021話『母の秘密』
「レイニィ様はいらっしゃるか」
朝早くから、騒々しくドアを叩き俺を呼ぶ声で目が覚めた。
これが世界で一番最悪の目覚まし時計だろう。
「はいはい、何ですか」
ドアを開けると、そこには緑色を基調とした軍服に身を包んだ兵士が立っていた。俺はすぐに室内を確認した。
良かった、エリスはまだ起きていないようだ……
すぐに部屋から出て、ドアを閉めた。こいつらの姿をエリスに見せる訳にはいかない。
「なぜ王国軍の兵士様がこちらへ?」
改めて尋ねた。
「国王陛下がお呼びである。同行願う」
マニュアルに染まりきっているのかと思うほどに、それは淡白な出頭要請だった。
昨日行ったばかりじゃないか……何を話すことがあるんだ。
***
「朝早くからすまない。だが、君にすぐに伝えなければいけないと思ったのでね。コホン……行方不明だった君のお母様が発見されたのだ」
昨日の玉座の間とは違い、少しだけ柔らかな雰囲気の部屋に通された。
そして、王が口にした事が俺にはすぐに理解できなかった。
「母様が……ですか?」
それから、国王から母の所在を聞きすぐにそこへ向かった。
アウスラール監獄、そこに俺の母は収監されているようだ。
殺人罪が適用され、刑期は大体15年ほどになるらしい。
王都の端の方に位置するアウスラール監獄へ行くには、だいぶ歩かなければいけなかった。しかし、道中は森に包まれ散歩にちょうど良い感じだった。
やっとのことで、到着した。やっと母に会える。あの時の真相が聞けると、心臓がバクバクしてたまらなかった。
しかし、中に入ってみるとどこか慌ただしい。看守があちこち走り回り、誰も俺に目もくれない。
はて、どうしたのだろう。
「あの、何かあったんですか?」
走ってきた1人の看守に声をかけた。誰かが脱獄でもしたのだろうとこの時は思っていた。
しかし、現実というのはそう甘くは無い。
「囚人が1人首吊ったんだ。しかも、それが国王陛下が気にかけてたやつなもんで……それの対応に追われてるんだ」
確かに、それが国王の耳に入れば監督不行でお咎めされるだろうな。知らんけど。
「……まさか、君がレイニィか? 」
そう言った看守は、顔がすぐに真っ青になった。
「えぇと、はい。私がレイニィですが……」
看守は頭を抱えてしまった。一体何があった……その瞬間、最悪な未来が俺の頭の中を支配した。
「実は……」
看守が口にした事を耳にした時、俺は全身から血の気が引いた。
母様が……? いや、信じられない。信じたくない。もう二度とあの優しい声が聞けない、もう二度と抱きしめてはくれない。
あのクソ父から守ってくれた聖母のような母は、もうこの世にはいない。そう考えると、涙が溢れて立っていられなかった。
しばらくその場から動けず、正しく放心状態だった。心の整理が出来なくて、あらゆる感情が体外へ流れ出していくようだった。
「そうか……我の元にも、先程報せが届いた」
俺はあの後、あの看守に促されるままに俺は王城へ戻った。
「今は心の整理がつかないであろう。帰って一晩、ゆっくりと休め」
***
数日後、ひっそりと母の葬儀が執り行われた。
何故か国王も直々に来てくれた。なんだか、やけに肩入れしてくる国王だ。
「本当にありがとうございました。色々と自分の中で整理がついたと思います」
空へ昇っていく母を見届けると、少しだけ整理出来た気がする。
このことはミズキ達には言っていない。言うつもりは無い。俺の心の中で余計な心配をかけたくない気持ちが強かった。
「良い。気にするな、私も母を亡くす悲しみは痛いほどわかる」
それから王は後で部屋に来いと言って行ってしまった。
「主がレイニィか。この度は、心よりご冥福をお祈り申し上げる」
廊下を歩いていると、急に声をかけられた。振り返ってみると、そこには同年代くらいの女の子が立っていた。
どこかで見た事があるな……
「妾は、ラインアース王国第一皇女。メラニアである。以前、ロメ二アーティ家のお家取り潰しの時に会ったことがあるかの」
少し赤みがかった茶髪に、頭についている小ぶりなリボンが可愛らしい見た目とは裏腹に、口調は大人びている……と言えば良いのだろうか。
そんな皇女様、俺には会った記憶が無い。
「これは、久しぶりでございます。私に何か?」
素直に知らないと言ったら流石にまずそうなので、一応覚えてたフリを……
「いや、特に用はないのじゃ。しかし主の様子が気になっての。呼び止めて悪かった」
そう言うと皇女様は、来た道を歩いていった。その後ろ姿はまだまだ幼く感じられた。
「入れ」
案内された部屋のドアをノックすると、中から国王の声がした。
部屋に入ると、王と偉そうな男の姿が会った。
「よく来たな。少し話があってな」
国王は、隣の男に合図するとすかさず男は懐から何か文書のようなものを取り出した。
「端的にまとめるとだな、そなたはロメニアーティの子ではない。本当の名は今は無き、ワインデッドだ」
「それは、どういう……」
俺はロメニアーティでは無い? 意味がわからなかった。
ただ、一つ考えられるとすると……
「そうだ。ハルリル・ロメニアーティはそなたの父親ではない。本当の父親はワインデッド家最後の当主、ルーレット・ワインデッドだ」
やはりそうか……あの父は本当の父親ではなかった。そう考えると少し嬉しい。
何故母はこの事を隠してたのだろう。恐らく父もこの事を知らなかったはずだ。
待てよ……あの時、この事を父が知ってしまったから殺されたのか……?
「少し私の方から補足します。ワインデッド家は、ラインアース王国旧貴族の一家で当時は相当な力を有していました。しかし、次第に衰え始め、数年前にルーレット氏が病死され血筋が絶えてしまわれた」
ラインアース王国の旧貴族、その末裔か……また面倒なことにならなければ良いが……
「そなたには、いずれワインデッド家を再興してもらう」
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