4 魔法少女、ルールを聞く
「起きた?」
わたしの体の上に白い猫が乗って、わたしを見ている。
体を動かそうとするけど、体が悲鳴をあげる。
痛い。
「あくま」
「僕のことを悪魔って、酷いな」
「あ、あくまでしょう」
何度も痛いと叫んでも止めてくれなかった。
やめてと言っても、やめてくれなかった。
逃げようとしても、体が固定されて、逃げることもできなかった。
神様でなく、悪魔だ。
「みんな、この魔力線を体に伸ばすと、僕のことを悪魔とか、鬼とか呼ぶんだよ。こんなに可愛い猫なのに」
初めは可愛い猫と思った。
でも、今は邪悪な悪魔にしか見えない。
「うぅ」
痛い。
少し体をひねっただけでも痛みが走る。指一本動かせない。
「しばらくは動けないよ」
「あくま」
「酷いな。薬を飲ませてあげようと思ったのに」
「薬?」
「この薬を飲めば、少しだけど痛みが和らぐよ」
少し体を動かすだけでも痛い。
そんな薬があるなら、早く欲しい。
「早く、ちょうだい」
「なにか、言うことはないのかな。薬を飲まないと最低、3日は動けないね」
「悪魔」
「トイレも食事もできないよ」
トイレって言葉で固まる。
このまま3日間も動けなかったら、ここで……。
いや、女の子として、それだけはダメ。
しかも、トイレと単語を聞いたら、行きたくなってきた。
「どうする?」
猫がわたしを覗き込む。
お父さんも仕事でしばらくは、帰ってこられないと言っていた。
食事もトイレもいけない。
そもそも、こんな恥ずかしいところをお父さんに見せるわけにはいかない。
なにより、説明ができない。
病院に連れて行かれて、騒ぎになるかもしれない。
「可愛い猫神様、わたしにその薬を飲ませてください」
それしか、わたしが口にする言葉はなかった。
「そこまで言われたら、仕方ないね」
ちょろい。
猫は尻尾に巻き付いた小瓶をわたしの口に運んでくれると、薬を飲ませてくれる。
本当に治療薬だったらしく、少しだけ痛みが引く。
体を動かすと、まだ痛みはあるけど、動けないほどではない。
これならトイレに行ける。
「ああ、ちなみにこの薬には副作用があるから」
飲んでから、そんなことを言い出す猫。
「副作用?」
「大したことじゃないよ。僕のことを悪魔とか鬼と言ったら、頭に痛みが走るだけだよ。みんな治療薬を飲ましたあと、悪魔とか鬼とか言い出すから、薬に追加効果を入れておいたんだ」
悪魔だ。
過去の魔法少女の気持ちが痛いほど分かる。
「なにか、僕に言いたいことある?」
この猫に向かって「悪魔!」「鬼!」と叫びたい。
でも、そんなことを言えば頭痛が襲ってくる。
頭に魔力線を伸ばしたときのことが思い出される。
あんな思いは二度としたくない。
「猫神様、薬をありがとうございました」
わたしには、そう言うしかなかった。
わたしは這いずりながらも、トイレに到着することができた。
ただ、身体中の痛みは、しばらく続くと言う。
食事も作れそうもないから、食事はカップラーメンとか、パンになりそうだ。
裸のままでいる訳ではいかないので、どうにか服を着て、ベッドに倒れる。
疲労感が凄い。
「しばらくは寝るといい。体を休めるのが一番の回復方法だよ」
わたしは夕方まで寝た。
起き上がったとき、体が悲鳴をあげるけど、どうにか動ける。
薬を飲んでいなかったら、一歩も動けなかったかもしれない。
白猫の話も聞きたいけど、まずはなにか食べないと。
わたしは一階に降り、お湯を沸かし、カップラーメンを食べる。
買い置きをしておいてよかった。
階段を下りるとき、体中が悲鳴をあげて大変だったよ。
そして、時間は進み、3日後にはちゃんと動けるようになった。
腕や足を伸ばしたりすると、少しだけチクッと痛みがあるけど、普通にするだけなら問題はない。
冷蔵庫の入っているもので簡単に調理をして、食べる。
「あなたもなにか食べる? でもキャットフードはないから、後で買ってくるけど」
白猫に尋ねる。
いままでいなかったのに、3日経ったら現れた。
「一応、食事はできるけど、必要ないよ。神様だからね」
「そうなんだ」
わたしはご飯を食べると、部屋に戻る。
「これで、お父さんを助けられるんだよね」
わたしはお父さんを助けるために魔法少女になった。
あの痛みにも耐えた。
「まだだよ。魔法が使える体になっただけで、まだ魔法の使い方もなにも知らないでしょう」
確かに、魔法の使い方なんて知らない。
てっきり、魔法少女になって、お父さんを助けられると思っていた。
「それじゃ、教えて」
「そんなに慌てなくても、まだお父さんなら大丈夫だよ」
「本当?」
「もし、間に合わなくて、お父さんが死んだら、君は、今後、僕に従ってくれないでしょう」
逆に恨むと思う。
「だから、そんな嘘は吐かないよ。君にはちゃんとした魔法少女になってもらわないといけないんだから」
わたしは猫神の言葉を信じることにした。
「それじゃ、魔法少女の規約について説明するよ」
「規約?」
そんなものがあるの?
