずの兄が、銃を構えていた。すると、一つだった銃声が、二つ、三つと増えていく。まだ、生き残りがいたようだ。


工場に残っていた全てのAIを倒し、外に出た。生き残ったのは四人だった。またAIがここに大挙してやってくると予想し、乗ってきた車両に乗り、そこを離れた。


運転しているのは兄だ。


「皆、死んじまったな⋯⋯」


呟いたのは、ガタイの良い男だった。


「⋯⋯な」


車窓を眺めながら同調したのは、ピンク色の髪を束ねた女性だった。


「二人の名前は?」


お通夜のような空気感を払拭するために、俺は名前を聞いた。


「オレの名前は袴田レオだ」

「あたしは倉敷リネ」


二人は端的に言った後、黙りこくる。


「俺は柊レイって言うんだ。そんで、こっちが兄貴のケンジ」

「よろしくな」

「「⋯⋯⋯⋯」」


まいったな。まあ、そりゃそうだ。いきなりAIの大群に襲われて、視界を奪われて、気づいたら自分以外死んでいると分かったら、そうなる。誰だって。


「ここからどうするんだ、兄貴」

「基地に帰るか。あそこなら食料もあるし、武器もある。しばらくそこで過ごして、仲間を集めて戦力を増やさなきゃな」


兄がそう提案したが、俺たちが到着した時には、既にAIの手に堕ちていた。AIが中に侵入し、銃火器や、物資などを強奪していた。


「奪還するか?」

「無理だろ、こっちは四人しかいないいのに、どうやってやれって言うんだ」

「逃げるか。ここの地域が一番ひどいらしいからな。ここから抜け出して、被害が少ない地域に隠れよう。それで良いな、後ろの二人」

「⋯⋯あぁ」


工場から脱出してからずっと放心状態の二人は、生返事を返すだけだ。


「隣町まで行って、そこで夜を明かすか」


兄はそう言うと、車両を走らせた。



◇◇◇◇◇◇



隣町では、被害は少ないようだった。先ほどの地域のようにAIの反乱があったが、AIの数が少なかったらしい。おそらく、AIの生産工場を占拠するために、先ほどの地域に多くのリソースを割いたからだろう。


しかし、多くの市民が家を空けて避難所に逃げ込んだようだ。それは仕方ないことだった。なぜなら、俺たちが工場で交戦していた時に、非常事態宣言が出されていたからだ。


「避難所に行くか」

「そうだね」


あまり目立ちたくないので、徒歩で行くことにした。銃を担いで避難所まで歩いた。


「止まれ、AIだ」


兄の声に足を止め、銃口を兄が示す方向に向ける。兄が示した方向は、道路の曲がり角になっていて、俺からは見えなかった。


「兄貴、行けるか」

「⋯⋯俺がやる」


ほんの少し体を傾け、家の陰から顔を出す。狙いを定め、引き金を引いた。銃を下ろしてAIの状態を観察し。


「よし」


一言呟き、進行を再開する。これの繰り返しだった。


避難所に着いた時には、すっかり空は暗くなっていた。

誤字・脱字報告を受け入れているので送ってくれたら嬉しいです。

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