19 魔法少女、サーチェさんとお話をする
この世界で暮らすと決めたはいいけど、お金を稼がないといけない。
異次元ボックスの中にお財布は入っているけど、千円札が数枚と小銭があるぐらいだ。
あとは部屋にあったものを異次元ボックスに仕舞ったときに、お年玉を預金した通帳もあるけど、ここで下ろせるわけがない。
なにより、この世界じゃ、日本のお金なんて使えない。
わたしは、この世界で使えるお金を持っていない。
「子供でもできる仕事ってある?」
「探せばあると思うけど。まさか、働くつもり?」
「人は働いてお金を稼がないと生きていけないよ」
今まではお父さんが働いて、お給料を貰っていた。
でも、そのお父さんはいない。
どの時代でも、どの世界でも、お金がないと生きていけないってことは子供でも分かる。
そう思ってから、父親が嫌いだった魔法少女のことを思い出す。
あの魔法少女は知らなかったみたいだけど。
「とりあえず、料理、洗濯はできるから、そのあたりの仕事があればいいんだけど」
「確かに、ユナは部屋の片付けは上手だし、料理も美味しかったわ」
サーチェさんが考えこむ。
「……ユナがもしよかったら、この家に住まない? 仕事は掃除と料理をすること。衣食住に関することはわたしが支払うわ。その他にお給金も出すわ」
「いいの? わたし、自分で言うのもあれだけど、かなり怪しい子供だよ」
「分かっているわ。はっきり言って、あなたみたいな子供は見たことがない。魔法の扱いも天才と言ってもいいぐらい」
「そうなの?」
そのあたりのことは分からない。
魔法少女の数は少なかったので、比べる相手が少ない。
でも、猫神様はわたしの魔力は多いと言っていた。
「同年代で、あんなに魔法が使える子は、そうそういないわよ」
そうなんだ。
少し嬉しい。
苦労して、猫神様から教わったかいがあった。
「それに、この世界のことをなにも知らないあなたを放り出すほうが怖いわ」
「もしかして、わたし、危険と思われている?」
サーチェさんは首を横に振るう。
「誰かに騙されないか心配なのよ。もし、本当に別の世界から来たなら、こっちのことはなにも知らないでしょう。あなたの知識が悪用されるかもしれないし」
「わたし、子供だよ」
異世界漫画のような転移した人たちみたいに、わたしには特殊な力も知識もない。
魔法が使えるけど、この世界では普通のことみたいだし。
「でも、わたしが別の世界から来たって信じてくれるの?」
「妄言の可能性もあったけど、クマは小さくなったりはしないからね」
サーチェさんはくまゆるとくまきゅうを見る。
「あなたの世界ではクマは小さくなれるの?」
「ううん、この子たちが特別。ほかのクマは小さくなれないよ」
「よかった。それと、あなたが異世界から来たと信じたのは服装ね。そんなクマが描かれた服は見たことがないからね」
わたしの格好は太ももぐらいまでの長さの紺色スカートに、可愛いクマがプリントされたシャツを着ている。
くまちゃんと言って、動物を小さくした人気があるクマのキャラだ。
確かに、異世界の漫画でプリントされたシャツを着ている登場人物は見たことがない。
「あなたが別の世界の人でなくても、この国の住民でないことは確かよ。だから、あなたの言葉を信じている。それで、わたしの提案はどうする?」
行く当てなんてない。
出て行っても、この世界の知識がないわたしでは、サーチェさんの言うとおりに騙されるかもしれない。
なにが正しいのか、間違っているのかの判断ができない。
お父さんもお母さんも、この世界のことをちゃんと教えてくれたら、よかったのに。
わたしはサーチェさんを見る。
今日会ったばかりだけど、悪い人ではないと思う。
くまゆるとくまきゅうはサーチェさんに擦り寄っている。
もう、すでにわたしは、サーチェさんを信じると決めている。
「お世話になる前に、お願いがあるんだけど」
「なにかしら?」
「わたしに、この国? 世界の常識を教えて」
わたしに必要なことは、この世界で生きて行くための知識だ。
子供が1人で生きていくには、足らないものが多い。
「いいわよ。交渉成立ね」
わたしはサーチェさんの家にお世話になることになった。
さっそく、この世界と言うか、国について教わる。
「ここはアルラリ国の西にある森の中」
