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私のいとしい最弱の魔法救皇  作者: 猪谷かなめ
第六章:二人の願い
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62_休憩



「ただいま」


 昼前にアシュレイが帰ってきた。


 お昼ご飯は一緒に食べるつもりだったようで、エリスは嬉しくなる。

 すぐに駆け寄りかけたが――


(あ、短剣は取られたままだったわ)


 と、気づいて慌てて止まった。


 せっかく武器庫で短剣を見つけたのに、魔杖――もとい、先代の幽霊に取り上げられてしまった。

 これでは敵に操られた時に何かを口走ってしまっても、自分を止める手段がない。アシュレイを危険に晒したままだ。


「こうなったらハンカチを猿轡(さるぐつわ)の代わりにして……あら、長さが足りないわね」


 手持ちのハンカチを細く丸めて自分の口を封じる猿轡にしようとしたが、長さが足りなくて顔の後ろで縛るなんて無理だった。


 いざとなればそのまま口の奥まで詰め込むしかないな、と残念がっていると、


「猿轡!? ……ねぇ、僕の留守中に二人で何の話をしてたの!?」


 と、アシュレイが慌てていた。


「……ええと、大砲を見てただけよ」


 そっと目を逸らしながらエリスは答える。


「大砲? ああ、武器庫を見ていたの? そういえばこの城にあったね。…エリスは武器に興味があるの? あ、魔道具が欲しいんだったよね。……あれ? それは解決したんだっけ?」

「あ……」


 彼が宝物庫での封じられた記憶を思い出してしまいそうなので、

「お昼にしましょう!」

 と、無理やり話題を変えた。



       ◇◇◇



 調理場に向かって歩いていると、アシュレイがすまなそうに言った。


「僕はお昼を食べたらまたすぐに出かけるよ。ごめんね、一人にして」

「? なんだか忙しそうだけど、何をしに出かけているの?」


 訊ねると、アシュレイは足を止めて、まっすぐにエリスを見つめた。


「エリスの敵を探しに」


 ――その、見透かすような瞳に、どきりと心臓が跳ねた。


「敵って……」


 エリスが動揺すると、彼は寂しそうに微笑んだ。


「……エリスはどうして困ってるかを言えないみたいだからね。僕が勝手に探すから安心して。前にエリスの屋敷に忍び込んだ敵でしょう? 必ず見つけるからね」

「アシュレイ……」


 胸がいっぱいで、感謝するべきか申し訳なく思うべきか困っていると、「気にしないで」とアシュレイは重ねて目元をゆるめた。


「ただ……」


 彼はそこで言葉を切って悩むような顔になり、「なんでこんなに見つけづらいんだろう……痕跡が妙に見えないというか……」と不思議そうに首を傾げていた。


「……」


 それはおそらく、かなり魔力の高い人で、アシュレイの父親で、転移魔法も使う魔導士だからだろう。

 なにせ第一皇子が兵士を使って探しているのに、いまだに居場所を掴めていないくらいだ。


(言っていいのかしら、あなたの父親よ、って)


 だが、もし言ったら両親に思いを馳せて、呪歌まで思い出しかねない。


 しかしアシュレイにこれ以上無駄な苦労はしてほしくないし、敵の所在を見つけてもらえるのは正直ありがたい。


(父親だと言わなくても……万能なアシュレイならきっといずれ見つけるわよね……)


 相手が転移魔法を使えたとしても、アシュレイならいずれその形跡に辿り着くだろう。探知や追跡は得意なはずだから。


「あの、アシュレイ。お願いがあるの」

「なあに?」

「その人を見つけても、絶対に一人では会いに行かないで」


 アシュレイはきょとんと瞬きをした。


「必ず私も同席させて。一人でその人と会話をしないで。その人に何も喋らせないで。何を言われても、聞かないでほしいの」


 エリスの必死な頼みに、彼は不思議そうな顔をしたが、


「うん、わかった。エリスと一緒に会いに行けばいいんだね?」


 と、すんなり約束してくれた。


 エリスはほっと安堵の息を吐く。


「うん、お願い」


 念を押すように頷いておいた。


「その人が私の……大切なものを持っていて、それを取り返せたら、嬉しいんだけど」

「……なるほど、物を盗られていて、それで言うことを聞かないといけないんだね。わかった」


 どこまで言っていいかわからなかったが、おおよそ推測してくれたらしい。エリスは安堵の気持ちと、敵がこの会話に触発されて動き出しませんように、という心配でいっぱいだった。


(私を通じて筒抜けになっていませんように……)


 敵がこの会話を盗み聞きしていないことを願った。



 その後は、アシュレイとお昼を作って食べた。

 瞬間移動で街に行って買ってきたり、食べに行ったりもできるよ、とアシュレイに言われたが、いつエリスが操られるか危ういうちは、彼と人混みにいるのは怖かったので、城にいたいと言って断った。


(転移魔法って便利ね)


 いずれは、アシュレイと街に食事をしに行きたいものだ。


 今のところ頭の中で敵の声はしない。だが、油断は禁物だった。



       ◇◇◇



 食べ終わるとアシュレイはまた出かけていった。


 魔杖は残っており、二人が食事を終えると寄ってきて、今はエリスの後ろに突っ立っている。


(あ、アシュレイに訊き忘れたわ)


 結局、幽霊としての姿を見せない時、魔杖の声が聞こえないのはエリスの魔力不足のせいなのかどうか、それをアシュレイに訊くのを忘れていた。


(まあいいか)


 何か会話をしたければまた人間の姿を見せてくれるだろう。そう考えたが――


(あ、でも、幽霊としての寿命が減るとかも言ってたかしら……)


 会話を終えた後にそのようなことをぼやいていた。魔力を消耗するのだろう。生者と違って使った魔力は回復しないのかもしれない。そうなると節約した方がいいだろうし、そう簡単にはもう出てこないかもしれない。

 それに――


「あの、もしかして歩くのも疲れたりしますか?」


 ぴょこぴょことついてくるのは余計な魔力を使うのではないだろうか。そう気になって訊ねてみれば、答えを迷っているような感情が見えた。しかし、やがてこくりと頷かれる。


(私に気を遣わせないように、言うべきかどうか迷っていたのかしら?)


 そっと手を伸ばすが、嫌がられなかったので持ち運ぶことにする。

 背丈ほどの長さがあるので、なかなかに重い。豪奢な魔杖をよいしょと両手で持った。


「まぁ移動するっていっても、また武器庫に行くだけなんですが」

「!」


 何かを主張したそうに、魔杖がぶんぶんと頭の方――宝石を垂らす装飾の玉鎖を左右に揺らした。引きちぎれないか、ちょっと心配だ。


「だめですか? でも私には短剣が必要なんです。あの短剣、どこにしまっちゃったんですか? また探さないと」

「!!」


 怒られている気がしたが、無視して歩いた。


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