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03 貴様に魔王を名乗る資格はない。女一人に惑わされ、あろうことか自らの母の転生体を貶めた愚か者に国を任せるわけにはいかん

 最後にどうしても片付けておくべきけじめが残っている。裏切った息子マティウスの魔王としての座。魔界の全貴族が集まる謁見の間でバウアーが宣言。


「マティウス。貴様に魔王を名乗る資格はない。女一人に惑わされ、あろうことか自らの母の転生体を貶めた愚か者に国を任せるわけにはいかん」


 玉座の下で平伏していたマティウスは絶望に顔を歪める。


「そ、そんな……理不尽だ!誰が次代の魔王に!?」


「私とティルリカの間に、間もなく真の世継ぎが誕生する。貴様は弟か妹の踏み台として一生泥水を啜って生きるがいい」


 そう、婚約破棄から数ヶ月。体にはバウアーとの新しい命が宿っていた。


「……っ、そんな!私は、私はどうなるのですか!」


「貴様にはティルリカが実家で過ごしたのと同じ物置部屋を与えよう。そこで一生、自分の愚かさを反芻しろ」


 マティウスは近衛兵に引きずられ、文字通りどん底へと突き落とされた。婚約者が、今では自分の親の失敗作として扱われる。数年後、魔王城の庭園には元気に走り回る小さな男の子と、それを見守る姿がある。


「見てバウアー!この子ったらもう上位魔術を使いこなしてる」


「ああ、さすがはティルリカの子だ。バカなマティウスとは出来が違う。あまり息子ばかり見ていないで私を見てくれないか?」


 魔王であるはずのバウアーが子供のように服の裾を引いて独占欲を剥き出しに。


「もう、バウアーったら。自分の子供にまで嫉妬?」


「当たり前だ。私の魂は君を失っていた数千年の間、乾ききっていた。愛を一滴たりとも他者に渡したくない」


 バウアーは強引に抱き寄せ、深い口づけを落とした。


 一方で、人間界の片隅。呪いによって死ぬこともできず、永遠の空腹に苦しむ両親はついに正気を失う。最後に見たのは豪華な馬車で街を訪れ、民衆に女神と崇められる元娘姿。また、魔界の隅で家畜の世話を続けるユーイは年老いて醜くなった自分の姿を鏡で見ては毎日絶叫。


「どうして……どうしてお姉様だけが!私は聖女なのよ、愛されるはずだったのに!」


 どれだけ叫ぼうと声すら届くことはない。魔王マティウスが廃位され、先代魔王バウアーが復位。傍らには蔑まれた公爵令嬢ティルリカが、至高の魔王妃として君臨した。事実を知らない愚か者がまだいたのだが、その人はティルリカの叔父バルトス伯爵。


「聞いたか?ティルリカの奴、魔王様に気に入られて城に囲われているらしいぞ」


「没落した本家に代わり、我ら分家がティルリカを操れば魔界の富は我らのものだ!」


 バルトスは息子、ティルリカの従兄を引き連れ、意気揚々と魔王城の門を叩く。彼らはティルリカを自分たちの所有物だと思い込む。謁見の間。玉座に座るティルリカの前にバルトスが土足で踏み込んでしまう。


「ティルリカ!親戚の私が来てやったぞ。いつまでそんな高いところに座っている。早く降りてきて、我々に極上のワインと金を用意しろ」


 ティルリカは冷ややかな目で、自分を納戸に閉じ込めた叔父を見つめた。


「……バルトス叔父様。ここは私の家ではありません。夫の城です。礼儀を弁えては?」


「夫だと?勘違いするな!お前のような欠陥品、魔王様もすぐに飽きるに決まっている。飽きられる前に我々が有利になるような契約書を書かせるんだ。署名しろ!」


 バルトスが差し出したのは、ティルリカを分家の奴隷とし、魔王からの全献上金を分家に流すという厚顔無恥な契約書。

 その時、背後の影からバウアーが姿を現し殺気だけで、バルトス親子は床に這いつくばる。


「私の妻に何を書かせようとしている?汚い紙を今すぐ食え。一枚残らず」


「ひっ、魔、魔王様!これは教育でして!」


「教育?妻に教育が必要だというのか。ならば、貴様らの家系がいかに卑しいかを教えてやろう」


 バウアーが指を鳴らすと空中に数千年前からの魂の系譜が浮かび上がる。


「見ろ。貴様ら分家の先祖は、城で馬の糞を掃除していた下男。ティルリカは私の魂の伴侶、つまり理そのもの。貴様らのような泥棒ネズミの血など一滴も流れていない」


 バルトス親子の体は見る間にネズミの姿へと変えられる。


「ティルリカ、ネズミどもは庭の魔獣の餌にでもするか?」


「ネズミとして、一生自分たちが蔑んでいた下水道を掃除させてあげましょう」


 叫び声すら上げられないネズミたちは衛兵によって文字通り掃き出される。二人はにこやかに会話をする。その後に現れたのは、隣国の氷雪国を治める女王カトリーヌ。バウアーに求婚し、一蹴された過去を持つ女。


「人間の娘が魔王妃?笑わせる。バウアー様には私のような高潔な魔族の血が必要なの」


 カトリーヌは祝賀会と称して、嫌がらせのために魔王城を訪れてティルリカに対し、魔族にしか耐えられないとされる魂を凍らせる毒を仕込んだ酒を勧めた。


「魔王妃様。これを飲み干せなければあなたに王妃の資格はない」


 会場の空気が緊張に包まれます。しかし、ティルリカは微笑みながらその杯を手に取る。


「あら、懐かしいわこの毒、数千年前に寝酒にちょうどいいとバウアーに作らせたものによく似ている」


 ティルリカが一口飲むものの、毒は体内で心地よい魔力へと変換されていく。

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