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04 魔王をたぶらかす魔女として断罪しようとしたら返り討ち

「少し味が落ちた?カトリーヌ様、本物の氷の扱い方を教えてあげる」


 ティルリカが指を鳴らすと、カトリーヌの足元から絶対零度の氷が噴き出し、美しい氷像へと変えた。


「少し頭を冷やした方がいいと思って」


「ふふ、素晴らしいよ。彼女の国は今日から我が国の冷蔵庫にしよう。それよりカトリーヌ、私のティルリカに酒を注がせるとは何事だ?その腕二度と動かぬよう凍土に埋めておけ」


 カトリーヌは氷の中、意識を保ったまま永遠の寒さに震えることとなる。だが、他にもめんどくさい存在はいた。人間界の聖教会の教皇。

 妹ユーイを偽聖女として利用できなくなった腹いせに、ティルリカを魔王をたぶらかす魔女として断罪しようとした。教皇は軍勢と称する騎士団を率いて、魔界の境界線まで押し寄せる。


「魔女ティルリカ、神の裁きを受けよ!お前のような邪悪な存在が世界を乱している!」


 ティルリカはバウアーと共に空中に浮かぶ玉座から彼らを見下ろす。


「裁き?面白い。あなたが信じているその神は私が誰だか知っているの?」


 ティルリカが天に向かって手をかざすと雲が割れ、巨大な光の巨神が降臨した。教皇たちは「神がお救いに来てくださった!」と歓喜したが、巨神は教皇たちを慈しむどころか巨大な足で騎士団を蹴散らす。


 主様、ティルリカ様……!申し訳ございません。こちらの名を騙る不届き者が貴女様に無礼を……!


 神と呼ばれた存在は跪き、頭を垂れた。実は数千年前、先代魔王の妻のティルリカが拾って育てた光の魔獣なのだ。


「いいのよポターリス。久しぶり。でも、この人たちが私のことを魔女だと言ってあなたを呼んだの」


 巨神ポターリスの目が怒りで真っ赤に染まる。


 何だと?我が主を侮辱したか虫ケラどもめ!


「ひっ、なぜ魔女に跪いて……ぎゃあああああ!!」


 教皇は神自身の放つ光によって魂ごと浄化……ではなく、永遠に光の中で灼かれ続ける苦痛を与えられて神殿は崩壊し、聖教会の権威は完全に失墜。すべての敵を排除して魔王城のバルコニーで寄り添う二人。


「邪魔者はすべて消えた。ようやく二人きりになれる」


 バウアーはティルリカの腰を抱き寄せ、耳元で甘く囁く。


「まだ一人残ってる。マティウスがね、物置部屋からお母様助けてって毎日うるさいの」


「あれは放置だ。それより、次の子供はもっと私に似た君を愛してやまない子にしよう。ね?」


 ティルリカは自分を虐げた世界が今や自分の足元にひれ伏しているのを実感させた。婚約破棄から始まった騒動。今あるのは夫からの愛と、すべてを支配する絶対的な力。


「世界で一番幸せな家族になりましょう」


 二人の影が重なり、魔界の夜はどこまでも甘く深く更けていく。


 元魔王にして、ティルリカの前世の息子でありながら今世の婚約破棄男という救いようのない失態を犯したマティウス。

 待ち受けていたのは死よりも残酷な徹底的な再教育と精神的屈辱の日々。

 ぶち込まれたのはティルリカが実家で押し込められていたのと全く同じ広さ、同じ湿度の窓のない物置部屋。贅沢な寝具はなくあるのは硬い藁の束だけ。


「開けてくれ!私は魔王だ!こんな場所、魔法で吹き飛ばして……」


 指先を鳴らしても火花一つ起きない。部屋全体に、バウアーが施した魔力封印とティルリカが刻んだ母親の説教の呪印が張り巡らされているから。そこへ、ティルリカが優雅に姿を現す。


「おはようマティウス。勉強の時間よ」


「母上助けてください、もう二度とユーイなんて女に惑わされません!私はあなたの息子でしょう!?」


 ティルリカは冷ややかな微笑みを浮かべ、一冊の分厚い魔道書を机に叩きつけました。


「ええ息子ね。だからこそ、やり直させる。道徳教科書をすべて暗唱できるまで食事は抜き。おやつはありよ。そうそう。今日の先生は私じゃなくてお父様」


「は、なっ!?」


 背後から凍りつくような殺気を放つバウアーが登場。


「ティルリカ、君は下がっていなさい。愚か者に父親の拳の重みを教えてやるのは私の役目」


「ひっ、ひぃぃぃぃ!!」


 その日から物置部屋からはマティウスの悲鳴が絶えることない。数年後、ティルリカとバウアーの間に新しい王子アリストが誕生しマティウスとは比較にならないほどの天才であった。

 生後一年で高位魔術を操り、何より母親であるティルリカを誰よりも敬愛する完璧な息子。バウアーはあえてマティウスを教育係の召使いとして、アリストの前に引きずり出す。反面教師。


「マティウス見なさい。これが本物の王子よ」


 ティルリカが愛おしそうにアリストを抱き上げる姿を、マティウスは床に這いつくばりながら見上げる。


「……あ、ああ……」


 自分が独占していたはずの母の愛。それを自分より遥かに優れた弟が受けている。

 マティウスにとって、肉体的な苦痛以上に、自分は不要な失敗作であるという突きつけられる現実が一番の毒となる。アリストは兄であるマティウスを冷ややかに見下ろし、幼い声で言い放つ。


「お父様。汚い男は誰ですか?僕のお母様に色目を使わないでほしいな」


「そうだねアリスト。これはただの掃除係だから気にする必要はない」


 マティウスのプライドはこの瞬間に完全に消滅した。

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