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捜査開始 商人を探せ

「それじゃあ、リリィ行ってくるよ。何にかあったら、手伝いの娘に言ってね」


「そうね。店から出られないし、そうするわ。行ってらっしゃ〜い」


 監視には、予定通り騎士が1人だけ付いた。でも、いつものリリィの状態と変わりない。うちからサポートも来るし、困らないだろう。


「それじゃあ、アイリス、ギンカ。頼むぞ」


「リリィの為にも頑張るよ!」


「匂いの確認も出来ましたので安心して下さい」


「よし、ティラノスに向かおう」


 転移(シフト)でティラノスに移動した。

 ティラノスは、竜王国が包有するダンジョンを中心に発展した街だ。その為、冒険者の姿をよく見かける。冬の間は、魔物被害も護衛依頼も少ない為、冒険者たちの稼ぎ場所にもなっている。


「通常のクエストより危険が多いから、麻薬に走るのかもな」


「怖さを誤魔化す為に使うんだね」


「ですが、そこまでして挑む理由が分かりません」


「それは簡単だよ、ギンカ。生活の為だ。冬場の収入は、限られるからね。嫌でも、ダンジョンに行くのさ」


「なるほど」


「それより、2人共。これを読んでくれないか?」


 俺は、先程まで目を通していた書類をアイリスたちに渡す。彼女たちは、読み書き出来るから問題ないだろう。


「ナニコレ。調査報告書?」


「そう。騎士団から写しを貰ったのさ」


 異世界なのに、コピー機が有るとは思わなかった。機械じゃなくて、マジックアイテムだったが、効果は同じ。


「それを読んだら、妙に疑問が湧くんだよ」


「疑問?」


「それは、ーー」


 1、何故、クロバラ草とヒトデ草の粉末を渡したのか?

 最初から混入した物を、ネビルに渡せば良い筈だ。まるで、商人が自分でパラダイスロストを作りたく無かったみたいだ。


 2、酒が2種類存在するのは何故か?

 パラダイスロストを作成するには、6つの薬草が必要になる。しかし、本来の酒には、その内の1種類しか含まれない。4種類入った酒は、このティラノスでしか出回っていないのだ。また、その数も数本と少ない。それらの酒は、商人の女が売ったものだろう。


 3、事件が起こるのを知っていたのではないか?

 ネビルが拘束されたのは、騎士団の詰め所より最も離れた居住区。だというのに、事件が起きた瞬間を騎士団により拘束されたそうだ。まるで、起こるのを知っていたかのように。


 4、被害者の名前を知られたくないのだろうか?

 傷害事件だというのに、被害者の名前が記載されていないのだ。それだけでなく、どんな怪我なのかすら記載がない。名前は伏せても、怪我の状態は記載する筈だ。


「そんな感じで、軽く読んだだけでこれだけ出るんだよね」


「じゃあ、順番に潰して行こうよ」


「まずは、酒から調べるという事ですか?」


「そっちは、マリーが調べてるよ。なんせ、酒の販売元もコーリス伯爵なんだよね。だから、俺たちは、予定通りに商人を探そう。買った場所の記載もあるから行ってみよう」


 場所は、市場から少し離れた裏路地。人通りが少ない訳でも薄暗い訳でもない、普通の通りだった。


「ギンカ。匂いは分かるか?」


「はい。しっかり残っています。それでは、新しい方へと案内します。こっちです」


 ギンカは、匂いの経路を認識する事が出来るだけじゃなく、新旧も見分ける事が出来る。俺たちは、ギンカの後に付いて移動した。


「ここは、酒場か?」


「『アガルタ』って書いてあるよ」


「ご主人様。対象は、この酒場に入った後、あのテーブルに付いた様です。それと報告なのですが、カリンの香水の匂いが対象以外にもします」


 同じ香水を着けた者がいるのか? 同じテーブルについた様だし、仲間だろう。


「たぶん、仲間かな? 数は?」


「最低、2人でしょうか?同じ席に付いた後、行き先はバラバラに出た様です」


「とりあえず、目的の商人を追うとしよう。その後、他の奴らを追跡しよう」


「了解しました。こちらです」


 商人の女の匂いを追うギンカの足取りは、だんだん人目の少ない方へと向かって行った。そして、路地の隙間を通り角に入ると。


「ここで完全に掻き消えています」


「本人の匂いも?」


「はい。本人の匂いもここで止まってます」


「あれって、ユーリも使ってたけど、そんなにしっかり消えるの?」


「匂い消しの魔法には、2つあってね。1つは、特定の匂いを弾く魔法。もう1つは、自分に膜を張って体臭等の匂いを隠す魔法があるんだ。もし、両方使うなら完璧に消せるよ」


「そうなんだ」


「また、これに認識阻害の魔法を組み合わせると、外でSEXしても気付かれないくらいの効果が得られるよ」


「……したの? 外で? 誰と?」


「………」


 やべぇ、口が滑った。そこまで、言う必要無いのに。


「一体、誰としたのかな? 私の予想だとマリーなんだけど?」


「えっと……その……」


「ギンカ。人が来ない様に、路地の入口で見張っててくれない?」


「分かりました」


 ギンカが素早く視界の端からフェイドアウトしていった。ちゃっかり、結界を張る手際付きでだ。彼女は、危機感を感じたのだろう。


「ユーリも知ってるけど。私、他の娘ならまだ良いけど、マリーは別なんだよね。あの子にだけは、負けたくないの」


 アイリスは、マリーを特別に意識している。親友であり、俺の嫁の1人だからだろう。


「という訳で、私とする事を要求します」


「はぁ?」


「初めてじゃないなら、大丈夫でしょ。1滴残らず、食べてあげるから」


「あっ、ちょっ!?」


 人気のない路地裏でアイリスに脱がされるのだった……。






「……気を取り直して、捜索を続けよう」


「そうだね♪」


 アイリスは、スッキリした顔をしている。結構、時間が経ってしまった。こんな流れで有益な情報が手に入るんだろうか?


