第四話
怪人は断末魔を上げ、光の粒となって消えていく。
辺りは静寂に包まれた。
助かった人々は涙を流し、互いの無事を確かめ合っている。
零はその光景を、ただ黙って見つめていた。
「……そうだ。」
忘れていた。
自分が初めてこの力に目覚めた日のことを。
中学最後の体育祭。
青空の下、歓声が響いていた。
友達と笑い合い、リレーの順番を待っていた、何気ない一日。
その日も、こんなふうに平和だった。
突然、空が裂ける。
現れたのは、人の姿をした怪人――ヴェイル。
悲鳴。
逃げ惑う生徒たち。
教師たちの叫び声。
零は足がすくみ、動けなかった。
目の前では、親友が怪人に捕らえられている。
「助けて……!」
その声が耳に焼き付く。
考えるより先に、体が動いた。
怖かった。
勝てる保証なんてなかった。
それでも。
助けたかった。
大切な友達だったから。
その瞬間、胸の奥から熱が溢れた。
眩い光。
腰に現れたベルト。
それが、神代零というヒーローの始まりだった。
「そうだったんだ……。」
零は静かに拳を開く。
自分は最初から世界を救いたかったわけじゃない。
正義になりたかったわけでもない。
ただ――。
身近な人を守りたかった。
出会った人たちを笑顔にしたかった。
その気持ちだけだった。
いつの間にか、組織の使命や「人類を守れ」という言葉に飲み込まれ、その原点を見失っていた。
零はゆっくりと振り返る。
人混みの向こうで、美月が不安そうにこちらを見ている。
目が合うと、彼女はほっとしたように笑った。
その笑顔を見た瞬間、零も自然と笑みを浮かべる。
「……そうだ。」
守りたいものは、今も変わっていない。
友達を守りたかったあの日と同じように。
今は、美月を守りたい。
彼女の笑顔を守りたい。
そして、目の前で泣いている誰かも守りたい。
未来がどうなろうと、それだけは誰にも決めさせない。
零は静かに歩き出す。
「帰ろう、美月。」
「うん。おかえり、零くん。」
その一言に、零は少しだけ照れくさそうに笑った。
彼はもう、「世界のため」に戦うヒーローではない。
大切な人の笑顔を守るために戦うヒーロー。
それが、神代零という男の、本当の始まりだった。




