15 魔法少女、異世界に行く
体が揺れる。
誰かが体を揺すっている。
揺らすのをやめてほしい。
わたしの体を揺らすものを追い払おうとする。
柔らかい毛皮に触れる。
目を瞑っていても、何度も触ってきたから分かる。
「くまゆる、くまきゅう、揺らさないで」
「くぅ~ん」
さらに、体が強く揺れる。
「起きるから、揺らさないで」
わたしは目を開けて起き上がる。
やっぱり、わたしの体を揺らしていたのはくまゆるとくまきゅうだった。
「「くぅ~ん」」
くまゆるとくまきゅうは心配そうにわたしを見ている。
「どうしたの?」
わたしは思い出す。
わたしは人を殺し、最後は猫神様と魔法少女たちに殺された。
あれは夢?
でも、わたしは生きている。
それにくまゆるとくまきゅうも、間違いなく死んだはず。
あの苦しみは心に残っている。
死んだ後にお父さんとお母さんに会って、たくさんお話をした。
最後に、新しい世界で生きてと言われた。
なにが夢でなにが現実なのか分からない。
でも、くまゆるとくまきゅうが生きていることだけは確かだ。
わたしはくまゆるとくまきゅうを抱きしめる。
嬉しい。
お父さんとお母さんが生き返らせてくれたのかもしれない。
ありがとう。
夢でも最後に、お父さんとお母さんに会えて嬉しかった。
わたしは立ち上がり、周囲を見る。
「ここはどこ?」
草原?
わたしが立っている場所は、なにもない草原の真ん中。心地よい風が吹いている。
夢でなければ、お父さんとお母さんが新しい世界って言っていたけど。
「くまゆる、くまきゅう、ここはどこ?」
「「くぅん?」」
くまゆるとくまきゅうは首を傾げる。
くまゆるとくまきゅうも知らないみたいだ。
「そうだ。スマホ」
わたしは異次元ボックスからスマホを取り出し、地図アプリを立ち上げる。
画面は検索中のまま表示はされない。
よく見ると、スマホのアンテナの表示が圏外になっている。
つまり、電波が届いていないってことだ。
もしかして、海外?
海外だと日本で契約している携帯会社じゃ、電波が繋がらないって聞いたことがある。
新しい世界って、海外のこと?
魔法少女の力の一つで、海外の言葉は話せるし、言語も理解はできるけど……。
それ以前に、このスマホはお父さんが契約してくれた。そのお父さんが亡くなったから、契約が解除された可能性もある。
わたしが状況をいろいろと考えていると、くまゆるが鳴く。
「くぅん!」
くまゆるが鳴いた瞬間、魔法がわたしたちに向かってくるのが見えた。
わたしは咄嗟に魔力の防護壁を作る。
攻撃対象はくまゆるとくまきゅうだった。
誰かがくまゆるとくまきゅうに攻撃を仕掛けてきた。
魔法少女?
わたしは戦闘態勢に入り、攻撃が飛んできた方角を見る。
金色の長い髪の女性がいる。
服装はファンタジー漫画でしか見たことがない格好だ。
魔法少女が大人になった姿?
猫神様の仲間?
わたしを殺しにきた?
