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孤独な公爵令息は、夜の香りに毒される 〜夜会で恋した「彼」は、完璧な昼の婚約者(ただし男装令嬢)でした〜  作者: ユニ子


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第47話 フィオナの[家政婦は見た!]

エレノアが風呂に入り、数刻経った頃――



(いけない。つい寝ちゃった!どのぐらい経ったんだろ…⁉)



フィオナは深夜の階段を上がっていた。


この一週間、メイドたちが休み休み交代でアレクシスの世話をしていた。

フィオナもその一人で、寒さと疲れが相まってつい眠り込んでしまった。

エレノアへ足し湯をと思い、湯を沸かす用意をしていたのだが…。



ぼーっとした頭で急いで三階の客間へ着き、ノックをしてついドアを開ける。



「エレノア様、お湯加減はいかがで――」



フィオナの言葉が、音にならずに消えた。



「っ……!!!!????」



目に飛び込んできたのは、あまりにも刺激的な光景だった。

同じ寝台の上、睦まじく抱き合って眠るアレクシスとエレノア。

あまりの衝撃に、抱えていた盆が手から滑り落ちそうになる。フィオナは野生の勘に近い動きで、盆を膝と手で必死に受け止めた。



(あっぶな……! 死ぬかと思った……!)



心臓が口から飛び出しそうだ。

視界を占拠するあまりに美しい二人の姿に、フィオナの脳内は混乱を極め、ついには「ボン!」と爆発音を立てて処理落ちした。



(アレクシス様、なんでここに!? 体調は!? っていうかエレノア様、綺麗すぎませんか!? お胸が、お胸がすごいことになってるぅぅぅ!! え、髪? 髪どうしたの!? エレノア様じゃない……いや、エレノア様だよね!? どっち!?)



情報量が多すぎて処理が追いつかない。



(いやいやいやいや、っていうか、お二人……服、着て……る……よね? 良かった。……良くない! アレクシス様、エレノア様を抱きしめる腕の力が強すぎませんか!? 逃がさないって意志を感じるんですけど! 怖い、愛が重い! やだ、見ちゃいけない! でも、エレノア様とアレクシス様が一緒に寝ている。……いや待っっっって? お二人はそのうち夫婦になる身。別に一緒の寝台にいるのはおかしくない。けれど!)



しかし、あまりの非常事態にフィオナの脳は逆に高速回転を始め、冷徹なまでの観察と推理を開始した。



ドアから寝台へ向かう導線の間に、アレクシスのスリッパが片方ひっくり返っているのを目が見つけた。

しかも残りの片方は履いたままベッドに入っている!



(ちょっと待って。床に旦那様のスリッパ……。あんなに完璧な方が、脱げそうになるのも構わずここまで歩いてきたの!?正気じゃない、旦那様、本当に脳がどうにかなっちゃったんだわ!)



さらに視線を上げれば、そこにはあまりにも荒れた室内が広がっていた。

漂う野生の残り香に、フィオナの脳内キャパシティは限界を迎えて、完全に白煙を上げた。



(……何この状況ぉ!)



声に出せない悲鳴が喉元までせり上がる。

どう動けば正解なのか分からず立ち尽くしていると、廊下の向こうから聞き慣れた足音が近づいてきた。



「フィオナ?」



ギルバートの声だ。

フィオナは弾かれたように、音を立てずに部屋を滑り出てドアを閉めた。

灯りを手にしたギルバートが、「旦那様がいないのだ!」と焦った様子で小走りにやってくる。



「少し私が席を外したすきに…」



探し回ったのか、ギルバートは息もあらく絶え絶えだ。



「アレクシス様を見なかったか? エレノア様にもお伝えせねば…」

「は、はい……あ、あの、もう大丈夫みたいです、はい」

「……大丈夫とは? どこにいらっしゃるんだ」



ギルバートが不審そうに首を傾げ、部屋のドアに手をかけようとする。フィオナは慌ててその前に立ち塞がった。



「いえ、あの、はい、こちらにいらっしゃいます。ただ、もうお休みになられているので、お話は明日にしたほうがよろしいかと……!」

「何を言ってるんだ君は。旦那様の容体も確認せねばならんし、エレノア様にもご報告を――」

「いやいやいやちょっと! ここ、エレノア様の部屋ですから! 乙女の部屋に夜中にズカズカ入るのはマナー違反です!」



(これ、開けたら人生終わるやつ……!)

(開けたら駄目ぇぇぇぇぇぇ!!)



部屋にグイグイと押し通ろうとするギルバートを、フィオナは全身を使ってディフェンスした。必死の攻防の末、二人して「ゼェ……ハァ……」と肩で息をする。



「お、恐れながらギルバートさん。私もあなたも、ここしばらくアレクシス様のお世話でまともに寝てないじゃないですか。エレノア様も来てくださったことですし、ここは一旦休みませんか!?」

「……ふむ」



ギルバートは納得いかない顔をしたが、連日の看病でその瞳は真っ赤に充血している。疲労は隠しようもなかった。



「まもなくユノも到着するそうです。私が起きて待っておりますから、ギルバートさんは休んでください。さあ、行きましょう!」



フィオナは強引に彼の肩を押し、無理やり一階へと連行した。



(あんなの見ちゃったら、もう寝れるわけないよぉー!)



心臓のバクバクが止まらない。



(アレクシス様、本当に大丈夫なんでしょうね!? ユノー! 早く来てよぉー!)



止まらない動悸と、緊張からの解放。

深夜の静かな廊下で、心臓を押さえながら、フィオナは人知れず(物理的に)涙を流すのだった。






本日もお読みいただきありがとうございました!

次回公開は8/24(月)予定です!

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