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028話『藝華-⑤』

 私は、私に嘘をつき続けて今まで生きてきた。そう、今だってそうだ。

 この世界に来てから、私は少し安心してしまった。『もうあの人の事を考えなくても良い』と。しかし、そんな思考回路になってしまう自分を呪う自分もいるのも事実。そんな悩みを払拭するように私はただがむしゃらに冒険者を続けた。


「ミズキ、何か悩みがあるのならなんでも話してよね。仲間なんだから」


 ルータッタのメンバーは皆とても優しい。召喚者である私に対しても、何の忖度もなしに接してくれる。


 彼が転生して来ていて再会した時はそれは驚いた。勢い余って彼のパーティーに入ってしまったしね。

 まぁとは言っても、とても毎日楽しいんだけど。


 昔は私よりも遥かに大きかった彼の背丈が、今では私よりも遥かに小さくなってしまっている。そんな彼も私と出会ってから随分とたくましくなったものだ。何だかしみじみと感じられる。

 だが、彼は私の想いどころか、幼なじみだって事すらもう覚えていないのだろう。

 それで良い、今の彼にはとても可愛い子が隣にいる。わかってる、頭では分かっているのだが心がどうしても分かってくれようとしない。彼に私は必要じゃない。彼にはエリスちゃんが必要なんだ。

 何度もそう言い聞かせ、自分の想いを封じ込めて来た。


 ***


「この先にお目当てのものがきっとある」


 俺は重い扉を両手で力一杯押した。すると、その扉は地面を削るような重い音を立てながらゆっくりと開いた。


「な、何だこれは……? 」


 部屋の中に入ると、すぐに異変と異臭を感じとった。血生臭く、胸糞悪い匂い。

 そして、地面には何人もの教団員らしき人達が倒れている。紫色の服、幹部級の人なんかは無惨と言う言葉でしか表現出来ないほどの状態だ。

 ここで一体何が?


 大きな空間が一つだけ存在する大部屋、見た感じ王女様は居ないようで安心した。今頃残り二箇所のどちらかが保護している頃だろうか。


「となれば、俺たちはこれの調査をして帰るしかないな」


 と言って歩き出そうとした瞬間、自分の体に違和感を覚えた。

 体、と言うより背中と言った方がより正しい。


 恐る恐る見下ろすと、俺の体から刀身が生えていた。それを視覚した途端に、激しい痛みと燃えるような感覚が全身を襲った。

 そして、自分の体重を支えることが出来なくなり、倒れてうずくまるしか無かった。遠くの方で誰かが叫んでいるのが聞こえる。

 段々と視界が狭くなって来た……これは、あの時と同じ感覚……


 急にパッと世界が開け、気がつくと俺は見覚えのある真っ白な空間にいた。


 確かここは――


「そう、ここは死後の世界。久しぶりだね、蒼弥君……あ、今はレイニィ君だね」


 目の前に現れたのは鬼頭祭神(きとうさいしん)高亜君(こうあんくん)。俺を騙した悪神だ。


 やっと会えた……今ここでこいつの首を掻っ切る! ――


 しかし、いつも腰に携えていた剣が無かった。それに、声が出せない?


「あーそうそう、君の発言権を制限させてもらったよ。あと、物騒なものも預からせてもらってる。僕は話し合いをしに来たのだからね」


 よく見ると、目の前に立つ神は前と会った時よりも服もボロボロ、何故か妙に痩せていた。何だ? この違和感は。何かがおかしい。


「何かがおかしい……君はそう考えているね。そう、カラナ神国含め天空祭苑は今未曾有の災禍にある。私にはそれを止める術を持ち合わせていない、残念な事にね」


 心を読まれた、読心術的なあれか。神というのは腐っても神か、厄介なもんだ。


 正直カラナ神国がとか、天空祭苑がどうとか俺には関係ない。興味が無い。そんなことよりも、俺に発言権を寄越せ――


「はぁ、仕方ないなぁ……ほら」


 鬼頭祭神が指をパチンと鳴らすと、やっと口が動いた。


「お前には色々文句がある。俺はお前たちに抗議するためにここまで頑張ってきた。聞かせろその経緯を」

「今は無理だよ。そろそろここも危ない、僕はもう行くからね」


 そう言って、神は消え始めた。


「おい、待て! 何故俺をここに呼んだ! お前は何がしたい、何故教えてくれないんだ」

「僕はもうちょっと話がしたかったんだけどね、僕は大罪神となった身……自由は無いんだ。だけどこれだけは覚えておいて、敵を見誤るなよ少年」


 そう言って神は完璧に消えてしまった。どこか悲しげな表情と、()()()という言葉が引っかかった。俺は何か誤解をしているんじゃないか、もっと詳しく話が聞きたい。次にまた会えたら……


「おい! そこのお前……って君が噂によく聞くレイニィ君だね! いやー、お会い出来て光栄だよ」


 俺によく会いに来る女の神官の男版だ。何か絡みやすそうな人だなという印象。



「……君はこんなとこにいたらいけない。早く下界に帰りなさい」


 その神官が手を俺のおでこにかざし、そう言うと俺はまた意識を失ってしまった。


「鬼頭祭神様の痕跡がほんの僅かだが残っている……彼とここで話していたのか。そうか、ここが全ての始まりの地だったか。早く探し出さないと」


 そんな事を考える神官の頭には、大王神様が怒る顔で埋め尽くされていた。


 ***


「全生命の母、我が慈愛の女神よ、彼の者の命の灯火を再び照らさん、アドヒール……」

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