捜索開始 伯爵から話を聞く
ユーリたちがティラノスについた頃。マリーは、馬車に揺られながら、コーリス伯爵領があるエミール地方に来ていた。
「アンナ。サポートをお願いします。貴方の実力に期待しますよ」
「お任せ下さい、姫様」
マリーは、王宮に戻り、アンナを連れてやって来た。理由は、アンナの役職にある。誰も彼もアンナをメイドと認識しているが、本来の役割は、隠密なのだ。
「私も久しぶりの本職なので、腕がなります」
「やる気充分ですね。それでは、コーリス伯爵に関する情報を整理しましょう」
コーリス伯爵は、エミール地方を治めている地方領主。薬師としても活躍しており、色々な薬剤を取り扱っている。その為、領内に薬園も存在していると聞く。
民からの信頼については、厚い方だ。薬による治療や教育等、民に接した活動をしている為だろう。
「領地に関する情報は、私が調べておきました」
エミール地方は、現在、作物の不作が続き、赤字が続いている。それは、領地を担保に借り入れを行う程。
それの打開策として、エミールの良質な水源と生産が安定しているじゃがいもを利用した蒸留酒の販売に乗り出した。酒には、コーリス伯爵の薬草知識も加わり、良い出来で、商人たちも大量に仕入れたらしい。
「一見すると経営再建も上手く行き、問題無い様に見えますね。借り入れ先は、分かりましたか?」
「はい。相当マズい所から借りた様ですね。借り入れ先は、ハムハイン教の教主でオルクスという男です。伯爵とは、学友の頃からの付き合いだそうですね」
「ハムハイン教ですか? 初めて聞く宗教です」
「近年出来た宗教の様です。表向きは、薬の神サマエルを祀っていますが、裏では、麻薬取引を行ってる様です」
「その中には、パラダイスロストも含まれるのですか?」
「噂によれば、そうらしいです」
「……とりあえず、伯爵からクロバラ草を購入した理由を聞いてみましょう」
馬車の御者窓から見えるマリーの視界には、コーリス伯爵の屋敷が見えてきた。
「それでは、そろそろ消えておきますね」
「その前にコレを」
マリーは、アンナに一対のイヤリングを差し出した。イヤリングは、木で作られており、複雑な彫刻が刻み込まれていた。
「これは?」
「ユーリさんが作った。身代わりの護符みたいな物です。邪気を祓う桃の木を使う事で、呪詛や魔力攻撃に対して反応し、身代わりになってくれるそうです」
ユーリさんが、護衛クエストに行った時、心配だからと全員に作った物だ。ユーリさんは、逃げる際に、心配な遠距離からの攻撃を警戒して作ったと言っていた。後、発動した時に起こるギミックがあるそうだが、直接関係する事じゃないので秘密だそうだ。
「では、有り難く使わせて貰います」
「あくまで、保険なので気を付けて下さい」
「分かりましたわ、姫様」
アンナは、イヤリングを着けると姿を消した。直ぐ様、魔力感知で周囲を調べる。魔力も隠蔽されてる様で見えない。
「隠遁も問題無い様ですね」
「とはいえ、せいぜい2時間程なので足止めをお願いします」
姿は見えなくとも声がするので、確かにアンナはいる様だ。
「姫様。コーリス伯爵邸に到着致しました」
馬車は停止し、御者の声と共に、馬車の扉が開かれた。御者の手を取り、外に出る。
「マリアナ様!ようこそ、我が家にお越し下さいました!」
屋敷の前には、コーリス伯爵を筆頭に従者の者たちが並んでいた。
「ご機嫌よう、コーリス伯爵。この度は、私めの都合にお時間を割いて頂き、ありがとうございます」
「いえ、とんでも有りません。マリアナ様の為なら喜んで時間を作りましょう。ここでの立ち話もなんです。ささっ、中に参りましょう」
コーリス伯爵の案内に従い、屋敷に入る。屋敷の中は、質素な物で調度品等もあまり見受けられない。領地経営の為、私財を投げ売ってると言うのは、ホントなのだろう。
「それで、お話とは如何様なものでしょう?」
来賓室に通されてから対談が始まった。アンナの為にも、2時間は足止めしなければならない。
「単刀直入に申します。この度、訪れたのはクロバラ草を購入した経緯をお伺いしたくて参りました」
「クロバラ草ですか?」
「お宅に仕えるエフィメラという従者が薬屋テリーゼにて貴族印を見せて、購入したそうです。それの用途とは?」
「う〜ん、そんな仕事頼んだ記憶がないのですが……」
「はい?」
「確かに、私は薬師をしております。しかし、クロバラ草を使う案件なぞ、精神患者くらいなのですが、そういった者の治療は行った事がないのですし、使った事もございません」
「経験も使用もない? クロバラ草を使った薬物製造に関する知識は?」
「知識としては、関連書物を多数所持している事も有り、知っていますよ」
どういう事でしょう? 確かに、従者が購入しているはず?