当たり前だけど、聞いたことがない国名だ。
「森の中って、サーチェさんはどうしてこの森の中に?」
初めは森の中に村でもあると思ったけど、サーチェさんの家しかない。
それに、一人で森の中に暮らしている理由が分からない。
掃除をしているときも、気になっていた。
「それは……」
「もしかして、嫌われ者で街から追い出されたとか、極悪人の犯罪者で身を潜めているとか!」
それなら、1人で森の中に住んでいる理由になる。
漫画や小説でも、嫌われた魔女とかが森深くに隠れ住んでいることがある。
「違うわよ。色々と理由があるのよ。あなたが思っていることじゃないから安心して」
「その理由って」
「ちょっと、仕事関係で逃げただけよ」
「仕事関係? もしかして、お金を横領して……」
会社のお金を横領するドラマや映画を見たことがある。
「難しい言葉を知っているわね。うん? 今更だけど、この世界と別の世界の言葉って一緒なの?」
「たぶん違うと思う。わたしも詳しいことは分からないけど、魔法の力? って言うのかな。違う言語の言葉が理解できて、話すことができる魔法があるみたい」
「なに、その便利な魔法」
猫神様が外国の魔法少女と会うために、与えてくれた力だ。
「あと、文字も分かるみたい」
軽く本を見たけど、本が読めた。
書けるか確かめていないけど、英語は読めたし、書くこともできた。
「あなたの世界の魔法って凄いわね」
これが魔力のおかげなのかは、詳しいことは、わたしにも分からない。
でも、それが異世界の言葉や言語にも適用するとは思わなかった。
言葉が通じなかったら、完全に詰まっていた。
あの猫神様に感謝するのは、魔法の扱いを教えてくれたことだ。
体の中にある魔力線を延ばすのは痛かったけど。
あれだけは二度とやりたくない。
「それで、仕事で逃げたって?」
わたしは話を戻す。
悪い人だったら、ここにはいられない。
サーチェさんは、少し言いにくそうに口を開く。
「わたし、これでも優秀なのよ。それで、いろいろな仕事を頼まれるの」
「つまり、仕事が嫌で、こんな森の奥に1人で住んでいると?」
「仕事量が多すぎたのよ。それでここなら、人が簡単に入れる場所じゃないから、押しかけられる事もないからね。だから、この森であなたを見たときは驚いたのよ。しかも、クマに襲われていると思ったし」
ネットでもブラック企業とか休みがないとか聞いた事がある。
実はお父さんの仕事内容がブラックなのではと思ったことがある。
夜遅くまで働いたり、休みも返上で仕事をしたりしていた。
そんなお父さんは疲れているのに、休みの日にはわたしとお出かけをしてくれた。
今思うと、休ませてあげればよかったと思う。
ただ、お父さんと一緒にいられることが嬉しくて、一緒にお出かけするのが楽しかった。
「そうだね。仕事のしすぎはよくないよ」
「分かってくれる?」
お父さんの疲れた顔を見ていたので、理解はできる。
何度か「休めないの?」と尋ねたことがあったけど、「休めない」と言っていた。
サーチェさんじゃないけど、仕事を休むには、森の中に逃げるぐらいのことをしないとダメなのかもしれない。
「でも、仕事から逃げて時間があるなら、家の片付けはちゃんとしたほうがいいと思うけど」
サーチェさんは、わたしの言葉に慌てる。
「しないわけじゃないのよ。仕事が忙しいから、後回しになっていただけよ」
「でも、仕事から逃げてきたって」
「それでも、仕事はあるのよ」
言い訳を始めるけど、実際のところは、今後一緒に暮らせば分かることだ。
「なに、笑っているの?」
どうやら、わたしは笑っていたみたいだ。
笑ったのは何日ぶりだろうか。
お父さんが死んでから、笑った記憶がない。
怒ったり、泣いてばかりだった。
そうか。わたし、笑えたんだ。
「サーチェさん、よろしくお願いします」
「ええ、よろしくね」
わたしが微笑みながらお願いすると、サーチェさんも微笑んでくれる。
サーチェさんの家で暮らすことになりました。
ちいかわは詳しくないので、ちいかわのキャラクターを調べたけど、クマがいなかった。
※異世界編より、投稿は2~3日おきに投稿させていただきます。
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