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勇者はマモリたい  作者: 覧都
外伝 尾張商人十田家のルーツ

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第二百六十九話 安眠

 翌日になっても、おキツ様は生駒様のお屋敷から出てくることはありませんでした。

 お屋敷は、小折城の中門の中に有り、その中門は下賤の者は入る事が出来ません。

 だからわたくしは、おキツ様の様子がまったくわかりません。心配です。

 小折城の西の丸の北側にお屋敷建設工事が始まりました。

 おキツ様のお屋敷のようです。


 わたくしのボロ小屋には、藤吉郎と小六さんがいついています。

 まるで我が家のようにくつろいでいます。




「おう、カツトシ!!」


 さらに翌日、突然戸を開けて入って来たのは三郎でした。


「えっ!? さ、三郎!」


 わたくしは驚きました。

 だって、岩倉織田家と清洲織田家とは敵対関係です。

 まだ、戦争はしていませんが、戦争直前の緊張状態です。

 それどころか、末盛城と籠城戦の最中のはず。

 ボロのいつもの服を着て、ほおかむりをしています。

 まあ、これがお殿様とは誰も気が付かないでしょう。


「んっ? 見慣れない顔がいるなあ」


 三郎は我が家のようにズカズカ入って、空いている場所に座りました。

 デェスちゃんが、三郎のために白湯を湯飲みに入れて運んでくれました。

 さすがは女性です。姿は男性ですが。

 気が利きます。


「ああ、この方は川並衆の頭領小六さんです」


「なにっ!? そうか……先日は船を出していただいて助かりました」


 三郎は、なんで川並衆の頭領がこんなボロ小屋にいるのかと驚いたようです。

 話せば長くなりますよ。

 それより、ボロ小屋とは失礼です。

 三郎は頬被りを取ると小六さんに頭を下げました。

 たぶん、長良川の戦いの時、船を出して協力してくれた事に対する御礼でしょう。


「カ、カツトシ殿、この方は?」


 今度は小六さんです。

 まだ、会ったことがなかったのでしょう。


「はい、三郎です」


「こ、こらこら、それでは、わからんがや! このお方は、清洲城城主織田弾正忠信長様じゃ」


 藤吉郎が代わりに言ってくれました。

 とても頭が良さそうにはみえない貧弱な顔ですが、藤吉郎は物知りで頭がよいのです。

 でも、三郎が抜けています。

 織田三郎信長が正解です。三郎なのです。


「なっ!! 織田……」


 小六さんは驚いた後、おだのぶながと、小さな声で言いました。

 三郎も有名人なようです。


「三郎、籠城戦でいそがしいのでしょう。こんな所に来ていていいのですか?」


「お、おい、カツトシ殿。三郎様を呼び捨てはまずいでしょう」


 小六さんが、言いました。

 口調まで丁寧になっています。


「はああぁぁーはっはっはっ!! この世には4人だけ、わしを呼び捨てにしていい者がおる。それがこの、尾張の宝、カツトシとそこの3人じゃ。わしの友であり、尾張の恩人じゃ。この4人のおかげで、戦争で足軽に死人がでにゃあ。おみゃあもここにおるということは、カツトシの実力をその目でみたのであろう。どうじゃ」


「なっ!」


 小六さんが岸に打ち上げられた魚のように、口をパクパクしています。


「そんなことより、何しに来たの?」


「おお、そうじゃ。おキツの調子が悪いと聞いた。わしが行って、様子を見てきてやろうと思ってな。わしはカツトシに何もしてやれていない。嫌われんうちに、ここで点数稼ぎじゃ」


「うっ!」


 三郎は、わたくしの為に来てくれたのです。

 おキツ様の様子を見てきてくれるために、わざわざ清洲から敵地の真ん中へ。

 その心遣いに、一瞬で涙が目にこぼれそうなほど溜まりました。

 まあ、来ている事がバレても岩倉城主は、緊張状態とはいえ、おじさんですから殺されはしないのかな?


