085話『悪夢』
ユフと姉様が幼い頃暮らしていた、レハナ村。ラルル村のすぐ近くにあり、そこもとても良い場所だったと思う。
「こんちには、親愛なる村人の皆様。今月分の献金を回収しに参りました」
その村の村長は、魔女教という胡散臭い宗教にどっぷりとハマり、村人にまで入信を強制させるようになっていた。それは直ぐに村中に広がり、本気で入信する人さえ現れた。毎月多額の献金を求められ、断ると追放か村八分。そんな地獄のような生活が続いていた。
「今月も皆様に女神様の御祝福があらんことを」
名目上は多神教としており、その中でも女神崇拝を行っているが……実際は違う。古代より言い伝えられる、四大列強が一柱。魔王エキドナを一方的に崇拝する教団だ。
「おやおや、どこかの一家だけまだのようですね……」
「す、すみません……家計が苦しくて、来月にまとめてお渡ししますので、今月だけは……」
「そーれはいけませんねぇ……娘さん達もまだ小さいようですしね」
村全体がこの献金のせいで、困窮状態。そんな中で悲鳴をあげたのは、ユフ達の家だった。両親は既に痩せこけ、服もボロボロ。しかし、それはどの家を見ても同じことが言えた。ユフたちも、いつもお腹を空かせていた。
なぜか魔女教はその日、ユフ達の家に何もすることなく村を後にした。しかし安心しきっていたその夜、悪夢はやって来た。
「大変だ! 村長の家が燃えてるぞ! 」
「あぁ、我々は女神の怒りを買ったのだ……」
けたたましく鳴る警報を知らせる鐘の音で、ユフは目を覚ました。いつも隣で寝ているはずの両親とレフの姿がなかった。その鳴り響く鐘の音に怯えながら、そっと外の様子を窓から伺った。村全体が炎に包まれていた。気がつくと、家の中も段々と煙で充満してきていた。
「ユフ! 早くこっちに来て! 」
その時、玄関のドアの方から姉様の声がした。急いで外へ出ると、焦げ臭い匂いが鼻を刺し、身を焦がすような熱さに襲われた。
「やぁ、可愛らしいお二人さん。私は魔女教制裁担当司教、セナ・ヨル=アブソルート。困ったことに、君たちの両親は金を払えなかった……生活が苦しいとか、言い訳してね。だから、少しでも生活が楽になるようにと思って」
そう言って、そのセナという小柄な男は、手に持っていた2つの頭をユフ達の前に投げて見せた。
「……っ!? 」
「母様、父様……? 」
「ユフ、見てはいけないわ! 」
そう言って姉様は、私の目をその小さな手で覆ったが、少し遅かった。まぶたの裏にこびりついたその光景を今でも時々夢に見る。とんでもない悪夢だ。
「あはは! 実に良い表情だ……絶望と怒り、そして不安に染まったその顔だよ! 」
「お前は、お前だけは……! 絶対に許さない! ロード、アクセス……風迅! 」
「そんな歳で通常単魔法だが、省略詠唱できるとは……悪い芽は摘んでおかなくちゃね。魔女之御手」
セナは背中から長く、気味が悪い腕のようなものを数本生やし、姉様の体に突き刺した。
「うぐっ……!? 」
その時、姉様の体の中で何かが砕け散るような音が聞こえた。とても不快な音だった。
「君の魔術の根源、核を破壊した。これで君は魔術どころか魔力すらも扱えなくなった。今日は楽しませてもらったよ、夜明けも近いようだ……今回は見逃してあげる」
セナはフワッと宙に浮き、そのまま飛んで行った。いつの間にか、村にいた魔女教徒の姿を綺麗さっぱり無くなっていた。残ったのは、焼け焦げた村と村人の死体だけだった。
一人一人を丁寧に埋葬し、レフが回復したのは1ヶ月も後のことだった。幸いな事に隣村の村長が雇ってくれたお陰で、2人はラルル村に行き着いた。