「でしたら、購入したエフィメラさんにお会いさせて頂けませんか?」
「……それが、彼女は、1週間程前より行方不明なのです」
「行方不明?」
「首都ペンドラゴンへ書類を届けに行き、帰って来た日から姿を見ていません。従者の話によりますと夜に肩掛けバックを1つ持った状態で、従者小屋の裏口から出て行ったそうです」
「では、それを目撃した人を呼んで貰えませんか?」
「分かりました。誰か、セシルを呼んでくれ」
伯爵が控えた従者に命令する。執事の1人が部屋から出て行き、メイドを連れて帰ってきた。
「おっ、お呼びでしょうか!ご主人様!」
「用があるのは、マリアナ様だ。粗相の無い様に」
「はっ、はい!」
彼女は、突然の事で動揺している様だ。
「そんなに緊張しなくて良いんですよ。少し、エフィメラさんの事で聞きたい事があったの」
「エフィですか?」
「彼女が従者小屋を出た時、何故、止めなかったのか?そう思ってしまったの」
「それは……」
一瞬、伯爵を見た後、セシルは意を決して話始めた。
「彼女が逢引に行ったと思ったのです。たまに、抜け出して誰かに会ってる様でしたので」
「相手は、何方ですか?」
「彼氏ではない様ですが、ハムハイン教の幹部だとか。名前までは、ちょっと……」
「そうですか。それ以外に変わった点は有りませんでしたか?」
「そういえば、妙にバックが膨らんでいました。本が飛び出していたので、それかなと思いましたが、よく考えるとそれにしては可笑しい膨らみ方でした」
「ありがとうございます。もう、下がって大丈夫ですよ」
「はぁ……失礼します」
セシルが退出したのを見計らって、伯爵と会話を再開させる。
「そういえば、ハムハイン教の教主とは御学友だとか?」
「ええ、昔、同じ学校に通って薬学を学んでおりました。彼は、家の関係で退学し、それっきりでしたが、3年前ですかね。突然姿を現して、教会を建てさせてくれと申してきたので、許可しました」
「何でも、その方からお金を借りているとも?」
「そこまで、ご存知で……。分かりました。お話しましょう。そういえば、丁度オルクスが来た時期ですね。その頃から我が領内で作物の不作が相次ぐ様になりました。最初の頃は、蓄えも有ったので単なる不作年という認識でした。しかし、それが数年続くと蓄えも尽き、危機感を覚える程になりました」
「調査をしなかったのですか?」
「しましたとも。ただ、そういう時に限って、野盗などが増加して、途中で止める事になりました。調査団が襲われた事も有ります」
「その対策などでもお金を使い、借りる事になったと?」
「はい。そんな時に、オルクスから提案が有り、教会周辺の領地を担保にお金を貸すという話だったので借りた次第です」
どう考えてもオルクスが怪しいのだけど、決定的な証拠がないからなんとも言えないって感じかしら?
「そう、大変なのですね。良かったら、夫を紹介しましょうか?」
最低限、聞きたい事も聞けたので、話題を変えましょう。
「マリアナ様の旦那様ですか?」
「農業や薬学に詳しいので、色々しているんです。最近話題のアイスプラント等はご存知ですか?」
「はい、塩害対策にも良いという植物ですね」
「あれは、夫が販売している物なんです」
「なんと!?」
コーリス伯爵は、食い付いた。ユーリさんがやってる農業の話で、時間潰しを始めましょう。
「ーーという感じなんですよ」
「ユーリ様は、凄い方なんですね」
「そうなんですよ」
話始めて2時間程経過した時、コンコンと軽く扉をノックする音が聞こえてきた。
「はて? 扉の外に誰かいるのか? 開けてやってくれ」
「はい。……ご主人様、誰もいない様です」
執事は、扉を開けて廊下を見せてくれたが誰の姿も見えない。
「おそらく、風か何かではないですか?」
「誰もいませんし。その様ですね」
音がしたのに誰もいないという事は、多分アンナだろう。どうやら調査が終わったらしい。
「きりが良いので、ここまでにしましょう。この度は、ありがとうございました。お礼に彼を紹介しますので期待してて下さい」
「ええ、期待させて貰います。では、馬車までご案内致します」
その後、問題無く馬車に乗り、コーリス伯爵邸を後にした。完全に屋敷が見えなくなった頃に、アンナは姿を現した。
「お疲れ様です。何か、得られましたか?」
「なかなか、面白い情報が得られましたよ。伯爵が気付いてないのが不思議なくらいです」
楽しそうに笑うアンナから情報を聞く。その内容とはーー。




