2 魔法少女、猫神様に会う
「魔法少女になってよ」
わたしが自分の部屋のベッドに座って、スマホで漫画を読んでいると誰かが話しかけてきた。
ここは2階の自分の部屋。
この時間は家には誰もいない。
テレビもパソコンも付いていない。
部屋を見渡すと窓際に白い猫がいた。
猫が喋った?
そんなわけがない。
わたしももう小学生4年生だ。
今年の誕生日がくれば10歳だ。
現実と漫画の区別ぐらいつく年齢だ。
「ねえ、魔法少女になってよ」
また聞こえた。
部屋を見回す。
でも、白い猫しかいない。
「もしかして、あなたが喋ったの?」
冗談で猫に話しかけてみる。
「ちゃんと、僕の言葉が分かるみたいだね。聞こえていないと思ったよ」
「…………!?」
猫が喋った。
「ロボット? もしかして盗撮!?」
最近はドローンの盗撮もあるって聞いたことがある。
それが猫型のロボット。
「警察に連絡を……」
わたしは持っているスマホで警察に電話しようと思った瞬間、猫が部屋に入ってきて、尻尾でスマホを弾く。
スマホはベッドの上に落ち、猫がスマホの上に足を置く。
「ロボットじゃないよ。盗撮でもないよ」
スマホは猫の足の下にある。
これじゃ、スマホを手にすることができない。
どうする?
襲いかかる?
相手は猫だ。
でも、猫がなにかしてくる可能性がある。
毒を吐かれたら。
流石に漫画の読みすぎだ。
でも、なにをされるか分からない。
わたしはドアに目を向ける。
家には誰もいないから、助けは呼べない。
でも、居間に行けば電話がある。
わたしは走り出し、ドアに手を伸ばす。
「ひ、開かない」
「魔法を掛けたから、開かないよ」
ドアを押さえられているみたいに開かない。
猫がベッドの上から降りて、わたしの前に歩いてくる。
「近寄らないで」
「話を聞いてくれないかな。じゃないと、温厚な僕も怒るよ」
わたしは腰を落とし、後ずさりするけど、ドアがあり、これ以上、後ろに下がることはできない。
「お父さん!」
「魔法をかけてあるから、外に声は聞こえないよ」
怖い。
「化け猫」
「酷いな。化け猫じゃないよ」
猫が喋るわけがない。
「もう一度言うね。魔法少女になってよ」
「家に勝手に入るのは犯罪だよ!」
「僕の話を聞いていないね。これを見て」
猫が浮かぶ。
「猫型のドローン」
ドローンは浮かび、空を自由に飛び回る事ができる。
「違うよ。どこにもプロペラはないでしょう」
たしかにない。
猫型のドローンなんて聞いたことがない。
猫に浮かぶ要素がない。
でも、わたしが知らないだけで、プロペラがなくても飛べるかもしれない。
「あなたはなに?」
「君から見たら、神様かな」
「……神様」
「正確には猫神だね」
信じられない。
でも、現実に猫が喋りかけている。
白い猫は、自分が神様だと言う証拠を見せてくれる。
体が浮かんだり、なにもないところに水や炎を出して見せる。
「そのぐらいなら、ライターでも水を持っていれば」
可能と言おうとしたとき、わたしの体が浮かぶ。
「なっ」
わたしは浮かぶ体のバランスを取ろうとするけど、壁にぶつかって、ベッドの上に落ちる。
「これで、信じてくれるかな」
信じられないことだけど、わたしの体が浮いた。
小学生のわたしでも、人の体は浮かばないことは知っている。
人の体が浮かぶのは宇宙空間や非現実世界だけの中だ。
でも、わたしの体が浮かんだ。
種も仕掛けもない。
「それじゃ、もう一度言うね。魔法少女になってよ」
「魔法少女って、漫画やアニメだけのお話でしょう」
現実と漫画の区別はできる。
魔法少女になれるのは漫画やアニメの世界だけだ。
「そんなことはないよ。言い方は違うけど、昔から世界中には魔法少女はいたよ。ヨーロッパでは魔女狩りって言葉があるでしょう」
聞いたことがある。
魔女が殺されたって。
でも、あれは無実な女性が殺されただけと聞いたけど。
「あの魔女は魔法を使える女の子たちのことだよ。その力を恐れた当時の権力者が、殺したんだよ」
「……」
「日本だと、陰陽師とかかな」
「陰陽師って男性だけじゃ」
「女性もいるよ。あとは分かりやすいところだと、『くのいち』もそうだね」
「くのいちって、女の忍者のことだよね」
「世間では、そう伝えられているけど、あれも魔法の力を持った女の子たちのことだよ」
信じられない。
「そんなこと、どこの本にも」
「それは、僕が隠してきたからね」
「それじゃ、男の忍者も?」
「あれは本当の身体能力だよ」
信じられないけど、猫が喋っているのは事実だ。
「それで、魔法少女になってくれる?」
「どうして、わたしなの?」
わたしが選ばれた理由が分からない。
「それは魔力を持っているからだよ。しかも、魔力量が多い。歴代でも大きいほうじゃないかな」
「わたしが」
魔力なんてものを持っているの?
魔力なんて、漫画やアニメの中での話だ。
でも、先ほど、自分の体が浮いたことを思い出す。
「魔法少女って、なにをするの?」
「妖魔、妖怪、幽霊、言い方はあるけど、その類いの敵を倒すことだよ」
妖魔? 妖怪? 幽霊?
それも漫画やアニメの中だけの話だ。
「そんなものいるわけが」
「でも、昔から、妖怪や幽霊の言い伝えはあるでしょう。それは本当にあったことだからだよ。ただ、妖怪や幽霊は見える人と見えない人がいる。そして、見えない人のほうが多い。だから、妖怪や幽霊はいないと言われている。でも、見える人もいるから、言い伝えは残る」
信じられないけど、火のない所に煙は立たない。
「わたしに、妖怪や幽霊なんて戦えないよ」
「だから、魔法少女になって戦うんだよ。君には魔法少女になる素質がある。だから、戦えるよ」
「嫌よ。どうして、わたしが魔法少女になって、妖怪や幽霊と戦わないといけないのよ」
「いいのかな。君のお父さんが死んでも」
「……!?」
「お父さん、いろいろな人に恨まれているね。このままじゃ死ぬよ」
お父さんは正義感が強く、悪い人を捕まえる警察官だ。
「お父さんが死ぬって」
「君のお父さんを恨んでいる人が多い。その怨念がお父さんを襲っているんだよ」
そういえば、最近、お父さんが疲れたと言っている。
「君が魔法少女になって、その怨念を倒さないとお父さんが死ぬけどいいのかな」
お父さんが死ぬ。
そんなの嫌だ。
「あなたは神様なんでしょう。あなたが助けてよ」
「僕には無理なんだ。魔法少女に力を与えることしかできない。だから、君が魔法少女になって、戦うしかないんだ」
「本当に、お父さんが死んじゃうの?」
「今すぐじゃないけど、徐々に魂が消耗して、死ぬことになるよ」
お父さんが苦しんでいるのは本当のことだ。
疲れて、栄養ドリンクを飲んでるところを見ている。
この猫の言っていることが本当なら、お父さんが死ぬ。
「……魔法少女になればお父さんを助けられるの?」
「もちろん」
「……なるよ。魔法少女に」
お父さんが死ぬと言われたら、わたしには断ることはできなかった。たった1人の家族だ。
わたしは白い猫と契約をした。
女の子は猫神様と契約をしました。