普通は魔法少女になる前に話すものじゃないの?
とりあえず、話を聞いてみると。
その1、魔法少女は人に魔法を使ってはならない。
その2、魔法少女のことは誰にも話してはいけない。
その3、猫神の指示はできるかぎり従うこと。
「魔法を人に使ったら、どうなるの?」
「普通の武器と同じだよ。分かりやすく説明すると銃や剣、鈍器、火炎放射、人を殺すでしょう。魔法も同じ、人を殺すことができる。神はそれを許さないからね。破った場合は罰が待っているよ」
「罰?」
人を殺すつもりはないけど、人を殺してしまった罰が気になった。
「故意でない怪我程度なら注意。でも、悪意があった場合は……」
「なによ」
「まあ、そんなことは起きないから大丈夫だよ」
「どうして、そんなことを思うのよ」
「大人ならまだしも、君みたいな年齢の子は人を殺したいと思わない。だから、魔法少女は君ぐらいの年齢から選ばれる。子供って純粋だからね」
「子供だって、イジメはするよ」
小学生も嫌がらせはする。
髪の毛を引っ張ったり、教科書にいたずらしたり。
「そうだね。否定はしないよ。でも、君たちの年齢と中学生、高校生、大人たちと比べたら、可愛いものだよ。小学生が人を殺した話は聞かないでしょう」
「……」
でも、虐めで自殺をする小学生もいるって聞いたことがある。
それが友達が虐めているのか、親が虐めているのかは分からないけど。
「もちろん、0とは言わない。でも、0に近い。年齢が高くなれば、人は暴力的になる。まあ、そんな子は魔力があっても魔法少女にしないけどね。僕には人を見る目があるからね」
「つまり、わたしは人に魔法を向けないと」
「だって、君、お父さんを尊敬しているでしょう。お父さんみたいになりたいって思っているでしょう」
「お父さんを知っているの?」
「もちろん、神様だからね。警察官で、正義感が強い人間だ」
わたしのお父さんは警察官だ。
お父さんは優しく、強く、尊敬するお父さんだ。
「お父さんを尊敬する君は人を傷つけない。だから、君を選んだ」
お父さんと同じと言われているみたいで、少し嬉しい。
「分かった。絶対に人に向けて魔法は使わない」
わたしは約束する。
わたしだって、人に怪我をさせたり、殺すことなんてできない。
「それじゃ、人に魔法少女が知られたらどうなるの? わたしから話すつもりないけど、誰かに知られたりする場合があるでしょう」
「時と場合によるけど、ほとんどの場合は相手の記憶を消したりする」
「そんなことができるの?」
「できるけど、他の記憶も消えるかもしれない。他人なら問題はないけど。知り合いだと、君との記憶も消えるかもしれない」
「それって」
「思い出だよ。他人なら、君と出会った部分の記憶を消せばいい。でも、知り合いだと、どこまで消えるか分からない。都合よく、魔法少女の部分だけ消すことはできない。だから、知り合いに知られると、その人との思い出が消えるかもしれないから、気をつけてね」
もし、お父さんに知られたら、お父さんとの思い出が消えるってことだ。
お父さんに絶対に知られるわけにはいかなくなった。
「3番目の猫神様の指示にはできるかぎり従うって、どんな命令なの?」
「魔法少女になる前に伝えたと思うけど、魔獣、幽霊、悪意を持ったものが現れたら、対処する」
「できるかぎりって?」
「病気で体調を崩したり、動けない状況だったら、無理強いはしない。でも、戦いたくないってことだけはダメ」
「もし、断ったら」
「そのときになったら分かるよ」
猫神は怖い笑いをする。
「でも、本当に魔獣とか幽霊とかいるの? 今まで、見たことがないけど」
「いるよ。普通の人には見えないけど。でも、魔法少女なら見える」
魔獣とか幽霊とか、想像すると少し怖い。
少しどころか、凄く怖いかも。
「怖いの?」
「初めは誰も怖がるよ」
「誰でもって、他にも魔法少女はいるの?」
「いるよ。今度紹介するよ。近くにいる魔法少女とは一緒に戦うこともあるからね」
それを聞いて少し安堵する。
わたしだけじゃないんだ。
「あと、聞きたいことはない?」
いまのところは思い付かない。
でも、猫神様のほうがなにかを思い出したように口を開く。
「そうだ。気を付けることがあと1つあった。魔獣、幽霊が見えるのは一部の人間だけと言ったよね」
「うん」
「君に見えても、友達や知り合いには見えないから、気をつけてね。変な人だと思われるから」
確かに。
「過去には、頭がおかしいと思われたり、不気味がられたりして、友達を無くした子もいるから」
猫神は笑いながら言うけど、それは笑い事じゃないよ。
「中には両親からの子もいたね」
もし、お父さんに変な子と思われて、嫌われたらショックで立ち直れない。
「その場合は記憶の削除は」
「してもいいけど、他の記憶が消える可能性もあるよ」
そうだった。
「だから、変な行動や言動には気をつけてね」
わたしは誓う。
絶対にお父さんにバレないようにすることを。
契約内容が提示されました。
ここで、人に魔法を使ってはいけない契約を結ばれます。