「少し待っておれ」


 三郎は白湯を飲みほすと、元気にボロ小屋を出て行きました。


「そういえば、三郎様は末盛で籠城戦の最中じゃなかったのか?」


 小六さんが言いました。


「し、しまった! 末盛の様子を聞くのを忘れました」


「ひゃははは」


 小六さんと藤吉郎が笑っています。

 こうして横に並んで笑っている2人は、良いコンビのように感じます。




「ふいー! なかなか骨が折れたが、おキツに会ってきた。体調は悪いようだが、相変わらず美しい顔をしておった。わしの好みの顔じゃ。ええ女じゃのう」


 そんな姿じゃあ、簡単には入れないでしょうね。

 むしろ、よく中門を通してもらえましたね。

 三郎は首だけ戸の中に突っ込んだだけで言いました。

 上がりこむのも面倒くさいようです。


 ――なにーっ!!


 三郎のやつ、わたくしのためとか言いながら、自分がおキツ様に会いたかっただけではないのでしょうか。

 泣きそうになって、損しました。


「ぷひっ!」


 わたくしが変な顔をしたためか、藤吉郎が吹き出しました。


「じゃあのう、わしは行くで」


「ちょっと、待って下さい。末盛城の籠城戦はどうなったのですか?」


 三郎がサッサと行こうとするので、急いで止めました。

 三郎はとたんに面倒くさそうな顔になり、戸を開けて中に入ってきました。

 この段階で、だいたい予想がつきました。


「聞きたいなら説明するが、長くなるぞ」


「ゴクリ」


 小六さんがツバを飲みました。


「勝った。じゃあのう」


 三郎は行こうとします。

 それだけかーい!!


「三郎! 真面目に!」


 わたくしは、ぎろりと見つめて言いました。


「ふふふ、しかたがないのう。末盛にもどった足軽達は、わしの言い付け通り飯をドンドン食った。権六も惜しげ無く炊き出しをした。約束じゃからのう。勘十郎には、乱取りが出来なかった足軽達の暴動を抑えるためには、これしか方法がありませんとでも言ったのだろう。おお、デェスすまんのう」


 ここで、デェスちゃんがまた白湯を運んでくれました。

 三郎は白湯を一口すすると続けます。


「何しろ、末盛城にはまともな兵士は、100人ぐらいしか残っておらん。1000人の足軽の暴動は止められんじゃろう。末盛城の備蓄米はすぐに底をついたようじゃ。籠城戦など想定しておらなんだのだろう。そこで、母に泣きついたのじゃ。勘十郎の母は、わしの母でもある。母の使者が秀子の所に来た。わしは秀子に呼び出され説教じゃ」


「ぷっ!」


 三郎を説教する、お秀ちゃんの姿が目に浮かび吹き出してしまいました。


「わしには、もともと弟を殺す気は少しもにゃあ。弟を殺せば世間の評判も悪くなるしのう。じゃから、弟が何をしようとゆるす気しかにゃあ。弟がお秀に連れられて頭を下げに来たから許した。それだけの事じゃ」


 三郎は、これからもかわいい弟が何をしても許すのでしょうね。

 やさしいお兄さんです。

 お秀ちゃんも安心でしょう。

 うふふ、かわいいお秀ちゃんが鼻の穴をぷくって膨らまして、三郎をにらみ付ける姿が思い浮かびました。


 末盛の戦争も、おキツ様の様子も、三郎のおかげですっきりしました。

 今日はよく眠れそうです。


「ふふふ、そうですか。お秀ちゃんもひと安心ですね」


「おい! カツトシ! わしにばかり話をさせて、おみゃあは明智の事を何も説明しとらんがや!」


 三郎は思い出したように言いました。

 わたくしは、おキツ様との明智からの逃亡道中の事を三郎に説明しました。

 ゆっくり丁寧に説明すると、三郎は満足して清洲に帰っていきました。






 しばらくは平穏な日々が続きました。

 三郎は、おキツ様の様子をわたくしに伝えるため、お忍びで、しょっちゅう小折城にやって来ます。

 まあ、わたくしのためと言いながら、美しいおキツ様に会いたいだけだと思いますけど。

 わたくしのボロ小屋にいれば、三郎に直接会えるので、藤吉郎と小六さんが居候になりました。

 小さなボロ小屋に男が6人同居です。勘弁して下さい。


 でも、平和は長くは続きませんでした。

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