3 魔法少女、魔力線を延ばす
「でも、どうやったら、魔法少女になれるの?」
「服を脱いで、ベッドに寝て」
「服を! やっぱり、痴漢、盗撮魔」
わたしは枕を猫に向かって投げる。
でも、猫は軽々と避ける。
「だから違うよ。魔法少女になれる素質がある女の子には魔力を作り出すコアが心臓の近くにある。でも、現状では、それを使いこなせていないから魔法は使えない」
「……魔力を作り出すコア」
「その魔力コアから、血が流れる血管みたいに魔力線が出ているんだけど、ほとんどの人は伸びていないんだ。魔力を使うには身体中に伸ばさないといけない。あっ、これは痛いらしいよ。毎回、魔法少女になる女の子は泣いているから」
「痛いの?」
「僕は経験がないからわからないけど。泣くほど痛いらしいよ」
「…………えっと、痛くならない方法は」
「ないよ。でも、お父さんを助けたいんだよね」
「悪魔みたい」
「お父さんを救える力を与えるんだから、神様でしょう。それで、どうするの?」
お父さんを助けるためだ。
わたしは服を脱いで、ベッドの上に仰向けになって倒れる。
うぅ、恥ずかしい。
猫がわたしに近寄ってくると、心臓あたりに前足を置く。
温かい。
なにかが体に入ってくるような感覚だ。
「凄い、思ったよりも魔力が濃い」
「いいから、早くやって」
恥ずかしいんだから。
「わかったよ。まず、君の魔力線を見せてあげるよ」
「魔力線?」
「さっき言った血管みたいなものだよ。血管は血を流す。魔力線は魔力を流すためのもの。それじゃ、少し痛みが出るけど、耐えてね」
猫がそう言うと、心臓付近に痛みが走る。
「目を開けて、自分の体を見て」
わたしは目を開けて、自分の体を見る。
心臓の近くから、変な線が伸びて光っている。
長いのがあったり、短いのあったり、さまざまだ。
「そして、心臓あたりに線が絡むようにいっぱいあるでしょう」
心臓の周りには線がたくさんある。
まるで糸が絡まった毛玉のように。
「この糸みたいな線を身体中に伸ばすんだけど、痛いから我慢してね」
この線を体中に延ばす。
「さっきも言ったけど泣くほど痛いらしいから、口に布を咥えるといいよ」
漫画とかで、麻酔無しで手術をするときに、口に布を咥えさせているシーンを見たことがある。
「本当に痛いの?」
「だから、僕はわからないよ。ただ、過去の魔法少女の言葉を伝えてるだけだから」
お父さんを助けるために魔法少女にならないといけない。
やっぱり、怖いから止める選択肢はない。
わたしはベッドから起き上がり、タオルを持ってくると、ベッドに倒れる。
「やって、いいよ」
もう、やるしかない。
痛くても我慢するしかない。
お父さんを助けるためだ。
わたしはタオルを咥える。
猫の足が心臓近くに乗る。
その瞬間、心臓が無数の針が刺すような激痛が走る。
痛いところじゃない。
心臓をわしづかみされたような感覚。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
タオルを咥えていなかったら、唇を噛みしめていた。
血管を引っ張られたことなんてないのに、血管を引っ張られたように激痛が走る。
猫の手をどかしたいのに、体は固定されたように動かない。
やめてと、心の中で叫ぶ。
でも、白い悪魔は止めない。
心臓が悲鳴をあげる。
「かなり、絡まっているね」
心臓がかき混ぜられたような痛み。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
ペンチで挟まれたように痛い。
「凄い魔力線だ。見てごらんよ」
見えない。見ることなんてできない。
どれほどの時間が経ったか分からない。
早く終わって、それしか考えることができない。
「やっと、終わったよ。凄い、絡みだったよ」
終わったの。
安堵する。
終わったんだ。
でも、白猫は信じられない言葉を発する。
「やっと、魔力線を解けたよ。それじゃ、この魔力線を体中に伸ばすよ」
……嘘、終わっていないの?
あの糸のような線を解いただけ?
白猫は「右腕からいくよ」と言う。
わたしに確認なんてしない。
心臓から右肩に激痛が走り、その激痛が右腕から手首、指先まで激痛が走る。
指はまるで釘を打たれたように激痛が走る。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
「次は逆の手をやるね」
もう、やめて。
お願いだから、やめて。
わたしは目で訴えるけど、白猫は止めない。
左肩、腕に激痛が走る。
そして、指先は釘を打たれたように激痛が走る。
「うぅ」
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
……やめて。
……お願い。
「これで、両手が終わったよ」
……終わった。
本当に終わったの。
わたしの願いが通じた。
体中が痛い。
でも、終わったんだ。
この痛みから解放される。
そう思った瞬間、白猫から、とんでもない言葉が発する。
「次はお腹から、足に伸ばすね」
待って。
まだやるの。
もう、無理。
お願いだから、やめて。
わたしの願いは届かない。
お腹、背中に激痛が走る。
折れたことなんてないのに、背骨が折れたような激痛。
死ぬ。
でも、終わらない。
激痛はお腹を通る。
お腹に包丁が刺されたように痛い。
でも、ここから足に伸ばすと言う。
「右足から行くよ」
「うぅ」
やめて。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
腰から右足に激痛が走る。
ふとももが痛い。
痛みはどんどん下へ向かう。
足首、足のつま先に激痛が走る。
これ以上先にはいかないで。
そんな願いが届くこともなく。
足の指に釘を打たれたように痛みが走る。
「右は終わったから、次は左をやるよ」
左足が終われば、この痛みから解放される。
右足と同様にふとももから、つま先まで激痛が走る。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
でも、これで、終わる。
死ぬような激痛が終わる。
腕も足も、体も終わった。
全部終わった。
痛みから解放される。
そう思ったら、悪魔が呟いた。
「それじゃ、最後に頭だね」
……頭。
……嘘。
この激痛が頭に。
耐えられない。
釘を頭に打ち込まれたことを考えただけでも、怖い。
神様じゃない。悪魔だ。
そして、魔力線は頭の中まで伸ばされることになった。
頭は痛く、ハンマーで殴られたように痛く。何度も死ぬかと思った。
最後は気を失った。
でも、痛みで何度も起こされる。
どれほど、時間が経ったか分からない。
……わたしは生きている。
神様だけど、行動は悪魔でした。
体にある血管をいじられるイメージで描きました。




