表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死刑—世界を救えば死ねるらしい—  作者: 茄子田わさび
第三章:愛と精霊の鎮魂歌
62/69

第57話:情報収集

 その日の晩、俺たちは早速ギルドに集まっていた。

 夜のギルドは騒がしい。特に、酒場が併設されている小さな町なら尚更だ。


 つまり、絶好の情報収集場所ってことだな。


「誰に話しかけるの?」

「とりあえず適当にそこら辺にいる奴でいいんじゃないか?」

「凄いですね、ヴァニさんは……」


 セスカの質問に答えると、ノエルが何故かそう言ってきた。

 ただ話しかけるだけなのに、何が凄いんだろうか?


「どういうことだ?」

「あ、いえ、私は人見知りですので……知らない人に話しかけるのは、ちょっと」

「ふーん? アタシとの初対面は凄かった(・・・・)じゃない」

「あう、それは……! セスカさんが悪いんですよう」

「アタシは何も悪くないでしょうが!」


 おーおー、今日も今日とて仲が良いな。

 

 俺は苦笑しながら、目の前を通りかかった冒険者を捕まえる。


「悪い、ちょっといいか?」

「? ああ、見ない顔だが、どうした?」

「実は聞きたいことがあってな。この町の近くで、腕利きの弓士がいるって噂を仕入れたんだが……」


 俺がそう言うと、冒険者は首を傾げながら顎に手を添えて中空を見つめた。


「あー……なんか聞いたことがあるようなないような……」

「知ってる情報なら何でもいい、教えてくれないか?」

 

 しかし冒険者は、少しの間「うーん」と唸った後に首を横に振った。


「悪いな、俺もあまりよく知らないもんでさ」


 「ただ」と言って冒険者は酒場の奥に親指を向ける。

 その先には、椅子に深く腰掛けて豪快に酒を(あお)る男がいた。


「あそこにいるバロンなら何か知ってるかもな。あいつ、この町一番の情報通だから」

「そうか、助かるよ」

「いやいや、気にしないでくれ。それじゃあな」


 俺は冒険者に礼を言って別れたあと、ノエルたちを連れてバロンの元に向かう。


「よう、隣いいか?」

「ああ? ヒック、別にその席は俺のものじゃねえから勝手にしな」


 バロンは、酷く酒の匂いを漂わせた男だった。 

 着ている服は上等、しかし腹回りがだらしない。

 少なくとも冒険者……には見えなかった。


 俺たちは椅子を引いてバロンの隣に座る。


「あんた、情報通なんだってな。単刀直入に聞きたい、この町の近辺で腕の立つ弓士を探してる」


 俺がそう言うと、バロンは一瞬こちらを見た後、再び酒を(あお)った。

 

「ああ……アイツか」

「知ってるのか?」

「知ってるも何も、アイツとは昔からの付き合いだ。だが残念だったな。アイツがお前らとパーティを組むことはねえぞ」


 聞き込みを始めてからまだ五分も経っていないというのに、思いがけず早速お目当ての情報を探り当てることができた。

 しかし……何やら訳ありのようだな。

 俺はノエルたちと一瞬顔を見合わせてから、再びバロンを見る。


「何があったんだ?」

「……それは言えねえ。プライベートなことなんだ」

「なるほどな」


 どうやらこのバロンという男、だらしないと思いきやかなり義理堅いようだな。

 俺の中で、少し評価が上がるのを感じた。

 

 それに……俺も、プライベートなことに踏み込む気はない。

 だからこれ以上聞き出そうとするのはやめよう。

 ただ、やはり折角ここまで来た以上は諦めたくない。


 実在することは確認できたのだから、後は自分の足で探そう。


「すまん、俺にも酒を頼む。ノエルたちは何にする?」

「私はリンゴジュースでお願いします」

「アタシはジンジャーエールでいいわ」


 俺たちが店員に注文すると、バロンは露骨に嫌そうな顔をした。


「……おい、何のつもりだ」

「ん? 別に何も企んではいないさ。ただ折角こうして知り合えたんだし、一緒に呑むのも悪くないと思っただけなんだが……迷惑だったか?」

「けっ、勝手にしやがれ」


 そう言って、バロンは頬杖を突きながら鶏肉の揚げ物をつまんだ。



──数時間後。


「だーっはははは! そいつぁ凄ぇ! いや、俺も小耳には挟んじゃいたが、まさかお前らがあの千剣の迷宮崩壊の張本人だったたぁな!」

「ははは……」


 どうしてこうなった。 

 俺は酒場で一人、バロンに肩を組まれながら苦笑いを浮かべていた。

 