「ギンカ。他のカリンの香水を辿ろう。何か、分かるかもしれない」


 俺たちは、酒場まで戻って匂いを辿って行った。しかし、何方も途中で匂いが止まっていた。

 仕方ないので、酒場で聞き込みを行う事にした。商人たちが利用していたテーブルは、分かっているので、少しは希望が持てる。


「あれ? ユーリの兄貴じゃないですか?」


 酒場に入ると1人冒険者に声をかけられた。彼は、何処かで見た顔だ。最近、冒険者をしていなかったから忘れてるのかもしれない。


「え〜っと、確か……」


「レンっすよ! レン! ヤケッパチの! 忘れたんすか?」


「あっ! バルトの所の!!久しぶりだな。どうして、こんな所に?ダンジョンか?」


 一緒にクエスト行ったのに忘れてたよ。言い訳するなら、半年くらい会って無いから忘れてもしょうが無いよね?


「実は、クエストの最中なんすよ。兄貴の方こそ、ダンジョンですかい?」


「違うよ。人を探してるんだ。それより、クエストって?」


「あっ、それなら、バルトさんに聞いた方が速いっすよ。あの人、兄貴が知ってる通り顔が広いですし。もうすぐ、ここに来ますんで」


「そうなのか? なら、バルトに聞くか」


 バルトを待つ間、酒場の店員とマスターに聞いて見た。大金貨1枚で誰も彼も快く話してくれたよ。それにより、色々分かった。


 1.商人の女の仲間は男性が2人だって事。

 2.各自、酒を複数所持していた事。

 3.各自、特定の人物に予定通り売れたという会話があった事。


「予定通り売れた?」


 という事は、相手を狙って売ったのか? ネビルを選んだ理由は、なんだ?

 彼の特徴といえば、麻薬の常習者という事だが……ダメだ。比較対象がいないから断定出来ない。


「あれ? おい、レン。なんで、ユーリの兄貴がいるんだ?」


「よう、久しぶり。いる理由は、ちょっと訳ありでな。奢ってやるから、席に着きな。これ、メニューな。好きなの頼め」


「はぁ……、ゴチになります」


 考え事をしていたら、バルトがやって来た。バルトにメニューを渡し、注文したのを見計らって会話を始める。これで、コイツらは逃げられない。


「ーーな訳で、動いてるんだよ」


「………」


 バルトは、凄い険しい顔をしている。何か、思う事がある様だ。少しして、バルトは口火を切った。


「兄貴、俺たちが今やってるクエストなんですが、騎士団の薬物課からの依頼で、ある組織の調査なんです」


 バルトは、純粋な叩き上げな事もあり、それを活かして討伐より調査を多く請け負っている。


「組織?」


「『ハムハイン教』という宗教をうたっていますが、新参の麻薬組織です。この冬から『パラダイスロスト』を含む色々な薬物で勢力を伸ばしつつ有ります。最近、そこに所属するネビルというディーラーの男が、この街で事件を起こしたので調べてました」


 冬になると犯罪も増加する。人気が少ない為、取引もしやすい。


「ネビルがディーラー?……なぁ、この街にネビルの仲間がいたりしないか?」


「仲間ですかい? 2人程居ますよ。今、コムイとトードが監視してます」


 なんか、商人が売った相手の共通点が、それな気がしてきた。2人が酒と粉末を持っていたら確実だな。


「俺にソイツらを教えてくれないか? パラダイスロストを追うのが俺の仕事なんだ。だから、手伝わせてくれ」


「こちらこそ、兄貴に共闘して貰えると助かります。それではーー」


「バルトさん、緊急事態です!今、念話でコムイから連絡が有りました。人を庇って、監視対象に怪我を負わされた様です!」


「「ナニ!?」」


 レンが慌てて、会話に参加してきた。その内容を聞くな否や俺たちは、直ぐ様、店を飛び出した。


「レン!状況とコムイの容態、ついでに原因は?」


「現在、戦闘中です。ヒーラーなだけあって、命に別状はなく、怪我も治癒中だそうです。原因は、酒を飲んだら暴れ出したんだとか」


「最後に、コムイの奴がいる場所は分かるか?」


「西区の住居エリアで教会近くとしか」


「それだけ分かれば、魔力感知で何とかなる!俺とアイリスだけ、先に行く!ギンカは、後から来てくれ!空間制御(エリアコントロール)」


 全員を連れて行くのは無理なので、魔力感知の為にアイリスだけを連れて飛翔した。


「すみません、兄貴!コムイを頼みます!」


「任せろ!」


 ここは、ティラノスの東区。場所は、正反対だな。急いで向かおう。

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