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不死刑—世界を救えば死ねるらしい—  作者: 茄子田わさび
第三章:愛と精霊の鎮魂歌
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第58話:謎の少女と警告の声

 翌朝から、俺たちは町の外に出ていた。

 向かう先は昨晩バロンに教えてもらった『ロウェラ森林』だ。 

 出発前に軽く調べた限りだと、魔獣もそこまで出ない穏やかな森だという。


 そこに、目的の人物──シュラグは住んでいる。


「どんな人、なんでしょうか」

「さあな、会ってみないと分からん」

「でも、どうして町じゃなくて森に棲んでるのかしら」

「…………」


 深くは聞かなかったが、かなり込み入った事情がありそうだ。

 交渉は一筋縄ではいかないかもしれない。

 

──『守りたい、守れなかった時のことが怖い、か……。アイツとよく似てるな』


 脳内でバロンの声がリフレインする。

 

 守りたい、という気持ちを持っている人間は脆いが強い。

 何故脆いのかといえば、守れなかったときに問題があるからだ。

 そういう時、人の心はあっさりと壊れてしまう。 


 件の男、シュラグは一体どちらだろうか。

 

 期待半分、不安半分の気持ちを抱きながら、俺たちは森に足を踏み入れる。


「良い空気ね……素敵な森だわ」

「ですね。涼しくて、とても心地いいです」

 

 セスカたちが深呼吸をしながら言う。

 確かに良い空気だ。マイナスイオンに溢れている。

 

 いつか、こういう森に棲んでスローライフを送れたら……なんて考えて、俺は自嘲気味に笑った。

 俺にそんな将来は来ない。求めているのは〝死〟だけだ。


 森の中を進んでいる最中、ふと視界の先に人影が見えた。


「……?」

「ヴァニ、今の……」

「人……ですよね?」

 

 どうやらセスカたちにも見えたようで、気のせいではないらしい。

 人影は木々の隙間を()って、ふらっとどこかへ消えてしまった。


「今のがシュラグ……か?」

「でも、随分と背が小さかったような。まるで子供みたいでしたけど」

「やめてよノエル、こんなところに子供が一人でいるわけがないじゃない」


 確かに、あれがシュラグだとは思えない。

 バロンが付き合いが長いと言っている以上、大人……最低でも三十代ではあるだろう。

 間違っても、子供のはずがない。


「とにかく、進むしかないな」

「ですね」

「ちょっとちょっと! 何でアンタたちそんな落ち着いてられるわけ!? もし幽霊だったら──」


「──だったら、何?」


「キャアアアアアアアアアアアアアアアア! 出たあああああああああああああ!」

「お゛い゛、ぐるじい」


 不意に聞こえた四人目の声。

 それに反応したセスカが思いっきり俺に飛びついてきて首が絞まる。

 俺の必死の訴えにも気付かず、全力で絞めにかかってきてやがる。

 

 まずい、本当にまずい。

 視界が明滅(めいめつ)して、色が白飛びし始めてきた。


 このままじゃ、死──


「セスカさん、ストップですよ。落ち着いてください、ヴァニさんが死んじゃいます」

「あっ、ごめん」

「げほっげほっ! お前、マジで……! 殺す気か!」

 

 別に死ぬこと自体は構わんが、仲間に首絞められる事故で死ぬとか流石に御免だぞ。


「っと、そんなことより──」


 俺は闖入者(ちんにゅうしゃ)に目を向ける。

 俺たちの前方、木からひょこっと顔だけ出してこちらを見つめる少女がいた。


 白銀の長髪に、白い肌。十三、四歳くらいのその少女は、金色の瞳で興味津々に俺たちを捉えている。

 服装は白いワンピース一枚で、素足なこともそうだが……何より目を引くのは、その頭部にある二つの狼のような耳だ。


「獣人、か?」


 ──獣人。

 

 それはこの世界に広く分布する人種で、獣のような耳や尾を持っていることが特徴だ。

 大体は身体能力も高く、子供だろうが軽々と岩を持ち上げることができるらしい。

 

 しかし、人間は自分と違う存在には容赦がないのも残酷な事実で。

 獣人は差別や迫害の対象になることもしばしばある。

 酷い話では、未だに裏社会では貴族などの変態に奴隷として売られることもあるとか。


 そんな獣人の少女が、何故ここにいるのか。


「?」


 当の本人はこちらを見ながら、首を傾ける。


「こんにちは、私はノエルといいます。この人たちはヴァニさんとセスカさん。あなたのお名前は?」

「ん。わたしはフィリア」

「フィリアちゃん、素敵な名前ですね。フィリアちゃんはどうしてここに?」


 ノエルはいつの間にか少女──フィリアの前に立ち、目線を合わせて微笑みかける。

 いくら人見知りと言っていても、子供だから大丈夫ということなんだろう。


指令(・・)されて」

「指令……? えっと、何かの遊びの最中とか……?」


 幼さの残る少女の口から漏れたとは思えない不穏な言葉に、ノエルは困ったような顔を浮かべる。


「指令は指令。これ以上、フィリアが何かを言うのは許されてない」


 フィリアはそう言ってぷいっと顔を背けると、そのままどこかへ消えていってしまった。


「大丈夫でしょうか、あの子……」

「一応追いかけましょうか。心配だもの」

「ああ、そうだな」

 