 一緒に酒を飲み始めたのはよかった。それ自体はよかったんだ。

 最初はバロンも警戒心高めの対応しかしてなかったが、徐々に打ち解けてきて俺だけじゃなくノエルたちとも会話をするようになった。


 様子がおかしくなったのはその後。


 酒が回ってきたのか、段々とバロンが俺に絡むようになってきて、長くなりそうな予感がした俺はノエルたちを先に帰した。

 それから色んな話を根掘り葉掘り聞かれ、話しても困る様なことじゃなかったから答えていたらコレだ。


 中年のおっさんの酒臭い息が顔にかかり、思わず顔を逸らしてしまう。

 だがバロンは気にした様子もなく、俺の肩を組んだままジョッキを傾ける。

 

 ……まだ飲むのかよ、こいつ。


「いやー悪かったな、変な奴だって疑っちまってよ」

「別に気にしてないから平気だ。初対面で情報目当てならそりゃ疑うだろ」

「話が分かる奴だなぁー! オメーは! よし、飲め飲め! 今日の酒は美味ぇぞぉー!!」


 もう夜も遅く、今では酒場にいる客はまばらだ。

 店員たちが迷惑そうな顔をしていないのは、バロンが常連だからだろうか。


 勧められて仕方なく酒を飲みながら、俺は気になっていたことを思い出す。


「そういや、一つ聞いてもいいか?」

「ん? おうおう、何でも聞いてみろ! この町の情報なら俺ぁなんでも知ってるからな!」

「今日、妙な集団に会ったんだが──」


 そして俺は、宿──『椚亭(くぬぎてい)』で出会った男たちの話をした。

 

 取るに足らないチンピラだと思っていたが、あの男……ギリアムからは只ならない雰囲気を感じたからな。

 奴らが今後俺たちに絡んでこないとも限らない、今のうちに情報を仕入れておきたかった。

 

 バロンは俺の話を聞くと、酒を一口飲んでゲップをしてから口を開いた。


「ああ……そりゃ『百目鬼(どうめき)』だな」

「……『百目鬼』?」

「世界各地を旅して回ってる傭兵集団だ。丁度三日前からこの町に来ててな。何だヴァニ、お前あいつらと因縁を持っちまったのか」

「まぁ……()()きでな」


 俺が答えると、バロンは難しそうな顔をする。


「ひょっとするとそりゃあ、あんまり良くねえことかもしれねえなぁ……噂じゃ、あいつらは金さえ積まれりゃ何でもするらしい」

「いかにも傭兵らしいな……」


 何でも、というのは恐らくそういうこと(・・・・・・)だろう。

 ただの喧嘩屋に限らず、非合法で世間では罪に裁かれるようなこともする、ってことだ。


「ま、お前らなら何とかなるだろ。腕っぷしもかなり強いんだろ?」

「ははは……まぁ、それなりにな」

「で、俺からも一つ訊いていいか?」

「ああ、俺に答えられることなら」


 バロンはジョッキをテーブルに置き、真剣な目で俺を見つめた。

 その様子からは酔いは感じられない。

 俺もその姿勢に応えて、真面目な顔でバロンを見返す。


「何で、アイツ(弓士)を仲間に引き入れたい? お前らならもう充分だろ」

「……どうしても、守りたいんだ」

「あの子たちのことか」

「ああ」


 バロンの答えに俺は頷く。


「この前の迷宮の一件で、強く実感した。情けない話だが……俺一人じゃ彼女たちを守り切れない時もある。勿論全力は尽くしてるし、これからもそうするつもりだ。けど、もしあいつらに何かあったら、俺は……!」


 思わずジョッキを握る手に力が(こも)るのを感じた。

 ミシミシと音が鳴り、持ち手にヒビが入る。


 そんな俺の様子を、バロンはじっと見つめていた。


「守りたい、守れなかった時のことが怖い、か……。アイツとよく似てるな」

「アイツ? 俺たちが探してる奴のことか?」

「ああ。アイツも、かつてはそうだった……っと、これ以上は俺の口からは言えねえな。アイツに直接聞きな」

「……どこにいるか教えてくれるのか?」


 俺が問いかけると、バロンは「へっ」と笑いながら頷いた。


「お前らが悪い奴じゃねえことはよく分かった。だから信じて教える。アイツは──シュラグはな、この町の近くにある『ロウェラ森林』の中にある小屋に、独りで暮らしてる」


 ロウェラ森林──俺たちの目的地が決まった瞬間だった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