表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長編版5人の女たち【長編・連載中】  作者: 草壁なつ帆
第五幕 大失恋の傷跡(視点:グラニータ)
26/27

私だけで、ひとりきり

 まだ昼間なのに、急に夜のように暗くなったこの館。ひどい雨風が打ち付け、あの大きくて豪華なシャンデリアも少し揺らしているよう。

「こんな場所さっさと出ましょう」

 ソルベが自ら動き出したのはこのためだった。明らかに様子のおかしい場所なんて、帰ってしまえばなんてことないと考えて。

 扉の内鍵を開け、グッと押しているその背中。私は彼女に追いついた。

「ソルベ待って。外は大嵐なのよ? 森の中で遭難でもしたら」

「こんな場所で死ぬよりはましだわ。私は何が何でも生き延びてやるんだから」

 強く言い放ち、しかしどうしたことか扉が全然開かない。

「もうっ! 何か扉を邪魔してる?」

 横の窓から外を見るけれど、ガラスを伝う水のせいで上手く見えないみたい。

 ソルベだけが外に出たいのかと思えば、ファールーデもソルベを手伝った。扉に肩を当てて押してみるけれどダメで、ドアノブを回したり押したり引いたりあらゆることを試している。

 私はそんな二人を引き留める。

「ねえ待ってよ。ドンドゥルマを置いて行けない」

 するとソルベが振り返った。

「まだそんな事を言ってるの!?」

 一瞬は怒ろうとしたようだけど、むしろ呆れて「もういいわ」と言った。

「あんたたちとはこれで最後よ。だいたい元から友人でも無い。知り合い以下だったのに変な因縁で繋がっちゃって。厄災だわ、あんたたちは」

 ソルベが言う言葉に、ファールーデはひっそりとドアノブから手を放していた。

「厄災だなんて……」

 悲しむ彼女を助けることは無い。

「何よ。本当のことを言ってるだけでしょ」

 この険悪な空気を明るく照らした光が現れた。さっきの窓が突然明るくなり、目を覆った私たちの耳には、誰かが叫んでいる声が聞こえる。

「やったわ!」と、ソルベが喜んだ。扉を叩いて「ここよ! ここにいるわ!」と叫んだ。

 私はこの場がドンドゥルマに知れたらと恐ろしかった。だけどドンドゥルマはこちらにやって来ない。

 扉の外で誰か男の人が呼びかけている。

 すると、ついにガチャッと扉が外から押し開けられた。

「ご婦人!」

 雨具を濡らした男の人が二人。

「市局の者です。雨による災害が起こるかもしれません。私たちに続いて非難してください」

 安心をしたのかファールーデの腰が抜けた。それを市局員のひとりが支え、私たちは無事に逃げられるようだ。

「……何の匂い?」

 私の鼻をかすめる焦げくさい匂い。

 他の人たちは感じ取れない。「雷が落ちたんでしょうか」と市局の人が周りを見たけれど。辺りを捜索する他の局員たちも分からないと返事をしたようだ。

「そうだ、厨房!」

 クルフィが言った。そういえばドンドゥルマが厨房を見てきてと言ったのだった。

「私見てくる!」と、クルフィが走り出す。

 私も彼女に続いて行こうとした。だけどその時、私の服の裾はファールーデに掴まれ、足を止めさせられる。

 ファールーデは私に、行くなと目で訴えたけれど。残念ながら私は彼女の警告を聞く事は出来なかったわ……。

「ドンドゥルマを連れて来る」

 もう見えなくなっているクルフィを追って階段を駆け上る。

 最後に見たファールーデの悲しむ顔や、ソルベのそっぽを向く横顔。そうよ、私たちは元々友人でも何でも無い。

 雷が鳴り、雨が打ち付ける窓。その廊下。クルフィの後ろ姿を見つけた私は彼女に向かった。

「火は? 厨房は?」

 おかしかった。クルフィは廊下の中腹に立ち止まって、雨の降る窓をずっと見ていたんだもの。

 焦げくさい匂いは全く感じ取れない。でもこの短時間でクルフィが厨房に行ったとは考えられない。……あれ? 厨房は二階にあるのかしら? おかしいわ。

「……何をしてるの? クルフィ?」

 するとクルフィは窓の外を指さした。「ほら見て」と言った。

 窓の外は大雨。そして森の中を幾すじの光の線が動いている。大声を出して呼びかけている。雨による災害を防ぐために。

「ねえグラニータ。このまま、この館ごと土砂に埋まってしまうのかしら」

「ちょ、ちょっと恐ろしいことを言わないでよ! だったら早くドンドゥルマを連れて出ないと!」

「ドンドゥルマ? ああ、そうね……」

 ぼんやりと言い、しかし動こうともしないクルフィだ。青白い光を頬に受けたまま、じっと外を見ている。

「もう! じゃあいいわ! 私たちだけで探すから!」

「私たち?」

 その時、初めてクルフィが私と目を合わせた。

 いつも明るく真夏の晴れ日のような彼女だけど、今は少し違うように見える。

「私たち。じゃ無いわ」

「え……?」

 床や壁が軋み、大雨は天井をも貫いた。

 バケツをひっくり返したような水が一気に壁を伝って降りてきて、私の足元を濡らしていく。

「そう。あなただけ」

 外で誰かが叫んでいる。あれが市局員の男性達だってどうして分かるんだろう。

「グラニータ! どこにいるんだ! グラニータ!」

 おかしいわ。呼んでいる声が私と同じもの。大雨の音にかき消されたり、不意に現れたり。

 とにかく急に雨風の音が格段に大きくなった気がする。風に吹かれて私の髪も真横に向かってなびいている。

 エントンランスまで歩いて戻るけれども、腐った床板が危なげで、シャンデリアはもう床に落ちてバラバラになっていた。だから階段を下りずに見下ろした。

 扉が開けっ放しになっていて雨風が入りたい放題だわ。

 ソルベやファールーデはもう居なくなっていて、クルフィも突然居なくなっていた。

 まるで、最初から私だけがひとりきりで居て、この倒壊寸前の家屋をうろついていたかのように。


(((次話は来週月曜17時に投稿します


Threads → kusakabe_natsuho

Instagram → kusakabe_natsuho

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