わたしはくまゆるとくまきゅうの前にでる。
今度は、わたしがくまゆるとくまきゅうを守る。
もう、わたしの大切な家族は死なせない。
「そんなに、わたしを殺したいわけ。わたしはもう、あなたたちには関わらない。くまゆるとくまきゅうと幸せに暮らすだけ」
魔法を放った女に向かって叫ぶ。
それがお父さんとお母さんの願い。
「わたしを殺すつもりなら、自分が殺される覚悟があるってことだよね」
わたしの手は血に染まっている。
今更、1人ぐらい増えても変わらない。
くまゆるとくまきゅうのためなら、何度でも手を血に染めることはできる。
二度とくまゆるとくまきゅうが死ぬところは見たくない。
くまゆるとくまきゅうとの契約が途切れる感覚は味わいたくない。
くまゆるとくまきゅうが動かないところなんて、見たくない。
わたしは魔力弾を女に向けて放つ。
女は驚きながら、回避する。
「ちょ、ちょっと待って!」
待たない。
わたしは攻撃の手は緩めない。
だけど、女は防ぐ。
強い。
年齢は20歳ぐらい。
もし、魔法少女が成長した大人なら、経験値が違う。
わたしは魔法少女になって1年ほど。でも相手は、わたしの数倍以上だ。
経験の差が大きすぎる。
だからと言って、簡単に殺されるつもりはない。
魔力を槍のように細く研ぎ澄ませる。
「貫け!」
細い槍が女に向かって飛んでいく。
女の魔法防御壁を貫く。
でも、槍が途中で止まった。
女は魔法防御壁を何重にも張っていた。
「ちょっと、待って。なにもしないから」
女は両手を挙げる。
わたしは攻撃態勢のまま、動きを止める。
くまゆるとくまきゅうがわたしの横に立つ。
「くまゆる、くまきゅう、下がって!」
「「くぅ~ん」」
くまゆるとくまきゅうはわたしの邪魔をする。
「いきなり、攻撃を仕掛けてごめんなさい。あなたがクマに襲われているかと思って」
女性が話かけてくる。
「クマって、くまゆるとくまきゅうのこと?」
「ええ、そのクマよ。くまゆるとくまきゅうって言うのね」
女性は近寄ろうとする。
わたしは女性の前に風を放ち、線を引く。
「それ以上、近寄ったら攻撃するよ」
「分かったわ。近寄らないわ」
女性は歩みを止める。
「わたしはサーチェ。あなたの名前は?」
わたしのことを知らない?
どこの国かわからないけど、名前、服装、顔からして、日本人ではない。
猫神様は世界中に魔法少女がいると言っていた。実際に何人か外国の魔法少女にもあったことがある。他の国の魔法少女が、大人になった人?
言葉は自動翻訳で会話ができるので、どこの国なのか判断がつかない。
「……」
「教えてくれないかな」
優しい声で答えてしまいそうになる。
油断はしちゃダメだ。
「聞かなくても、知っているでしょう。わたしを殺しに来たのだから」
「だから、あなたを殺しに来たわけじゃないって。偶然にここに来たら、あなたがクマに襲われているように見えて、あなたを助けようとして、クマに攻撃をしちゃっただけ」
嘘は感じない。
本当にわたしを知らない?
「それを信じろと」
「あなたのクマに攻撃をしちゃったことなら謝るわ」
本当に猫神様に言われて、わたしを殺しに来たんじゃない?
「それじゃ、わたしの質問に答えて」
「ええ、わたしに答えられることなら」
「ここはどこ?」
「ここは、アルラリ国の西にある森よ」
アルラリ国?
聞いたことがない。
どこかの小さい国?
全ての世界の国は知らない。
勉強で世界地図の勉強はしたけど、全てを覚えていない。
「そこはどこ? アメリカ、ロシア、それともアジアの近く?」
わたしは自分が知っている大きな地名で尋ねる。
「アメリカ? ロシア? アジア? ごめんなさい。どれも知らないわ」
女性は首を傾げる。
知らない?
ちゃんと言葉は翻訳されているよね?
「それじゃ、ヨーロッパ、中国、日本は?」
女性は首を横に振る。
本当に知らないの?
「それじゃ、地球は?」
「ごめんなさい」
地球を知らないってことはありえない。
ちゃんと翻訳されていれば、伝わっていないことはないはずだ。
お父さんとお母さんの言葉が思い出される。
別の世界で幸せになって。
「……別の世界」
それじゃ、ここは地球じゃなくて、別の世界なの?
わたしの力が抜ける。
「ははは」
わたしはくまゆるとくまきゅうに抱きつく。
つまり、ここは漫画やアニメで見た異世界かもしれない。
異世界編、始まりです。
くまゆるとくまきゅうと一緒に異世界生活が始まります。
異世界編では、ほのぼのの話になる予定です。
異世界編より、投稿は2~3日おきに投稿させていただきます。
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