 俺たちはフィリアが消えた方向に向かって足を進める。

 

 それから数分ほど。

 思ったよりも早く、フィリアは見つかった。


 しかしその状況は最悪だ。


『GGAGAGAGAGGAGAGA……!』

『GIGIGIGIGIGIGIGIGI……!』


 彼女は、魔獣に襲われそうになっていた。

 二匹はフィリアの数メートル先という距離感で彼女に唸り声をあげ、今にも飛び掛かりそうな勢いだ。


「っ……! 大変です!」

「みんな、助けに行くわよ」


 そして俺たちが一瞬で準備を整え、フィリアの前に駆けだそうとした瞬間。


『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

『GYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!』


 魔獣が少女目掛けて突進をする。


「危ないッ!」

 

 慌てて魔法の詠唱をしようとするノエルだったが、目の前で不思議なことが起こった。


 ──パァンッ!

 甲高い破裂音がしたかと思えば、魔獣たちが一瞬にして弾け飛んだのだ。

 

 俺たちは何が起きたのか分からず、ただ目を(みは)っている。


 その騒動の中心にいた少女──フィリアは、無表情でその場に立ち尽くしており、やがて俺たちの存在に気付いて顔をこちらに向けた。


「さっきの人たちだ」

「フィリアちゃん! 無事ですか!?」


 ノエルが駆け寄る。

 正直「危ない」と止めたかった。

 さっきの能力が一体何で、いつその矛先がノエルに向くか分からないのだから。


 だが、フィリアは無表情のまま頷く。


「わたしは平気」

「よかったぁ……」

「それより、どうしてここにいるの?」

「フィリアちゃんが心配だったからですよ」

「心配、ってなに?」

「え……?」


 予想外の問いに答えを詰まらせるノエルに向かって、フィリアは問う。


「痛いは、分かる。怖いも、分かる。お腹がすいたも、分かる。……心配って、なに?」

「それは……」

「知り合った人や大切な仲間が無事に過ごせてるかな、危ないことに巻き込まれてないかなっていうのが心配だ。分かりやすくいえば、危険な状況に(おちい)ってるのを見て、その人が怪我をしたり死んじまうようなのを想像して、怖いと思うのが心配だ」


 俺が近寄りながらそう言うと、フィリアは地面の方を見つめながら何かを考えている様子だった。


「わかった、と思う。でも、どうしてノエルたちはわたしを心配したの?」

「フィリアちゃん。ここは魔獣が出る危ない森なんです。そんなところにフィリアちゃんみたいな子供が一人でいたら、誰だって心配するんですよ」

「…………よく、わからない」

  

 フィリアはそれっきり俯いて、押し黙ってしまう。


「わたしは──」


『全員に警告する。今すぐこの場から立ち去れ。そうすれば危害は加えない』


 その時、森全体に響きわたるように男の声が聞こえた。

 どこにいるかは分からない、反響していて出処(でどころ)を特定することができない。


「アンタがシュラグか?」


 しかし俺は怯むことなく、声を張り上げて質問する。


『君たちには関係ないことだ。それよりも、立ち去るのか、立ち去らないのか?』

「バロンから居場所を聞いて訪ねてきた。アンタと話がしたい。出てきてくれ」

『……バロンが? しかし、それを信じる理由がない』

「だろうな。だが一つだけ信じてくれ。俺たちはアンタの敵じゃない。むしろ、仲間になってほしくて来たんだ」

『………………』


 森のどこかから聞こえてきていた声が止み、ザッザッとどこかから誰かが歩いてくる音が聞こえる。

 

 やがて俺たちの前に現れたのは、金色の髪をぼさぼさに伸ばした男。

 恐らく三十代は超えていると思うが、しかしその顔は二十代といっても通じる程に美形で、彫りが深く、碧眼(へきがん)が鋭く俺たちを射抜いていた。


 だが、ここでも目を引くものが一つあった。

 

 それは男の耳。


「エルフ……か?」


 男は聞こえてか聞こえておらずか、弓に矢をつがえたまま俺の方を見て言った。


「私の名前はシュラグ、ただの復讐に囚われた鬼だ」

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