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【1】乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第一章 恋するエグゼクティブ1(前編)※連載版と同じ内容です

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第六話 無自覚で狼を撃沈!?

絢とデートの約束を取り付けた私は、次なる「推し」との遭遇を期待しながら、まだ見ぬ学園の敷地を開拓しようと歩き出していた。

その時――

「へえ。会長、千早とデートなんだ?」

頭上から降ってきたのは、どこか楽しげな低い声。

「ずいぶん楽しそうなこと(たくら)んでんじゃん。」

反射的に顔を上げる。

廊下の高い窓枠に、長い手足を器用に折り曲げて腰掛けていたのは鬼塚烈(おにづかれつ)だった。

褐色の肌に、金髪、覗く八重歯――絢とは違う、男らしい美丈夫。

大型犬みたいな人懐っこさを見せたかと思うと、冷静な観察眼で容赦なく相手の弱みを握ることから、ついたあだ名は『生徒会の狂犬』

(烈にはワイルドさと中身のギャップを演出したかったから、こんなあだ名付けちゃったんだけど……ちょっと失礼だったかなぁ? ごめんね?)

心の中で、生みの親がキャラクターに謝るちょっとした珍事が起こっていた。


そんなことを知らない烈は、ひらりと軽やかに床へ飛び降り、音もなく距離を詰めると、親しげに私の肩へ腕を回してきた。

「千早にあんな可愛い顔して、デートの約束取り付けるなんてさ。」

にやり、と唇の端を吊り上げる。

「……じゃあ俺は、会長から何してもらえるわけ?」

制服越しにも伝わる体温。

甘く危険な空気。

耳元をくすぐる低い声。

「俺のこと、『いい男』って言ってくれたよな?」

からかうように囁かれる。

「だったらさ、千早みたいなお出かけじゃなくて、俺とはもっと刺激的なこと……してみる?」

完全に反応を楽しんでいる顔だった。

いつもの玲なら、嫌そうな顔を全面に押し出して烈を睨みつけていただろう。

けれど――。

(うわぁ。近くで見ると、烈の褐色の肌と金の瞳、本当に綺麗だわ……!!)

私の胸を満たしたのは、別の感動だった。

元開発者として、何度も設定資料を見返して試行錯誤しながら生み出したキャラクター。

見た目と性格のギャップを、とことん突き詰めた黄金比が、今、目の前に存在していた。


「すごい……やっぱり格好いいなぁ。」

気づけば私は心の声を口に出し、きらきらと目を輝せていた。

「この筋肉が付きすぎてない……けれど、鍛えてるのが分かる感じがいいんだよ! ストイックすぎない、軟質な烈の内面をちゃんと体現している、この絶妙なバランスが本当に素敵――」

「待て待て待て!」

いつもの余裕たっぷりな笑みが、ぴたりと止まった。

「お前……途中で何言ってるか分かんなかったけど……。それ本気のやつ? 普通こういう時……もうちょい照れたりしねぇ?」

「え?」

烈は言葉に詰まった。

「俺……今、お前のことからかってたんだけど?」

「あっ! ごめん……。」

「いや、謝られても……。」

額を押さえ、呆れたようにため息をつく。

「なんか……調子狂うわ。真顔でこんなに褒められまくったの、初めてだし……。」

戸惑いから、烈の視線が珍しく泳いでいる。

「……そう?」

「はぁ~、だからそれがだな……」

烈は途中で言葉を飲み込む。

「お前さ……それ、誰にでもやってんの?」

「……それって?」

「無自覚かよ……。」

ガシガシと金髪をかき乱す。

「俺、人を振り回すのは得意なんだけど……振り回されるのは苦手なんだよ。」

八重歯を覗かせて笑っていた余裕は消え失せていた。

「会長って、もっと冷たくて近寄りがたい奴だと思ってた。」

烈は大きく息を吐いた。

「そんな顔して真っ直ぐ褒めてくるし、距離感おかしいし……自覚ないのが、なおさらタチ悪ぃ。」

ぼそりと呟いた声は、困ったようでもあった。

さっきまで余裕たっぷりに笑っていた姿は、もうどこにもない。

「……お前、次までにその無防備な癖、少しは直しとけよ! ……じゃねぇと、俺の方が困る。」

烈は狼のような鋭い瞳の奥に、照れ隠しを滲ませていた。

「じゃあな、会長。」

ひらりと手を振ると、自分の動揺を隠すように足早に廊下の向こうへ去っていった。


人気のない渡り廊下――

「……マジで何なんだよ、あいつ。」

烈は片手で顔を覆い、大きく息を吐いた。

「からかって遊ぶつもりだったのに……。」

脳裏に浮かぶのは、真っ直ぐなアメジストの瞳。

照れもなく、打算もなく。

自分の本質をズバズバと撃ち抜いてくる。

「……千早だけじゃなくて……俺まで調子狂わせる気かよ。」

ぽつりと漏れた本音は、誰にも届かない。


その頃――

去り際の照れた顔を思い出して、私は思わず頬を緩めた。

やっぱり、鬼塚烈は最高だ!!

ワイルドで余裕たっぷりで、人を翻弄するのが上手なのに、いざ自分のペースを乱されると、途端に不器用になる。

(烈のそのギャップ、本当にずるいんだから!)

私は、推しの過剰摂取による幸福感で胸を満たしていた。


(あ、いけない!  そういえば、放課後は生徒会室で律とゲームの勝負をしようって話をしてたっけ!)

私は時計を見て焦りながら、生徒会室へと急ぎ足で向かう。


――この後、自分が招いた「無自覚な怒涛のフラグ乱立」によって、生徒会室がとんでもない修羅場と化すことを私はまだ知らなかった。

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