第63話:再会
ギルドに戻り、報告を済ませた俺たちは併設された酒場に足を運ぶ。
そこにはやはり、あの男がいた。
「……久しいな、バロン」
「お前……シュラグじゃねえか!」
シュラグが声を掛けると、バロンは驚いたように椅子からずり落ちる。
そして彼の元に駆け寄り、ぺたぺたと体を触った。
「元気にしてたのかよ! まさか町に顔を出すとは……その様子を見るに、ヴァニたちとよろしくやってるみたいだな」
「ああ、色々と事情があってな。世話になることにした」
そしてシュラグは「それより……」と話を切り出す。
「長いこと、顔を見せずにすまなかったな。友よ」
「へっ……バカ野郎が……! お前が元気なら、俺はそれで構わねえよ!」
その光景を、俺たちは微笑ましく見つめる。
ノエルに至っては涙ぐんでいた。
彼らの友情は本物のようだ。
「ここは二人っきりにしてやろうか」
「……そうね、積もる話もあるでしょうし」
「はい。私も賛成です」
俺たちはそっとその場を後にする。
ギルドの外に出て町をぶらぶらと歩きながら、考える。
この町に来た当初の目的は果たされた。
無事に弓士であるシュラグを仲間に迎え入れ、彼の腕前が信頼に足るものだということも確認できた。
となれば、次の目標はやはり──
「【終末の使者】か……」
俺は呟く。
奴らを探す理由は今のところ二つ。
一つは、シュラグの復讐のため。
彼とはそういう契約で仲間になったのだから、当然といえば当然だ。
二つ目は俺自身のため。
奴らが世界を滅ぼそうとしている元凶だというのならば、奴らを潰せば俺の不死の祝福は消える。そうすれば、俺はようやく正しく死ねるというわけだ。
……ああ、三つ目があったな。
俺は、何だかんだ言ってこの世界を気に入っているようだ。
この世界には、既に大切な存在が何人もいる。
ノエル、セスカ、メルシエラ……それにシリウスたちやシュラグだってそうだ。
彼らの笑顔を、平和を奪わせることは断じて許さない。だから止める。
それに、鏡花も言っていた。『世界は、優しくあるべきだ』と。
俺は彼女の言葉を守りたい。実現したい。
だから邪魔なんだよ、終末思想のキチガイどもは。
「ヴァニさん」
「ん?」
「なんだか、これからって感じがしますね。ふふっ」
「……ああ、そうだな」
ノエルにつられて、俺も微笑む。
これから、か……。
確かに彼女は、こういう冒険に憧れてる節があったな。
そしてそれはノエルだけじゃない。
「セスカも、楽しめてるか?」
「え? ええ、アタシはヴァニと一緒にいれるだけで──ごほん、アンタたちとの旅も悪くないわ」
「ははっ、そうか。それなら何よりだ」
セスカは何かを言いかけて、それから顔を赤らめながら肯定する。
確かに、俺たちの旅の最終目的は暗いかもしれない。
だが、その道中が楽しいことだって間違っちゃいないだろう。
そう思って歩いていると、前方から見覚えのある顔が三人やってくるのが見えた。
「おう、ヴァニか」
「お前は……ギリアムか」
あまり出会いたくない相手だった。
バロンの警告を受けた今では、猶更。
「どうしたの、ヴァニ。知り合い?」
「ああ、まぁちょっと色々あってな」
ギリアムはその悪人面をニヤリと歪めて俺たちを見る。
「丁度いい所で出会ったな。ボスが是非お前に会ってみたいと言ってる。ついてこい」
「断る、といったら?」
「地の果てまで追いかける」
ほらな、面倒くさいことになった。
「……ヴァニさんに、何の用ですか」
ノエルが硬い声で問いかける。
それを受けて、ギリアムは一層笑みを深くした。
「ただの世間話だ。取って食おうってわけじゃねぇ。嬢ちゃんたちも来な」
「へへっ、可愛い顔してんなぁ」
「全くだ、美女二人を侍らせて羨ましいぜ。けっ!」
「……不快な連中ね」
以前抱きかけた「話の分かる奴らかもしれない」という認識が、一瞬で覆る。
俺は二人をギリアムたちの視線から庇うように前に出て、低い声で警告した。
「もしこいつらに何かしようとしてみろ、全員斬り刻んで沈めてやる」
「はははっ! そいつぁお前次第だ。で、どうする?」
「……従おう。今のところは、な」
「ちょっと、ヴァニ……!」
止めようとするセスカに、俺は静かに首を横に振る。
今はこいつらについていくのが得策だ。
こんな街中で騒ぎを起こしたくないし、何よりここで断って彼女たちが狙われるのは御免被りたい。
だが、もしものことがあれば相手が何人だろうが殺し尽くしてやる。
そう思ってギリアムたちの背に続こうとしたとき。
「私の友人たちを何処へ連れて行くつもりだ?」
俺たちの背後から、シュラグの声が聞こえた。
「あぁ?」
「見たところ堅気の人間には思えないが……もう一度だけ問う。私の仲間たちを、何処へ連れて行こうとしている」
「こいつもお前の仲間か、ヴァニ?」
振り返って半目で尋ねてくるギリアムに、俺は沈黙で返す。
そして代わりにシュラグに問うた。
「シュラグ、お前どうしてここに」
「君たちの姿が見えなかったのでな。まったく……要らない世話を焼くものだ」
彼は呆れたように肩を竦める。
「なら都合が良い、全員ついてこい。拒否権はねぇぞ」
「ふむ……その顔、『百目鬼』のギリアム──ギリアム・ホークレイか」
「知ってるのか?」
「ああ、その悪評は私の耳にも入っている。例えば、より高い金を積まれたから依頼主を裏切ってその背を斬り付けた──とか」
ギリアムの方を見ると、奴はニィッと白い歯を出して笑ってみせた。
「当り前だろ、俺たちは傭兵だ。傭兵にとっちゃ金が全て。倫理観なぞドブに棲む魚に喰わせちまえってんだ」
「人としての誇りを棄てた輩に従う必要は無い、な」
一触即発の空気。
シュラグとギリアムは互いに暫く睨み合う。
だが、俺は敢えて口を開いた。
「いいさ、行こうぜシュラグ」
「……何?」
「奴らのボスが直々に会いたいんだと。俺もそいつがどんな面してるのか気になってたところだ。それに、ここで逃げてもどうせまた出会うことになる」
俺がそう言うと、シュラグは大きくため息を吐いた。
「……分かった。そういうのならば君に従おう。私たちのリーダーは君なのだからな」
そうして今度こそ、俺たちはギリアムたちの背に続いて歩き出す。
さて、一体どんな奴らが待ち構えているのやら。




